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お姫様ですが、勇者になりたいんです― ヒロイン役を降りて、剣を取りました ―  作者: 亜久美 圭


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小さな行列

「よし!完璧ね」


リリアーナは額の汗を手の甲で拭った。

テーブルには出来上がった料理が並んでいる。


ポトフ、マッシュポテト、焼き芋。

そして料理人が考案した、じゃがいものガレット。


ふわりと鼻腔をくすぐる香りが漂った。


「これは……美味そうだな」


料理を見つめ、ごくりと喉を鳴らすサクマ。

口元がゆるんでいる。


「ちょっと……ヨダレ垂らさないでよね」


「そ、そんなことするかよ」


慌てて視線を逸らすサクマに、リリアーナは微笑んだ。


「手伝ってくれてありがとう……。皆も、ありがとうね」


サクマと孤児院の子供たちに礼を言う。


(皆の協力があったから出来た……)


やり遂げた達成感に、皆いい顔をしている。

リリアーナの胸にも、久しぶりの達成感が広がっていた。


(あとは、これを皆に食べてもらわなきゃ)


「サクマ。あと少しだから、付き合ってくれる?」


「もちろん。俺はお姫様の護衛騎士だからな」


にかっと笑うサクマ。

真っ直ぐな瞳だった。


「ありがとう」


リリアーナは心から礼を言った。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


開催の時間になると、少しずつ人が入り始めた。


普段は当人たち以外、ほとんど入ることのない孤児院。

だが、ここでは三ヶ月に一度、バザーが開かれている。

 

民衆との交流、そして小規模ながら、運転資金を集めるのが目的だ。

何より、孤児院の子供たちが楽しめる大切なイベントでもある。


今回のバザーでは、料理以外にも、孤児院で作った手作りの雑貨や野菜などが並んでいる。

店で買うよりも安いため、買い物目当てで訪れる客も多い。


(ここで、この芋が美味しいってことを、皆に分かってもらえたら……)


リリアーナは積極的に声をかけた。

 

「いらっしゃいませ。食べていかれませんか?」


通りかかる人に明るく声をかける。


「とても美味しいですよー」


しかし、なかなか立ち止まってもらえない。


「リリア」


聞き覚えのある声だった。

しかもこの愛称で呼ぶ人物は、あの人しかいない。


「お兄様」


振り向くと、そこには兄のヴァルターが立っていた。


「来てくださったんですか?」


「そりゃリリアが頑張ってるからな、様子くらい見に来るだろ」


優しい兄の笑顔。

 

だが――。


「その髪はどうされたのですか?」


ヴァルターの髪は、本来リリアーナと同じ艶やかなプラチナブロンド。

しかし今は、薄いブラウンの色をしていた。


「あぁ、知り合いの魔法使いに髪色を変えてもらったんだ」


「まぁ!」


思わず声が漏れる。


(魔法でそんなこともできるのね)


髪色を変えたヴァルターは、民衆の服を身につけている。

それでも、その姿勢や佇まい、整った顔立ちからは隠しきれない品の良さがあった。


(さすがお兄様だわ……)


「どうだ?様子は」


「それが……まだ始まったばかりですが、誰も立ち止まってくれなくて」


「そうか……では最初の一杯は、私がいただくことにしよう」


「ありがとうございます、お兄様!」


リリアーナはポトフをよそった。

 

野菜の旨みと香草の香りが、湯気とともにふわりと漂う。


「うむ。実に良い香りだ」


ヴァルターはゆっくりとスープを口に運んだ。


「……うむ。うまい!」


思わず声が漏れる。


「野菜の旨みがよく出ている。実に奥深いスープだ」


「よかったです」


続いて、じゃがいもをスプーンで崩して口へ運ぶ。


「中まで味が染みていて美味い。このほくほくとした食感もいいな」


「ありがとうございます」


ヴァルターはしみじみと言った。


「あの日、俺だけ試食できなかったからな。今日は必ず食べようと思って来たんだ」


「お兄様……」


「リリアーナの料理を食べられて、しかも俺が最初の客だ。来て本当によかった」


その言葉に、リリアーナは苦笑いする。


「あはは……お兄様、皆で作ったんですよ。私だけが作ったわけではありません」


「いや、いいんだ……。俺が一番だからな」


ニヤリと笑うヴァルター。


(だから皆、私のこと好きすぎるのよ……)


その時だった。


「あの……」


後ろから女性の声がした。


「私にもそのスープ、いただけますか?」


女性はヴァルターのポトフを見つめていた。


「とても美味しそうだったので……」


「もちろんです!すぐにご用意しますね」


どうやら、ヴァルターの美味しそうに食べる姿が宣伝になったようだ。

目を引く美しい容姿のヴァルターが、美味しいと言いながら食べているのだ。


(なるほど……これはすごい宣伝効果だわ)


リリアーナは女性にポトフを渡す。


女性は湯気の立つスープを一口飲んだ。


「美味しい!」


女性は目を輝かせながら言った。


「他の料理も食べてみたいわ」


「はい、ぜひ。こちらも食べてみてください」


マッシュポテトとガレットを皿に盛る。


一口。


「何これ!とっても滑らかで美味しいわ」


さらにガレットをぱくり。


「外側がカリカリなのに、中はもちもち……すごく美味しい!」


女性は驚いたように言った。


「これは何の食材を使っているの?」


「これはですね――」


リリアーナは箱から泥付きのじゃがいもを取り出した。


「じゃがいもという野菜なんです。山間部でとれるんですよ」


説明しているうちに、周囲に人が集まり始めた。


「私も食べたい!」

「私にも一つちょうだい!」


気づけばテーブルの前には、大勢の人が集まっていた。


じゃがいもに興味を持った客たちは、次々と料理を手に取る。

そして、さつまいもも大好評だった。


最初こそ見た目に驚く者も多かったが、味を知るとその印象はすぐに変わった。


こうして芋料理は民衆に受け入れられ、じゃがいもとさつまいものイメージを覆す作戦は――


見事、大成功を収めたのだった。



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