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歓迎――サイショの村


この物語はフィクションです。


「よぉぉぉこそぉぉ、トモシビト様ぁぁぁ」

「我々の世界の救世主様ぁぁぁ」

「ああ、なんて神々しいのかしら」


シロウの声を聞きつけ、

何事かと村人たちが集まってくる。


そして、

アカリの姿を見た。


「……トモシビト様?」


誰かが呟いた次の瞬間。


村人たちはどっとアカリに押し寄せた。


困惑する間もなく、

囲まれ、担がれ、奉られ――


気がつけば、

宴の特等席にアカリとシロウは並んで座らされていた。


目の前では大きな火が焚かれ、

次々と料理や飲み物が並べられていく。


即席で作られた玉座のような椅子に、

アカリは落ち着かない様子で身を縮こまらせていた。


あれよあれよという間に、

歓迎の宴の準備が進み、

今や焚き火を囲んでの、飲めや歌えの大宴会だ。


焚き火の明かりに照らし出される、丸屋根の可愛い家々。

けれど、その配置はどこかちぐはぐだった。


「トモシビト様、これ、うちで採れた果物です!」

「こちらはいかがですか? 自信作のパイなんです!」

「飲んでますかい、救世主様」

「バカだねアンタ。どう見たって酒を飲む年じゃないだろ。

 導き手(みちびきて)様が、おっしゃってたじゃないか。

そうですよねぇ?」


問われて、

シロウは苦笑した。


「ええ、そうですね」


矢継ぎ早に飛んでくる好意に、

アカリは受け止めきれず困惑していた。


そんな様子を見て、

隣に座るシロウが、くすりと笑った。


「あ、あの……羽月くん?」


助けを求めるように、

アカリはそっと隣を見た。


アカリの様子を見て、

シロウはゆっくりと立ち上がった。


「みなさん、

アナタに出会えた喜びを、

どうにも隠せないようですね」


アカリの様子を見て、

シロウはゆっくりと立ち上がった。


――そして。


一度。

それからもう一度。


両手を打ち鳴らす。


その場にいた全員の視線が、

一気に集まる中――


シロウは僅かに眉根を寄せた。


「みなさん。

お気持ちは、よくわかります。


ですが、少し落ち着いてください――でないと」


一拍。


「灯シ人様が、

困ってしまいますよ?」


その瞬間。


場の空気が、

一瞬で凍りついた。


騒々しさも、賑やかな声も、

すべて消え去ったかのように、静まり返る。


パチパチと、

焚き火が爆ぜる音だけが、やけに響いていた。


呼吸さえも忘れる沈黙の中、

アカリは、シロウを見上げる。


「……は、づきくん?」


思わず、声がもれてしまった。

ハッとして、慌てて口元に手を当てる。


そんなアカリを見て、

シロウはふわりと微笑んだ。


「みなさん。

好意はほどほどに、

お願いしますね」


穏やかに告げると、

何事もなかったかのようにシロウは座り直した。


シロウの言葉と行動に、

村人たちがほっとした。


そこかしこから、

安堵のため息が漏れる。


――そんな中。


ひとりの村人が、

慌てた様子で駆け込んできた。


アカリたちの接待を率先して行っていた村長に、

なにやら耳打ちする。


「……むっ」


目を僅かに見開き、小さく唸る。


その様子に、どうしたのだろうと

アカリは視線を向けた。


――アカリと村長の目が合う。


「……あ、あートモシビト様。

導き手様」


彼は気まずそうに視線を泳がせた。


「申し訳ございませんが、

少し席を外させていただきます」


深々と頭を下げると、

村長はそそくさとその場を離れていった。


「なにかあったのかな?」


去っていく村長の背中を見ながら、

アカリは呟いた。


「ふむ」


同じく村長の背中を追っていたシロウが、

顎に手をあてる。


――やがて。


「少し席を外しますね。

アナタは、ここにいて下さい」


シロウが、すっと立ち上がる。


「……あ、はい。わかりました」


アカリの返事を聞くと、

シロウは村長の後を追って歩き出した。



「……羽月くんも、何か用事ができたのかな?」


そうぼんやり思いながら、

アカリは注いでもらったオレンジ色のジュースに

そっと口をつけた。


□□■■■


村の中央で燃え盛る焚き火の、

熱も光も届かない場所。


誰かの家の軒下に、

村の男が三人、身を寄せ合うように集まっていた。


なにやら深刻そうに、

声を潜めて話し込んでいる。


「……だめだ、村長。これ以上は……」


「……しかし、トモシビト様が現れた。

なんとかせねば……」


深刻そうに相談していた三人の背後に、

いつの間にか影が立っていた。


「こんばんは」


『ひぃっ!?』


三人は恐る恐る振り返る。


そこにいたのは――

穏やかな笑みを浮かべたシロウだった。


三人は一斉に震え上がり、

互いに身を寄せ合った拍子に、どさりと倒れ込む。

どうやら腰が抜けたらしい。


「あ、あああの……こ、こんばんはぁ」

「い、いい夜ですねぇ……」


明らかに動揺する大の男たちを、

シロウの威圧的な視線が、静かに捉える。


「それで?」


一歩、距離を詰める。


「いったい、どうされたのですか?」


氷のように冷たい青い瞳が、

三人を見下ろす。


男たちは声も出せず、

ただ震えることしか出来なかった。


しばしの間。


互いに顔を見合わせ、

そろって生唾をゴクリと飲み込む。


やがて、

村長が恐る恐る口を開いた。


「じ、実は……食糧が、そのぉ……

 連日の異常気象で、あまり実らず……でして」


青い瞳の威圧感に気圧されながらも、

村長は懸命に言葉を紡ぐ。


背後に控えた二人の男は、

そんな村長の肩を掴み、

文字通り支えていた。


「なるほど。

それで?」


瞬きすらせず、

シロウが先を促す。


「こ、このままですと……

 む、村の食糧庫が……空に。


 そうなったら、儂ら……

 明日から、どうすれば……」


村長の必死の懇願は、

次第に尻すぼみになっていく。


しかしシロウは、


「それで?

どうしてほしいのですか?」


静かに同じ質問を繰り返した。


「こ、この宴を……ですね」


「……」


「そ、そろそろ……お開きにして……

いただけると……」


「……」


「た、助かるの……で、ですが……」


逃げ出したい衝動を必死に抑えながら、

村長はようやく言葉を絞り出した。


シロウは何も言わない。


ただ見下ろしたまま、

顎に手をあてて思案する。


その沈黙が、

男たちには何より恐ろしかった。


シロウはちらりと、

宴の特等席に座るアカリへ視線を向けた。


一瞬、アカリと目が合う。


ふっと笑い、

小さく手を振ってみせると、


再び男たちへ目を戻した。


「……そうですねぇ」


まるで死刑を待つ囚人のような面持ちで、

男たちは目の前の支配者の言葉を待つ。


――沈黙。


シロウにとっては一瞬。

だが男たちにとっては、

永遠にも思えるほど長い沈黙のあと。


「わかりました」


シロウは、

実にあっけなく言った。


村長たちに笑顔を向ける。


一瞬。


いったい何が起こったのかわからず、

三人はそろって口を開け、

呆けたような顔になった。


――が。


次の瞬間。


『やったぁぁぁぁぁぁぁ!』


「ああ、ありがとうございますぅ……

 ありがとうございまずぅぅ……!」


三人は首が落ちる勢いで何度も頭を下げ、

涙を浮かべながら互いに喜び合った。


少しよろめきながら、三人は立ち上がる。


村長はゆっくりとシロウに近づき、

思わずその両手を取った。


「ほ、ほんとうに……

 なんと言ったらいいか……」


シロウは深々と頭を下げる村長の頭頂部を見据える。


「いえ、こちらこそ」


にこやかに言葉を返した。


「こんな大変な時期に、ご協力いただき、

ありがとうございました。


 灯シ人様も、

 きっとご満足いただけたことでしょう」


「あああ、そう言っていただけただけで……

 ありがたき幸せぇぇ……」


「これで、飢えずにすむぞぉ……」


安堵と喜びに満ちた男たちに向けて、

シロウはさらに言葉を重ねた。


「では。

 すぐに、灯シ人様がお休みになられる部屋を

 ご用意ください」


『は、はい!?』


「お、おい!

 今すぐ、女たちを集めろ!」


「俺、嫁さんに言ってくる!」


喜色満面の笑顔を浮かべたまま、

二人の男は慌ただしく駆け出していった。


男たちの背中が遠ざかっていくのを、

シロウは静かに見送る。


「では、あとは頼みましたよ」


残された村長の返事も待たず、

シロウはさっさと歩き出した。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


その頃――

特等席に残されたアカリは。


次回

『灯し人の役目』


次回更新予定

3月22日(日)21:00頃(予定)

※変更になる場合があります

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