一口の答え
城門の外には、多くの人々が集まっていた。
隣国アグリア王国からの使節団が到着するという知らせは、すでに町中に広がっている。
兵士たちは城門の前に整列し、槍を静かに地面へと突き立てていた。
その後ろでは、城の役人や騎士たちが固い表情で道を見つめている。
やがて、遠くの街道の向こうに土煙が上がった。
「来たぞ……」
どこからともなく声が聞こえた。
小さく見えていた人影が、次第にはっきりとしてくる。
旗を掲げた馬車の列がゆっくりとこちらへ近づいてきた。
白地に金の紋章――アグリア王国の旗だ。
城門の前に、緊張が静かに広がる。
隣国からの使節団が、ついにアルディアへ到着した。
張り詰めた空気の中で、リリアーナは静かに息を飲んだ。
(緊張する……)
馬車の扉が開いた。
ゆっくりと降りてくる。
大人の官僚らしき男性が三人。
そして奥の、一番豪華に装飾された白い馬車の扉が、わずかに開いた。
騎士たちも、先ほど降りた三人の官僚も、一斉にその馬車へと視線を向けた。
緊張感がさらに増した。
(……この中にアグリアの王子がいるんだ)
リリアーナも、これから降りてくるその人物を見ようと、一点を見つめた。
従者を伴い、ゆっくりと姿を現す。
その姿が、ついに露わになった。
アグリア王国の唯一の若き王子――カイリウス・セリウス・ファレン。
(この人が、カイリウス……)
リリアーナは、しっかりとその横顔を見つめた。
銀糸のように流れる髪。
硝子細工のような、神秘的なブルーの瞳。
凛とした整った顔立ち。
息を呑むほど整った美少年だった。
リリアーナより少し背が高い。
そして、その佇まいもまた美しかった。
眩しいほど白くまっさらな服には、豪華な黄金の刺繍。そこにはアグリアの紋章が刻まれている。
まさしく、誰もが見ても王子の存在感を放つカイリウス。
(こんな綺麗な子が亡くなるなんて……)
ゲームの中では名前しか出てこないが、まさかこんな美少年だとは思わなかった。
(ゲームの原作者は何考えてるのよ!勿体なさすぎるでしょ!)
カイリウスが目線を上げた。
(あ……)
目が合う。
だが、すぐにリリアーナから視線を外した。
父・アルベルト、母・リュシア、兄・ヴァルター、そしてリリアーナが横並びで整列する。
その前に、三人の官僚、そしてカイリウスが並んだ。
「遠いところを、よくお越しくださった。カイリウス皇太子殿下」
カイリウスは胸に手を当て、静かに頭を下げた。
「こちらの要請をお受けくださり、感謝いたします。アルディア王」
わずか九歳とは思えない、落ち着きと冷静さ。
隣国の王を目の前にしても、まったく動じず挨拶をするその姿は、すでに王の風格があった。
「さぁ、リリア。挨拶しなさい」
父・アルベルトに促される。
「リリアーナ・アルディア・クラウンと申します。お初にお目にかかります、皇太子殿下」
リリアーナは、その小さな手でスカートの裾を広げて、腰を落として一礼した。
ゲームで悲劇的な終わりを迎えるカイリウスがいる――
そう思うと、心臓の鼓動が治まらなかった。
「アルディア王国の小さな星にご挨拶申し上げます。カイリウス・セリウス・ファレンと申します」
カイリウスもまた、胸に手を当て、頭を下げる。
しかし――。
違和感があった。
(全然目が合わない。やっぱりアルディアは敵国と思われてるから嫌われてるのかしら……)
「カイリウス皇太子殿下、もし不便があったなら遠慮なく申されよ。では、部屋を案内させよう」
「皇太子殿下、そして皆様、客間へご案内いたします」
カイリウスと三人の官僚は、アルディア城の客間へと向かった。
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夕食の時間。
アルディア王国
国王・アルベルト、王妃・リュシア、皇太子・ヴァルター、王女・リリアーナ
アグリア王国
皇太子・カイリウス、官僚二人
一同は席に着き、食事が運ばれてくるのを待っていた。
料理が来るまでの間、それぞれが情報交換を兼ねて雑談を交わす。
リリアーナは、ただその様子を黙って聞いていた。
(特にはなすこともないしなぁ……)
だが、目の前の若き王子は、大人たちの会談の中でも対等に、まったく引けを取らない受け答えをしている。
(まるで小さな大人みたい……)
やがて食事が運ばれた。
今回の使節団の目的は、芋を使った料理を披露すること。
先日の孤児院でのバザー料理をはじめ、料理人が考案した料理が並ぶことになっていた。
(新しいじゃがいもを使った料理、楽しみだなぁ……)
まず一皿目。
「こちらは?スープのようだが……」
目の前に運ばれた料理を見て、カイリウスが尋ねた。
今日は料理長も同席している。
料理長が直接、料理の説明をした。
「こちらは、じゃがいものポタージュになります。じゃがいもと玉ねぎを薄切りにし、水とブイヨンで柔らかくなるまで茹でた後、なめらかになるまですり潰し、牛乳を加えたものです」
カイリウスが、ふとワゴンの方へ視線を向けた。
「それがじゃがいも……というものか?」
そこには、籠に入れられた、生のじゃがいもが置かれていた。
「はい。これがじゃがいもです。このようにすり潰したり、そのまま調理したりと、さまざまな形に変えることができます。料理の幅は格段に広がると思います」
「なるほど……」
「では、皆の者。いただくとしよう」
アルベルトの一言で、食事が始まった。
リリアーナもスープを一口飲む。
「美味しいっ!すごく美味しいわ」
リリアーナが思わず声を上げる。
「ありがとうございます」
料理長が嬉しそうに頭を下げた。
アルベルト、リュシア、ヴァルターも、じゃがいものポタージュを口にし、次々と絶賛の声を上げる。
その様子を見たカイリウスもスプーンをとり、一口飲んだ。
その瞬間。
まるで時間が止まったかのように、カイリウスの動きが止まる。
そして、ゆっくりと言葉を吐き出した。
「……うまい」
その一口で、場の空気が一気に和らいだ。
「これは美味しいですね。あとでそのレシピを教えていただけますか?」
カイリウスは目を丸くし、素直に美味しさを表情に出している。
「もちろんです。後ほど紙に書いてお渡しいたします」
料理長が静かに頭を下げた。
だがその表情には、嬉しさが隠しきれていない。
(よかった。上手くいって)
「まだまだじゃがいもを使った料理をご用意しておりますので、この後のお食事も、ぜひ楽しまれてください」
料理長の顔が明るくなる。
その後も、じゃがいもを使った料理が次々と運ばれてきた。
そして最後には、さつまいものデザートまで。
最初から最後まで、アグリアの使節団――そしてカイリウスも、満足そうに食事を楽しんでいた。




