表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お姫様ですが、勇者になりたいんです― ヒロイン役を降りて、剣を取りました ―  作者: 亜久美 圭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/2

エース・日比野莉子

よしっ!日比野!自己ベスト更新したぞ!よくやったな!」

 

そう言いながら、陸上部の顧問である武田先生は、莉子(りこ)の頭をガシガシとをかき回した。

大柄で筋肉質、いかにも体育会系で、熱血指導でも有名な先生だ。


「ホントですか!これで県大会一位狙えますかね?」

 

額の汗を拭いながら莉子は息を弾ませて言った。

 

「県大会どころか、全国も狙えるぞ!俺の指導の賜物だな」

「いやいや、私の実力ですから」

「コイツ!」

 

武田先生は、もう一度再度莉子の頭をかきまわす。

 

「もうっ!やめてくださいよ!女子にこんな扱い、セクハラになりますよ!」

「おおっと、そうだな。お前も一応女だったな」

 

笑いながら言う先生に、莉子は頬を膨らませた。

 

「もう!ひどいですよ!」

「ガハハ。すまんすまん」


日比野莉子。十五歳。

受験を控えた中学三年生だ。

 

とにかく身体を動かすことが好きで、放課後はいつも部活動に励んでいた。

身長百五十二センチと小柄で細身。日々の練習で、肌はこんがりと日焼けしていた。

男子からはゴボウみたいだと、よくからかわれる。


(身長だってこれから伸びるかもしれない。胸だって、まだまだ成長途中なんだから……)


「リコー!今度の土曜日バスケの大会あるから出てほしの。お願い!」

 

近くで練習をしていた同じクラスのバスケット部の部長、谷口が、両手を合わせて莉子に頼み込んだ。

 

その声に反応するように、ハンドボールの部長、山本が駆け寄ってくる。

 

「ちょっと!私が先にお願いしようとしてたのに、割り込まないでよ!」

「は?先にってまだしてないならこっちが先でしょ?こっちは県大会への切符がかかってるの。大事な試合なんだから!」

「私たちだって次の大会には、あの因縁の梅田高が来るの!リコの力がどうしても必要なの!」

「どうせ毎年負けてるじゃん。リコが行くまでもないって」

「ちょっと!」

 

バスケットボール部、部長の谷口とハンドボール部部長の山本が、莉子を挟むようにして睨み合う。

 

「まぁまぁ……2人とも落ちついて」

 

間に挟まれた莉子は、苦笑いを浮かべながら、2人をなだめるしかなかった。


「おい、コラ!日比野は陸上部の大事なエースだぞ。毎回他の部を掛け持ちさせて本業が疎かになっては困る。こっちは県大会に向けた大事な試合が迫ってるんだからな!」


谷口と山本はお互い顔を見合わせながら、はっとしたように莉子を見た。

 

「リコ、ごめん。私たち自分のことしか考えてなかった」

「私も……大事な時期なのに、ごめんね」

 

申し訳なさそうに頭を下げる二人の姿に、莉子は慌てて首を振った。

 

「武田先生!陸上部の次の試合はまだ一ヶ月以上先ですよね。今回はいいじゃないですか。二人も困ってるみたいですし」

 

莉子の言葉に二人はホッとした表情を浮かべ、今度は陸上部の顧問である武田先生をじっと見つめた。

武田は困ったように頭を搔き、しばらく唸ったあと、観念したように言った。

 

「……今回だけだぞ。日比野はうちのエースなんだからな」

「ありがとうございます!先生!」

「ありがとうございます!」

 

二人の感謝の言葉を聞きながら莉子は思った。


(今回だけってもう何回目だろう。結局先生も甘いもんなぁ……)

 

武田は熱血指導で有名な教師だが、情に弱いことでも有名だった。

だから「今回だけ」じゃない。莉子は今までも、度々ピンチヒッターとして複数の部活をかけ持ちしてきた。

もちろん陸上部がメインだが、ずば抜けた運動神経の良さから、他の部でも頼りにされていた。

 

それを莉子自身も悪い気はしていなかった。

身体を動かすことが大好きな莉子にとって、必要とされることも、全力で身体を動かすことも、とても大きな充実感だった。


谷口と山本、二人の話を聞いた結果、当校で行われる試合の時間がずれていることが分かったので、午前中は谷口のバスケット部、午後からは山本のハンドボール部に助っ人に行くことにした。


(さすがに一日に二試合、しかも別の球技の試合をやるのは大変かも。だけどワクワクするんだよね)


身体を動かすと気分がスッキリするし、何より楽しい。こんな調子で莉子は様々な部活を掛け持ちしていた。



 ――――――――――――――――――


(うーん。すっかり日が暮れちゃった)


十八時三十分。

八月下旬。日が落ちるのが少しずつ早くなってきた頃。

莉子は同じ陸上部で同級生、香織と並んで帰り道を歩いていた。

 

「リコ、すごいね!どんどん自己ベスト更新してるじゃん。先生も全国も狙えるって言ってたし。あぁ~どんどんリコとの差が開いていくー」

「へへ。だって休みの日もずっと練習してたもん」

 

実際、莉子は早朝、そして時間があれば夜も走り込んでいた。

日曜日で部活が休みの時も、ゲームをする時間以外は、ほとんどを練習にあてていた。

 

「ほんとリコは運動好きだよね。私は休みの日は無理。休ませて~って感じだもん」

「あはは。私は逆に動いてないほうが無理かな。身体動かしたくてウズウスするもん」

「リコは運動バカだよね」

「ちょっと!バカって何よ!」


二人で笑い合いながら歩く。


――いつからだろう。

物心ついた時から、とにかくよく動き回る子供だった。

学校までの行き帰りも、意味無く走っていたし、友達とかけっこするのも好きだった。

 

体育の授業が大好きで、休み時間は外に出て、ドッチボールやサッカーをしたり。とにかくじっとしていられない子供だった。

 

「弟いるよね?智くんだっけ?」

「うん、六つ下」

「智くんは大人しいのに、なんでリコはこんなに落ち着きないの?」

「知るか!」

 

莉子は舌を出して、あっかんべーと子供みたいに笑ってみせた。


莉子には六つ歳が離れた弟がいる。

日比野智、9歳。

 

父と母と、弟の智と四人家族。家族仲はとてもよかった。

ただ、弟の智はやや引っ込み思案な所があり、姉である莉子は、そんな弟の事が可愛くもありながら心配でもあり、気にかけていた。

 

いつも後ろに隠れてる、たった1人の可愛い弟。

べったり甘えてついてくるその姿が、莉子は可愛くて仕方なかった。


 莉子と香織。日が落ち始める中、たわいも無い話をしながらいつもの通学路を並んで歩いた。

その時……。

 

――チリン。

 

小さな音がした。


振り返ると、少し後ろに幼い男の子と母親が並んで歩いている。

智と同じくらいの背格好の男の子。

その胸元にはサッカーボール。


(智と同じくらいの年齢かな……)


次の瞬間。


「あ……」


ボールが手を滑り、車道へ転がった。

男の子は迷いなく、ボールを追って飛び出す。


直後、こちらに向かってくる車のクラクション。

そして悲鳴。


――危ない!!


考えるより先に、身体が動いていた。

男の子へ向かって走り出す。


「リコ!!」


香織の叫ぶ声。


迫る車。



ドン――


気づいた時、莉子は地面に倒れていた。


視界が赤く滲む。

泣き叫ぶ男の子。


(よかった……無事だ……)


ホッとしたのと同時に、段々と意識が遠のいていく。


(私…死ぬのかな……)

 

まだ中学生なのに。大会も出ていないのに。

何もかもこれからだったのに、私の人生、これでお終いなの。


莉子は深い闇へと沈んでいった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ