表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お姫様ですが、勇者になりたいんです― ヒロイン役を降りて、剣を取りました ―  作者: 亜久美 圭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/44

静かなる共鳴

風が二人の髪をやわらかく撫でていく。

リリアーナとルシアンは、静かに向き合い、視線を合わせた。


「それでは、共鳴魔法の練習を始めましょう」

「はい、先生!」


勢いよく返事をしながらも、胸の奥がわずかに高鳴る。


(いよいよ、始まる……)


ようやく始まる魔法の訓練。

期待と、不安と、ほんの少しの緊張が入り混じっていた。


「まず、共鳴魔法とは、力の強さではありません。世界の流れと一体となり、その流れる力を'分けていただく'術です。」

 

「はい」

 

「風も、大地も、水も、草花も。すべては流れています。その流れを、まずは体全体で感じ取れるようにならなければなりません」

 

「はい!」


ルシアンは小さく息を吐き、自らの呼吸を整えた。


「……目を閉じてください」


リリアーナはゆっくりと瞼を下ろした。


「風の音、葉の揺れる音が聴こえるでしょう?」


意識を澄ませる。


(風のそよぐ音……揺れる葉のかすかな擦れ……)


遠くで小鳥がさえずる。

陽光に温められた大地の匂いが、かすかに鼻をくすぐった。


「太陽も大地も、ここにある花も。すべてが生き、流れているのです」


胸の奥が、じんわり温かくなる。

先ほど感じたあの感覚に、少し似ている。


その瞬間――


胸元の水晶が、ほんの一瞬だけ淡く光った。


(え……?)


驚いて目を開けると、光はすでに消えている。


「そのままです。油断せず、続けてください」


「は、はい……」


再び目を閉じる。


ただ、音を聞く。

ただ、流れを感じる。


足裏の奥で、かすかな振動が伝わった気がした。

それは自分の鼓動ではなく、もっと深く、大きな何かの鼓動――。

 

五分……

十分……


「…………」


無言のまま立ち続ける二人。


(な、長い……)


そっと片目を開けると、ルシアンと目が合った。


「あ……」


慌てて目を閉じる。


(……いつまでやるんだろう。結構しんどい)


やがて――


「よし、もういいでしょう」


その一言に、思わず息が漏れる。


「終わったぁ~」


深く息を吐くと、全身から力が抜けた。


(ただ立っていただけなのに、こんなに辛いなんて……)


「お疲れ様でした。本当はもう少し続けたかったのですが、お嬢様が限界のようでしたので」


「まだやる気だったのー?!」


思わず声が裏返る。


(これなら身体を動かしている方が、まだマシだわ)


「最初はよかったのですが、すぐに集中が切れてしまいましたね」

 

図星だ。

途中から、いつ終わるのか、ばかり考えていた。


「他に訓練方法はないの?」


「ありません。これが基本なんです。自然の流れを聞けるようにならなければ、次へは進めません」


「そんなぁ~」


つま先を見つめたまま、しばらく動けなかった。


「この訓練は、場所を選ばずできます。ぜひ毎日続けてください」


「……わかりました」


肩をすぼめながら、小さく息を吐く。


(じっとしているのが、一番苦手なんだけどなぁ……)


「成果が出たら、私のところへ来てください」


「成果?」


「お嬢様の中で、変化が生まれるはずです」


(曖昧すぎる……)


ルシアンは穏やかに微笑んだ。


「では、楽しみにしていますね」


リリアーナは半ばぐったりとしながら、その場を後にした。


(あんなに教えるの拒んでいたのに、いざ始まったら……鬼だわ)


帰る足取りも重い。


(別れ際のあの笑顔が、かえって怖いのよ)


魔法使いであることを嫌い、距離を置こうとする人。

優しくて、少し臆病で――。

けれど、魔法の話になると、一切妥協しない。


(本当は、誰よりも真面目で、熱い人なんだと思う)


だからこそ。


(怖いんだけどね……)


顔を引きつらせながら、部屋へ戻った。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

部屋に戻り、椅子に腰かける。


「何もしてないのに、肩が凝ったわ……」


背伸びをしながら、共鳴魔法について改めて考える。


「共鳴魔法なんて、聞いたことないんだよね……」


ゲームの中での魔法は、ただ発動する力だった。

だがこれは違う。


自然――世界に流れる力を受け止め、通す魔法。


(魔法を使わないはずの私が使うから、知られていない部分が表に出てきているのかもしれない)


窓から吹き込む風が髪を揺らす。


目を閉じる。


(風の流れを……音を聞く)


柔らかい風。

遠くの小鳥のさえずり。

陽だまりの匂い。

 

それぞれが、それぞれの息吹を持ち、流れている。


(あと少し……)


ガチャリ。


突然、扉が開いた。


「リリア!遊びに来たぞー」

 

大きな足音とともに、ズカズカと部屋へ入ってくる。


(コイツか!)


露骨に不機嫌な顔をする。


リリアーナの従兄弟、セドリック。

二つ年上、八歳だ。

 

「……ノックくらいしてもらえるかしら」


目を細めて睨む。


だがセドリックは気にした様子もなく、ニヤリと笑った。


(嫌な笑い方!)


「いいだろ?従兄弟同士なんだし」


(コイツは……!)


最近剣を習い始めたらしく、やたらと腕前を自慢してくる。


そして、年下のリリアーナを相手に、いつも優越感たっぷりに木剣を振るってきた。

 

(自分が少し剣ができるからって……)


「決闘しようぜー」


(またそれ……弱いと思ってるからよね)


リリアーナは立ち上がる。


「……いいわよ。外に出ましょう」


静かな目で、セドリックを見返した。

胸の奥で、何かが熱く揺れた――。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ