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お姫様ですが、勇者になりたいんです― ヒロイン役を降りて、剣を取りました ―  作者: 亜久美 圭


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並び立つ二人

リーダーの男の腹部に突きつけられた刃。


緊張が張り詰める。

誰もが動けず、息を呑んだ。


「リリア!」


静寂を破るように、カイリウスが叫ぶ。


リリアーナは理解した。

――魔法を使え、という合図だ。


リリアーナは共鳴魔法で、手足の縄を断ち切った。

そのまま素早く、カイリウスの元へ駆け寄る。


「カイ!大丈夫?」


「あぁ……この程度、なんともない」


(いやいや……絶対大丈夫じゃないでしょ)


(カイのことは心配だけど――今はこの状況を切り抜けるのが先だ)


リリアーナはチラリと背後を見た。

先程男が手にしていた角材が転がっている。


「リリア……よく聞け」


刃を突き付けたまま、カイリウスが低く囁く。


「お前は逃げろ」


その瞳は強い意志を宿し、真っ直ぐにリリアーナを射抜いた。


リリアーナは、目を見開き、首を振る。


「なんで……そんなこと、できない……」


動揺するリリアーナに、カイリウスは静かに言った。


「いいか……よく聞くんだ。俺は自分のことは、なんとかする。だからリリアは先に逃げろ」


「カイ……そんなこと、できないよ」


「いいから。ここを出て、助けを呼ぶんだ。後で必ず行くから」


カイリウスは静かに微笑んだ。


(……なんでこんな時に笑うのよ)


心配させまいとしているのが、痛いほど伝わってくる。

胸の奥がぎゅっと締め付けられた。


(どこまでも、王子なんだから……)


――だけど。


リリアーナは、視線を足元へ落とし、大きく息をついた。


(私は――守られているだけなんて、嫌なの!)


ゆっくりと顔を上げ、前を見据える。

その瞳の奥には、先ほどにはなかった、強い決意の光が宿っていた。


カイリウスは、そのわずかな変化を見逃さなかった。


「……リリア?」


そのとき――


一瞬の油断。


男はカイリウスの手にしたナイフを叩き落とし、するりと身を引いて距離をとった。


「しまった!」


ナイフが床に転がる。

男は完全に自由になった。


「……残念だったな」


男はにやりと口元を歪める。


リーダーの男のもとへ、他の四人が集まる。

そして、じりじりと、二人へと間合いを詰めた。


「……っ!」


カイリウスは、リリアーナの一歩前に出る。

その背に、庇われているのだとすぐに気づいた。

 

(もう……自分ばっかり、いいかっこして……)


その優しさが、胸にじんと広がる。


――でも。


「……カイ、剣は使える?」


「え?あぁ……」


突然の問いに、カイリウスはわずかに目を見開いた。


「後ろに一本、あと向こうにも角材が見えるでしょ。カイは後ろのを使って。私はその間に、向こうのを取ってくるから」


「いや。危ないから、俺から離れるな」


カイリウスはそう制したが、次の瞬間――リリアーナはすでに飛び出していた。


「リリア――!!……くそっ」


男たちは、突然動いたリリアーナに、目を奪われた。

 

――その隙に。


カイリウスは素早く後ろへ下がり、床に転がっていた角材を拾い上げた。


「リリア……なんて無茶を」


小さく呟く。

だが、その声は、リリアーナには届くことはなかった。


男たちが、一斉に動く。


カイリウス――そしてリリアーナへと迫る。


(リリア……頼む。俺が行くまで無事でいてくれ!)


一人の男がカイリウスに迫る。

目の前まで踏み込み、勢いよくその角材を振り下ろした。


(遅い!)


男が振り下ろすより先に、カイリウスの角材が真横から叩き込まれる。


バン!

 

重い音が響いた。


「ぐあ――!」


男の体がくの字に折れ、そのまま膝をつく。


間髪入れずに、別の男が迫る。

 

躊躇なく、角材を振り下ろしてきた。


(動きが大き過ぎる!)


カイリウスは素早く身を引き、男の背後に回り込む。


そして――


真上から角材を叩き落とした。


ガンッ!


鈍い音が響く。


頭に直撃。

男は力なく、そのまま前方へと倒れ込んだ。


床に倒れた二人の男を前に、リーダーの動きが止まる。


一瞬の静寂が流れた。


そのとき――


「うわぁー!」


男の絶叫が響く。


声がした方へ目を向けると――そこには凛と立つリリアーナの姿があった。

 

その足元には、床に手をつく男。


別の男が、雄叫びを上げながらリリアーナへ迫る。


「リリア!!」


名を呼んだ、その直後――


リリアーナは膝を落とし、男の懐へと潜り込む。

 

そして――


バンッ!


鋭い音とともに、角材がみぞおちへと叩き込まれた。


「がっ――!」

 

男は息を詰まらせ、そのまま膝から崩れ落ちた。


(まさか……!リリアが……)


カイリウスは、目の前の光景に、現実味を見いだせなかった。


(あの小さくて華奢なリリアが……)


(大の大人相手に、戦っている……)


リーダーの男もまた、その姿に目を奪われていた。

完全に動きが止まり、意識もカイリウスからリリアーナへと移っている。


「嘘だろ……」


驚愕に目を見開き、ただ唖然とする男。


それは、カイリウスも同じだった。


(リリア……君は一体……何者なんだ?)


右手に角材を握る、幼き少女――

 

凛とした横顔。

強い意思を宿した瞳。

 

華やかなドレスを翻し、光を受けて輝く髪を靡かせながら、戦場を舞う。


目が離せない――

 

その姿は、幼いながらも、まるで戦場を駈ける女神のようだった。



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