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悪役令嬢転生シリーズ

悪役令嬢、ブラック企業の会社員に転生したので社長を地獄に突き落としてやりますわ。

掲載日:2026/09/19

 寝不足で疲れている頭に浮かぶのは、断罪されて悲鳴をあげる令嬢の記憶。



「……はっ!」


 そう、それは自分の前世……悪役令嬢オーレリア・ルージュの記憶だった。


「あら? わたくし……転生したのかしら」


 オーレリアは瞬時に自分が置かれている状況を考察する。


「転生先は……わたくしったら、ついてないわねぇ――……ブラック企業の会社員に転生してしまったわ」



 残業は毎日のこと。まともな休日は1年以上もないし、徹夜で仕事をするのも少ないことではないわ。給料は最低限のものしか払われず、残業代もなし。社長からの暴力も少ないことではない。


「……許せないわ」


 前世は復讐に生きて死んでしまったが、今回の人生は復讐をして幸せになるのもいい鍵かもしれないわね。


「この身体の持ち主……優里亜、絶対にわたくしたちを地獄の会社から救ってみせますわ!」




 次の日、わたくしは会社に出勤するためバスに乗っている間 作戦を考える。



「さて、手始めに違法の証拠をとりましょうか」


 なにか失言をすればそれを録音し、なにか社員に仕事を押し付けるようなことをしていたらそれを撮り、なにか違法をすればそれをノートに書きためるの。


 証拠が一定数たまるまで時間はかかるけれど、それは後の楽しみが延長されるだけのこと。


「わたくしは、やると決めたことはやり切るタイプなの。そんなわたくしに目をつけられた社長もつくづく運が悪いわね?」


 優里亜は仕事をかなり頑張っていたみたい。役職も課長だし、この立ち位置、利用させていただくわね。



 ……あら? 情報システム部が騒がしいわね。


「ちょうどいいトラブルが起こったみたいだわ」


 このトラブルの報告を口実にして、社長室へ会いに行きますわ!



「社長、情報システム部でトラブルが起きております。――……それで、ここはどう対処すればいいですか?」

「あぁ、そこはね――」



 今回は何もなかったわね。


 さすがにトラブルの対処を聞くだけでは失言を誘導できないわ。もっと何か…………。


「あ、忘年会があるじゃない!」


 お酒を飲ませれる絶好の機会よ!


 それまでにわたくしはいろいろな準備をしなくては。



 奇跡的に残業なしで帰れた夜、わたくしはスマホのネットショップを開く。


「まずは超小型録音機を買いましょう。あとは, カメラ付きのメガネね。値段は高いけれど、この後の利益を考えればこんなのちっぽけよ」


 忘年会まであと一ヶ月、配送されて届くまで確実に間に合うわ。


「このイベントが問題なく行えれば社長が地獄に落ちるまで2ヶ月といった感じかしら。思わぬ棚ぼただわ」


 そしてわたくしは、忘年会をほかの人とは違う意味で心待ちにするのだった。




◇◇◇◇◇



「乾杯――――!」



 ついに始まった忘年会。

 この日のため、準備は万端よ。


「ほら、社長も飲んで飲んで」

「お、ありがとうな」


 わたくしは社長のコップにビールをどんどん注ぐ。



 社長の顔が赤くなるたびに、わたくしは心の中でほくそ笑む。


 そしてついに酔いが限界を迎えた社長は、若い女性社員に説教をし始めた。


「お前がミスした分の赤字を、会社がどれだけ被ったか分かっているのか!?」

「ご、ごめんなさい……」


 この身体の記憶を探ると、確かにこの子がミスをしたことは何度もあるわ。でも、その分の赤字は給料から引いてたじゃない。


 わたくしはそっと社員に近寄り、録音機とメガネのカメラをオンにする。



「お前はなあ、いつもいつも――……」


 永遠に終わらないのかと思うほどの説教は、ほとんどデタラメなことしか言っていなかったわ。


 途中パワハラ気味た発言もあったし、お酒の力って本当にすごいわね。



「では、解散!」


 二次会も終えた深夜、わたくし達は帰ることになった。――……でも、まだ気を抜いては駄目だわ。


 帰り道、社長が何かしないか、店の外で少し離れて観察する。



 ……道が途中まで一緒だからって、社員をタクシーに同乗強制させようとしてるわね。


 わたくしはこれもメガネ型カメラの視線を向けて動画を撮る。


 ……社員が本当に嫌がってるし、助け舟を出そうかしら。ついでに証拠も増やすことも忘れない。


「社長、その子は家が逆方向ですわ。それより、うちの会社は休みも少なすぎます。もう少し増やしてくれるとありがたいんですが……」

「あぁ!? 俺の立ち上げた会社のおかげで生きていけてるのに、なんだその態度は!」



 ふふ、帰ってからも忙しくなるわね。でも復讐のためと思えば、なんにも苦じゃないの――


◇◇◇



 すべてが整った日、わたくしは労働基準監督署に証拠を提出する。


 労基はもちろん「これは悪質だ」と判断し、会社へ予告なしの立入調査に踏み切るようね。



 わたくしはいつものように仕事をしながら、ちらりと腕時計を見る。……そろそろ時間ね。


 社長がいつものように怒鳴り散らしているオフィスに、ヨレよれのトレンチコートを着た中年男性と、スーツ姿の若い男女数名が入ってくる。


「なっ、誰だ!? 部外者は出てい――」


 社長がそう言い切る前に、男性が警察手帳のような身分証を静かに突き出す。



「労働基準監督署です。労働基準法違反の疑いで、立ち入り調査に入ります」

「なんだと!? 何かの間違いだ! うちの社員はみんな納得して働いている!」


 額に血管が浮かび上がるほど怒りに震えている社長の顔は、次の瞬間真っ青に染まる。



 わたくしは手元のスマホを操作し、あらかじめ仕込んでおいたオフィスの50インチ大型モニターへデータを転送したの。


 次の瞬間、オフィス全体のモニターが一斉に起動し、メガネ型カメラが捉えた「社長のパワハラ発言や無理難題を押し付け、暴力を振るっている高画質映像」が備え付けのスピーカーから重低音の怒号とともに爆音で流れ出す。


「なっ……いや……これは、その……」


 あわあわしている社長にはお構い無しに、「これは決定的な証拠ですね。全パソコンのログとタイムカードを押収します」と役人たちが一斉にデスクへ散るのを見て、わたくしは復讐の成功を確信する。


 ……でもね、まだ社長の地獄は終わりじゃないの。


 わたくしはさっそうとスマホを取り出し、先ほどの社長のパワハラ発言や、無理難題を押し付けている等の画像をSNSに投稿する。



 本当に怖いのはお化けでも人間でもない。


 無数に拡散されて行く、1度投稿したらもう戻せないSNSの世界。



 これこそが、復讐のメインだった。




 あの後社長には押収されたデータから過去3年分の全社員の未払い残業代が計算され、数億円の支払い命令が下った。


 当然、そんな大金を払えるはずもなく会社は倒産寸前。社長は莫大な負債を抱えて破滅寸前よ。


 あぁ、あとね、わたくし社長になることにしたの。


 だって散々死ぬ気で仕事をしてきたのに、最後は会社が倒産して再就職は自分の力ですべてやれなんて冗談じゃないわ。ブラック企業から解放された後も辛い思いをしなければならないなんて。


 この国では、中年の人は特に再就職が困難となるらしいものね。


 そこで後日、わたくしは復讐の仕上げとして、破滅しかけた社長に司法取引を持ちかけたの。


「全社員の未払い残業代をわたくしが代わりに一括弁済する代わりに、あなたの持つ会社の全株式を二束三文で譲り渡しなさい」とね。



 社長は泣く泣くそれを承諾し、会社は合法的にわたくしのものになったわ。実質的な経営権を握ったわたくしが新社長に就任することへ、異を唱える上層部や社員は誰一人としていなかった。満場一致の流れね。


 前世は王太子妃になるための教育を受けてきたの。今世の記憶もあれば社長なんて余裕よ?


 経営陣を刷新し、徹底的なホワイト化を推し進めた我が社は、今や有数の大企業の1つ。わたくしの給料もかなりの金額よ。



 元社長がどうなったかなんて知らないわ。あらでも、最近道端で小汚い男性がいたかしら。




 こんなに事が上手くいくなんておかしい、とは少し思うわ。


 でも、前世は堂々と、そして隠密にいじめをしていた悪役令嬢なのよ?


 ちょっとした油断で命を落としちゃったけど、そのことを踏まえた状態で、しかも今世の記憶まであるとしたら上手くいかないほうがおかしいと思わない?



「社員たちは気づいてないみたいだけど、彼らはわたくしの野望を叶えるための駒同然」


 そうこうしているうちに出勤時間だわ。仕事に行かなければ。


 前世の重たいドレスとはまた違ったパリッとしたスーツを着て、わたくしは車に乗った。



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