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お姫様ですが、勇者になりたいんです― ヒロイン役を降りて、剣を取りました ―  作者: 亜久美 圭


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剣が紡ぐ心の波

城の裏手。

人目のつかない石壁の影で、セドリックとリリアーナは向かい合っていた。


おそらくセドリックは、からかうために、わざと人気のない場所を選んだのだろう。


だがリリアーナにとっても、それは都合がよかった。

剣を扱い、密かに身体を鍛えていることは、まだ城の誰にも知られたくない。


セドリックは先程から口元を歪め、ニヤニヤと笑い続けている。


(性格わるっ!……絶対コテンパンにしてやるんだから)


「ほらよ」


そう言い、子ども用の木刀を足元へ放った。

乾いた音が石畳に響く。


「持てるか?どうせティーカップくらいしか重いもの持ったことないんだろ?」


片側の口角だけを吊り上げた、嘲るような笑み。


(もう知らない!やめてと言ってもやめないんだから!)


年下、それも女相手にここまで露骨な態度。


胸の奥で、小さな火が灯る。


(せっかくだから、練習相手になってもらおうかな。サクマ先生以外と戦うのは初めてだし……)


「……言いたいことはそれだけ?早く始めましょう」


リリアーナは地面に転がった木刀を、軽々と片手で拾い上げた。

その動きを見て、セドリックの目がわずかに見開かれる。


「お、おう。三回勝負な。身体のどこかに当てたら勝ちだ」

 

「……わかったわ」


木刀を下げたまま、静かに構える。

動きも呼吸も、落ち着いている。


「いくぞ――!」


勢いよく踏み込み、上段から振り下ろす。


(こいつ、本気出してない……?女の子相手に……)


深く息を吐き、力いっぱい振り下ろす木刀を、リリアーナは静かに捉える。


両手で構える。


カン――!


木刀がぶつかり、衝撃が腕に伝わる。

リリアーナは体勢をわずかに沈め、力を分散させる。


セドリックは力任せに押し込もうとする。


視線が交わる。


「どうしたの?そんなもの?」


にこりと微笑む。


「クソっ!」


一度引き、今度は横から薙ぐ。


カン――!


リリアーナは体をわずかに捻り、木刀の勢いを吸収して正確に受け流した。


角度を変え、距離を詰め、何度も打ち込む。

だが、すべて最小限の動きで受け止める。


足は動かず、無駄な力も入れない。


(さすがに手はジンジンするなぁ……でもまだ大丈夫)


やがてセドリックの呼吸が荒くなる。


「はぁ……はぁ……」


「もう終わり?」


汗ひとつかいていないリリアーナ。

息も乱れていない。

その余裕が、さらに焦りを煽る。


「まだこれからだ!」


渾身の一撃。

上段から振り下ろされる木刀。


カン――!!


リリアーナは軽く体を沈め、木刀の衝撃を吸収した。


そして――

 

「あのね……」


受け流すように力を外し、身体を半歩滑らせる。

そのまま反転。

初めての攻撃。


ピタリ。


セドリックの額、ほんの数センチ手前で止まる木刀。

風圧だけが、前髪を揺らす。


「……あなたの剣は、無駄な動きが多いのよ」


膝が崩れる。


「な……」


青ざめた顔。

 

「まだ一回目だけど、続ける?」


柔らかい声で微笑むリリアーナ。

だが、目は笑っていない。


「く、クソ!覚えてろよー!」


木刀を拾い上げるのも忘れ、逃げるように去っていった。


その背中を、静かに見つめるリリアーナ。

やがてその背が小さくなる。

 

見えなくなったところで、リリアーナは大きく息を吐いた。


「……さすがに当てるわけにはいかないものね」


木刀から手を離し、ぱん、と手を払う。


子ども用とはいえ、当たれば怪我はする。


(怒りに任せて振るうほど、もう子どもじゃない……)


身体は六歳。

だが中身は十五歳の莉子。


「本当は、もう少し反省させたかったけど……」


今までの態度や暴力を思い出し、眉をひそめる。


だが――


「……にしても、弱くない?」


大振りの剣。

荒い呼吸。

基礎がまるでなっていない。


「誰に習ってるのかしら?先生が悪いのかしら」


首を傾げ、ふっと笑みが零れた。


「やっぱりサクマ先生は最高だわ」


(また美味しいお菓子持っていって、お礼言わなきゃね)


胸が弾む。


深く息を吸い込み、胸の奥のわだかまりが少しずつ解けていく。

剣を通して、気持ちが整理されて、さっきより静かに呼吸できている。

(……少し、落ち着いたかも)


先ほどまでの苛立ちが晴れ、心に余裕が生まれたのがわかった。

 



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

自室に戻ったリリアーナ。


「あ~あ。無駄な時間過ごしちゃった」


サクマ以外との、初めての対戦。

少し期待していたが、拍子抜けだった。


「さて……共鳴魔法の練習よ!」


両手を上げ、気持ちを切り替える。


深呼吸。


目を閉じる。


先ほどまでの苛立ちは、もうない。

むしろ妙に澄んでいる。


(さっきのセドリックとの対戦で、少しスッキリしたからかな?)


(風の流れを……聞く)


耳を澄ませる。


遠くで葉が擦れる音。

窓辺をかすめる風。


心が静かだからだろうか。

先ほどよりも、音がくっきりと輪郭を持って届く。


差し込む日差しも、柔らかい。


足裏から、じわりと伝わる感覚。


(……あ)


胸元の水晶が、かすかに温もった。


光はまだ弱い。


だが確かに――


世界と、自分が、ほんの少しだけ重なった気がした。


リリアーナは、ゆっくりと息を吐いた。


胸の奥で、静かな共鳴が揺れている。

 



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