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お姫様ですが、勇者になりたいんです― ヒロイン役を降りて、剣を取りました ―  作者: 亜久美 圭


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静寂を裂く刃

男たちが揃う。

数は、全員で五人――。

 

男たちはリリアーナとカイリウスを取り囲んだ。


静かな緊迫感が、その場を支配する。


やがて、その中の一人が口を開いた。

 

背が高く、細身の男。額に布を巻いている。


「おい……なんで二人いるんだよ!あの女は誰だ?」


「それが……一緒にいたんだ。大声を出して叫んだから、仕方なく……」


背が低い、ややふっくらとした男が答える。


「はぁ?!どうすんだよ!依頼されたのはこの王子だけだろ?……ったく、面倒事増やしやがって」


苛立ちを隠そうとせず、細身の男は吐き捨てた。

対する太めの男は、明らかに焦っている様子だ。


(なるほど……この細身の男がリーダーなのね)


「あの……」


別の男が、リーダー格の男の耳元に顔を寄せ、ひそひそと囁く。


「……もしかして、あの女は……ここの王女じゃないですか?」


「はぁ――?!」


リーダー格の男の怒号が、倉庫に響き渡った。


「……お前、本当に何やってんだよ……アルディアの王女に手ぇ出したなんてバレたら、この国を敵に回すことになるんだぞ!」


強い口調で、太めの男に怒鳴りつける。


「ご、ごめん……」


太めの男は青ざめ、うろたえた。


そのやり取りを聞きながら、リリアーナは理解する。

 

――やはり狙いは、カイリウスだった。


「ちっ……こうなったらもう二人共処分するしかないな」


処分――。


その言葉が、重くリリアーナの胸に沈む。


リーダーの男が、ゆっくりと足音を響かせながら、近づいてくる。


そして、リリアーナの前で立ち止まり、ゆっくりとしゃがみ込んだ。


男と目が合う。


背筋をなぞるような嫌な感覚。

 

「嬢ちゃんに恨みはないが、このまま帰すわけにはいかねぇ。王子と一緒にいたことを、不運だと思うんだな」


男は口角を歪め、にやりと笑った。

ぞっとするような、嫌な笑みだった。


(このままだと……二人ともやられてしまう)


リリアーナは、背中に回された手に意識を向ける。

縄に触れる感覚を辿り、静かに集中した。


(共鳴魔法を使って、この縄を解くわ)

 

わずかに、リリアーナの手元が淡く光を帯びる。


「リリア!」


名を呼ばれ、はっと顔を上げた。


カイリウスと目が合う。

 

そして――。


彼は、静かに首を振った。


(え……?)


思考が止まる。


その瞳は、静かに、だが確かな意志を宿して、リリアーナを制した。


(……魔法を使うな、ってこと?)


胸がざわつく。


リリアーナはゆっくりと息を吐き、意識を解いた。

 

わずかに灯った光は、すぅと消えていく。


(どうして……?)


カイリウスの意図が分からない。


けれど、その目から視線を逸らすことはできなかった。


やがてリーダーの男は、リリアーナに背を向け、カイリウスの元へと歩み寄る。


「お嬢ちゃんの前でかっこつけたいんだろうが、残念だったな。二人とも今日ここで終わるんだよ」


男は鼻で笑い、見下ろした。


「……お前ら……俺に手を出したらどうなるのか、わかっているのか?無事ではすまないぞ」


「はぁ?!どうやら今の状況がわかっていないようだな。おい……」


太めの男は倉庫の隅へと足早に向かい、そこに立て掛けられていた一メートルほどの角材を手に取った。


(まさか……)


嫌な予感が、胸を締め付ける。


太めの男は、そのまま角材をリーダーの男に渡した。


受け取った男は、何の躊躇もなくその角材を――


振りかぶった。


バシッ――!


鈍い重たい音が、倉庫に響く。


「……っ!」


声にならない息が、カイリウスから漏れる。

衝撃で体が揺れるが、どうにか踏みとどまった。


「カイー!!」


悲鳴のように、リリアーナは叫んだ。


(どうしよう……やっぱり共鳴魔法でこの縄を……)


カイリウスと再び目が合う。

 

だが、やはり首を横に振る。


(なんで……)


カイリウスは痛みに顔を歪めながらも、ゆっくりと男を見上げた。


「……お前たち、アグリアの北側からきた者だな。言葉にわずかな訛りがある」


「は?!し、知るかよ。今そんなこと、どうでもいいだろ!」


男は声を荒らげる。


――過剰な反応。


カイリウスは、確信したように呟いた。


「……図星か」


静かに言い放つカイリウス。


「北側なら――ヴァルグリフ公爵の差し金か?」


「ちげぇよ!俺たちはただの……」


男ははっとして言葉を止めた。


「……ただの、何だ?」


低く問いかけるカイリウス。


男は舌打ちをし、苛立ちをぶつけるように吐き捨てた。


「……裏でお前に懸賞金が出てんだよ。しかも破格のな」


(まさか……)


リリアーナは思わず息を呑んだ。


アグリア王国の皇太子であるカイリウスに懸賞金がかけられている――。

そんなことがあってもいいの……?


その言葉に、嘘はないように思えた。


「……そうか」

 

小さくカイリウスが呟く。


その、次の瞬間――


縄で縛られているはずのカイリウスが、勢いよく立ち上がった。


「なっ――!?」


男たちの目が見開かれる。


カイリウスの右手には、小型のナイフが握られていた。


一瞬の出来事で、誰も反応できない。


カイリウスは一気に間合いを詰めて、リーダーの男の懐へと滑り込む。


「……なら、貴様らに用はない」


その声は、低く冷たい。

 

気づいた時には、刃は男の腹部へと突きつけられていた。


(いつの間に縄をほどいて――?)


「動くな」


その場にいた誰もが、息を呑み凍りつく。


あまりにも鮮やかな一瞬の出来事に、リリアーナはただ呆然としていた。

 


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