灰の甘み
「う~ん。今日もいい天気ですね。皆様もそう思いません?」
くるりと振り向き、スカートを翻しながら、満面の笑みを浮かべてリリアーナが言った。
料理人たちは困惑の表情をうかべている。
「あ!お父様、お母様もいらっしゃったんですね」
にこりと微笑むその姿には、まったく躊躇いが見えない。
「リリア、これはどうしたことだ?例のものを調理すると言っていたが……」
「リリア、そんなものを持って……ドレスを汚してしまうわよ」
リリアーナは一度息を整える。そして――。
「今からこのお芋を、ここで調理してスイーツにするのですよ」
真っ直ぐな瞳。迷いはない。
「リリア、あなた何を言ってるの……?」
不安そうに尋ねる母・リュシア。
「とにかく、リリアを信じて待とう」
困惑した表情のまま、父・アルベルトが、リュシアの肩を叩いた。
「ルシアン、準備はいい?」
予め集めておいた、枯れ枝や枯葉。
皆が固唾を飲んで見守る中、ルシアンが火をつけた。
「え?」
周囲がざわめく。
火が全体に回り落ちつくまで、しばらく待つ。
十分に熾火になったところで、さつまいもをそっと押し込んだ。
「リリア……」
リュシアの不安げな声。
「大丈夫です、お母様」
リリアーナはにっこり微笑んだ。
「……これで焼けるまで、しばらく待ちましょう」
落ち葉の山が、ぱちぱちと小さな音を立てて燃える。
その火を眺めながら、リリアーナはふと懐かしい記憶を思い出していた。
前世でまだ幼かった頃。
裏庭で火を起こして、焼き芋を焼いていた日のこと。
(……またここでも食べられるなんて)
思わず胸が弾む。
リリアーナ自身も、出来上がりを楽しみにしていた。
しばらくして。
やがて焦げた葉の匂いの奥から、ほのかに甘い香りが混じり始める。
土と煙に混ざり合った、あの独特の匂いだ。
ときおり落ち葉が崩れて、熾火が赤く瞬く。
そのたびに、甘い匂いは少しずつ濃くなっていった。
「……そろそろかしら」
リリアーナが立ち上がり、細長い枝を手に火へ近づく。
その枝で燃えた葉や枝をかき分けた。
灰の中から取り出した芋は、皮が黒く焦げ、ひび割れていた。
「うん、いい色ね」
火傷に気をつけながら、用意していた新聞紙に包む。
そして、それを半分に割った。
ふわり、と湯気が立ち上る。
同時に、甘い香りが一気に広がった。
「あら……いい香りね」
思わずリュシアが呟く。
「しかし……あの見た目がな……」
アルベルトが顔をしかめた。
リリアーナは、半分に割った芋を笑顔でアルベルトに差し出した。
「お父様、どうぞ」
「あ、あぁ……」
差し出された芋を前に、一瞬ためらう。
「とても甘くて美味しいですよ。私もいただきますね」
リリアーナは大きく口を開いた。
お姫様らしくないほどの大きな口で。
たが、焼き芋を食べるのに、上品に構えてはいられない。
このくらい大きくかぶりついた方が、ずっと美味しいのだから。
ねっとりと甘く、優しい味わいが口いっぱいに広がった。
(これこれ、この味なのよ)
その姿を見て、アルベルトとリュシアは、目を丸くして見ている。
久しぶりに味わう懐かしい焼き芋に、リリアーナは幸福感を覚えながら、その甘さを噛み締めた。
「ん~。とっても甘くておいしいですわ。お父様もどうぞ。遠慮なさらず召し上がってください」
「……では、いただくことにしよう」
おそるおそる口に運ぶ。
そして一口――。
アルベルトの目が見開かれた。
「……う、うまい!なんて甘くておいしいんだ!」
周囲の料理人たちがざわめく。
その反応に、リリアーナは笑顔で頷く。
「でしょう?焼くととても甘くなるの。立派なスイーツになるのよ」
「リリア、私も一ついただいてみたいわ」
「はい、ぜひ!すぐにお持ちしますね」
再び灰の山から芋を取り出し、新聞紙で包んで半分に割る。
それをリュシアに渡した。
「お母様、どうぞ」
手渡された芋を、リュシアはゆっくり口に運ぶ。
そして一口――。
「美味しいわ!」
声の調子が思わず上がった。
「ふふ。よかったです」
国王と王妃が、揃って芋を口にし、美味しいと言ったのだ。
集まっていた調理長や若い料理人たちも、我先にと芋を手に取り、口へ運ぶ。
「本当に甘い!」
「こんな食べ方があったとは……!」
皆が同じように驚き、感嘆する声が広がった。
とても美味しい、と。
「そのままでも美味しいのですが、バターをのせてもまた美味しいですよ」
「ほう……」
アルベルトは興味深そうにリリアーナを見る。
「どこでそんな知識を得たんだ?そもそも芋を食べるなどと……」
「えっと……本で少し読んだんです。芋を焼いて食べている人達がいると……。それに実際に焼いてみたら美味しかったので、バターが合うんじゃないかと思って」
少し無理のある説明かもしれない。
だが、そう言うしかない。
「はは。うちの娘は天才だな」
嬉しそうに笑うアルベルト。
(よかった……信じてくれたみたい)
「リリア、あなたすごいわ!」
母がぎゅっと抱きしめる。
温もりが伝わってきた。
(よかった。みんな喜んでくれた)
リリアーナは、嬉しさと安堵に包まれていた。




