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お姫様ですが、勇者になりたいんです― ヒロイン役を降りて、剣を取りました ―  作者: 亜久美 圭


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花祭りの影

露店の並ぶ華やかな通りを歩いていると、音楽が聞こえてきた。

音のする方へ目を向けると、広場があり、人が集まっている。


「何かしら?」


二人は、その広場へと足を向けた。


まだ手つかずの広い空き地に、人々が集まっている。

軽やかなバイオリンの音が響き、それに重なるように陽気なアコーディオンの音色。

誰かが足を踏み鳴らし、手を叩き、笑い声が広がる。

 

大人も、子供も、気づけば輪の中に入り、自由に踊りを楽しんでいた。


それは社交界のような決まった踊りではない。

優雅さを競うものでもない。

ただリズムに乗り、皆が思い思いに体を揺らしている。

そこにあるのは――心からの笑顔。


「……楽しそう」


(私も踊ってみたい)

 

リリアーナは、思わず胸が弾むのを感じた。


「ねぇ、私たちも踊りましょ?」


笑顔で問いかけるリリアーナ。


「はぁ!?」


カイリウスは驚き、そして少し怪訝な顔でリリアーナを見る。


「……私と踊るのが嫌なんですか?」


リリアーナは少しむくれながら尋ねた。


「いや……そういうわけじゃないが……」


困ったように目を逸らすカイリウス。


その様子に、リリアーナはにっこりと笑う。


「ならいいじゃないですか。少しだけ……ね」


カイリウスの手をやや強引に引き、広場の輪の中へと入っていく。


「あ、おい……」


周囲では、楽しそうに人々が踊っている。


「さ、私たちも踊りましょ」


「だが……このような踊りはやったことがない……」


「深く考えないで、音楽に身を委ねて、自由に動けばいいんですよ。踊り方なんて決まっていないんですから」


リリアーナは音楽に合わせて、体を揺らし始めた。


「ほら……カイも。この中で踊らない方が目立ちますよ」


くるくると楽しそうに舞うリリアーナ。


「わ、わかった……」


促されるまま、カイリウスも体を揺らし始める。

だが、その動きはまだぎこちない。


「ふふ……。カイ、力抜いてください」


困惑した表情のカイリウス。


「こ、こうか……?」


「はい。それと……笑顔で」


「わかった」


次第に力が抜け、音楽を楽しむように体を揺らし始めた。


「そう、その調子です」


しばらくすると、最初は硬かったカイリウスの表情もやわらぎ、自然な笑顔で踊れるようになっていた。


そして二人は、いつの間にか輪に溶けこみ、心からそのひとときを楽しんでいた。


やがて、軽やかで陽気な音楽が静かに終わる。


「……ふう。なかなか楽しいものだな」


「でしょう?何にも縛られずに、自由に踊るのって気持ちいいんですよ」


「……そなたは、前にも経験したことがあるようないい方をするな」


リリアーナの胸が大きく波打つ。


「はは……まさか……私も初めてですよ。きっと自由に踊れたら気持ちいいだろうなと思っただけです」


「そうか……」


(あぶない、あぶない……)


内心、ひやりとした汗が流れた。


そして音楽は、先程の陽気な旋律からしっとりと落ち着いた旋律へと切り替わる。


ゆるやかに流れる音色は、どこか心を撫でるようで。

先ほどまでの賑やかな音楽とは違う、静かな熱を帯びていた。


自然と人々の動きも変わり、手を取り、寄り添うように踊る者たちが増えていく。


(これは……!)


リリアーナの鼓動が、どくんと大きく跳ねた。


(二人で踊るやつよね……?)


そしてリリアーナの相手は一人しかいない。

目の前にいる――カイリウスだ。


(どうしよう……さすがに気まずいんだけど……)


さっきまでは普通に話していたはずなのに、急に距離が近く感じてしまう。


リリアーナは目を伏せ、動けなくなっていた。


そのとき――


すっと視界に差し出される手。


「ここで踊らない方が目立つ、んだろ?」


少し口角を上げ、真っ直ぐにリリアーナを見るカイリウス。

その瞳は、わずかに熱を帯びていた。

 

向けられた瞳に、リリアーナの胸が強く弾む。


「……わかったわ」


差し出された白く美しいその手を、リリアーナが取ろうとした――そのときだった。


パンッ――!


乾いた破裂音が、空気を切り裂いた。


「なに……?」


一瞬、何が起きたのかわからなかった。


次の瞬間、白い煙が立ち上る。

その煙は瞬く間に広場全体を覆い尽くした。

 

混乱――

 

あちこちで悲鳴が上がる。


煙で周囲の様子が見えない。

目の前にいるはずのカイリウスの姿さえ見えなくなった。


(何も見えない……何が起きてるの?)


煙が目にしみる。

息が苦しい。


逃げ惑う人々が押し合い、ひしめき合い、さらに悲鳴が広がる。


「きゃっ!」

 

リリアーナも背中から強く押され、体勢が崩れた。


倒れる――


そう思った瞬間。


「リリア!」


ぐいっと強く手を引かれる。

そして――カイリウスの腕の中へ。


見上げると、そこにはカイリウスの顔があった。


「大丈夫か?」


鋭く警戒するその表情が、ただごとではないと告げていた。


「……大丈夫」


リリアーナはその顔を見て、張り詰めていたものがほどけ、わずかに安堵した。


「一体、何が起きてるの?」


「それは――」


言いかけた言葉は、最後まで紡がれることはなかった。

カイリウスの口が、白い布で塞がれたのだ。


「カイ!!」


リリアーナの手から力が抜ける。

その温もりが、するりと滑り落ちた。


「ちょっ……カイに何するの!」


リリアーナは叫ぶ。


だが――


次の瞬間、リリアーナの口もまた布で塞がれた。


嫌な匂いが鼻につく。


(これ……まさか……)

 

意識がぼんやりと霞んでいく。

音が遠のく。


「カ……イ……」


伸ばした手は空を切った。


そして――

リリアーナの瞼が、静かに閉じられた。



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