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全てを~スケラテスとエルザ~

厨房の手伝いをする使用人たちの態度は、何処かおちつかな様子だった。まるで触れたくても触れないように注意するかのように・・・


その中でもアリシエンヌだけは、その様子に不機嫌な言動を露骨に見せて作業に取り掛かっている。


メアリは、相変わらず涼しい顔で食器の上に食事を乗せ、用意出来たものを次から次へと他の使用人に渡していた。


唇の横に絆創膏を付けて・・・


そんな空気にアリシエンヌは、エプロンを外しそれを椅子に投げてから声を出す。


「ねぇメアリ? ちょっと付いて来て?」


「ええ?」


「・・・いいから早く」


「でも、まだこのお皿に食事を乗けなきゃ・・・」


「いいから早く来いって言ってんの!」


アリシエンヌが今まで我慢していた声を上げる。


「・・・もぉ、強引だな」


メアリは、仕方なく厨房を出て行くアリシエンヌに付いて行った。


──────

────

──


外から厨房の窓が見える位置でアリシエンヌは止まった。


それに合わせてメアリも止まる。・・・そしてアリシエンヌが口を開く。


「・・・全て話して。貴女が隠している事、全部」


「・・・ええ、隠してる事って・・・」


「いい加減にしてよ! もう全部知ってんのよ!? あんたがスケラテス様・・・スケラテスに暴力を振られてる事!? ・・・もう知ってるんだよ」


「・・・暴力?」


詰め寄るアリシエンヌにまだシラを切ろうとするメアリ。


アリシエンヌは、そんなメアリの唇の横に付けてある絆創膏を引っ張り外す。


「痛い!」


「・・・その傷、さっき出来たんでしょ? ・・・物置部屋でスケラテスに打たれてさ・・・デルピノたちに、あんたを付けてもらうように言ったんだ。・・・そしたら案の定・・・スケラテスの大声がするのと何かを叩くような音がしたって・・・それで出て来たスケラテスのあとに・・・ねぇメアリ? お願い。正直に言って?」


緊張の糸が出来たような空気だった。


アリシエンヌの怒りはメアリが今まで嘘をついていた事では無い。メアリをそんな風に隠させ怪我を負わせたスケラテスに対してだ。


「・・・でもスケラテス様にも色々と訳が・・・」


「スケラテスに何があるの? あんたに暴力を振っていいっていう理由があるっていう訳?」


「・・・そうじゃないけど・・・スケラテス様だって」


「ねぇメアリ? あんた殺されるよ!? それでいい訳? ・・・いい訳ないじゃん!」


「ううん・・・スケラテス様は私を殺そうとなんかしてないよ?」


「・・・メアリ・・・もういい? 私直接スケラテスに言って来るから! 使用人の仲間を何だと思ってるんだって!」


その場から貴族たちの部屋のある方にアリシエンヌが向かおうとするのをメアリは急いで止める。


「だめぇ! お願い! アリシエンヌ? 落ち着いてよ?!」


「落ち着けだ? ・・・出来る訳ないでしょ! 大事な・・・大事な友達をこんな目に合わせるヤツに・・・落ち着ける訳ないじゃんか!」


叫ぶアリシエンヌの目には涙が溜まっていた。


メアリを思う余り力が入るその身体を震わして・・・


その震えるアリシエンヌの身体をしばらく抱きしめ数十秒・・・メアリは語り始める。


「お願いだよ。お願いだから落ち着いて? 私なら大丈夫だからさ・・・それよりもスケラテス様の方が心配なの・・・。 だからね・・・私・・・その何とかする方法(・・)を今探してるの?」


「何の方法よ?」


涙声でアリシエンヌは聞いた。


「・・・ごめん。それも言えない」


「秘密ばっかだね? メアリは・・・」


涙を我慢していたアリシエンヌはそう言った。


メアリの目を見て・・・笑う。


そんなアリシエンヌにメアリも笑って・・・こう言った。


「アリシエンヌ・・・お願い・・・私を信じて?」


メアリの身体から離れアリシエンヌは、息を吸って・・・吐いて落ち着いた表情に切り替え・・・いつも彼女に戻りメアリにこう返す。


「次・・・次に同じような事がメアリに起こったら・・・もう私、メアリに何も言わずスケラテスに直接言うからね? 私たちのメアリに手を出すな・・・って。分かった?」


「うん!」


「・・・メアリ・・・貴女まさか?・・・スケラテスの事が・・・ううん! メアリ? じゃあそろそろ・・・戻ろうか? ほらあそこで・・・みんな待ってるから?」


アリシエンヌが指さす方向は、厨房の窓ガラスだった。そこで他の仲間たちがメアリ等を心配そうに覗いている。それを見たメアリは、感極まり胸を押さえて、その厨房の窓ガラスに向かって声を出した。


「ありがとう。みんな・・・本当に・・・ありがとう」


──────

────

──


秘密を隠し通すメアリ。それを心配するアリシエンヌたち。色々な気持ちが入り交じるその先には貴族スケラテスが立っていた。


──────

────


それから2週間が経った日の事、昼を前にルガーナの王アルトと妻ハミニアは、少し離れた王国リハルディカに用がある為に先に出掛けて行き、その娘エルザは大事な習い事があった為にあとから出向く予定になっていた。


午後14時を回りエルザは、7階の自身の部屋で着替え、支度をしているとその部屋の扉が外にいる誰かによって開かれる。


その扉を開けたのは・・・メアリだった。


「・・・」


この2週間、他の使用人たちは出来るだけメアリをスケラテスと出会さないようにして来た。メアリもそこまでしてくれるみんなの為に色々と考え、この瞬間を待っていたのだ。王室から誰も居なくなるこの瞬間を・・・7階にエルザ(・・・)1人になる瞬間を。


「勝手に入っては・・・」


静かに出来た間のあと、エルザはメアリに目を向け不安定な声を出す。それにメアリは詰まる思いで・・・


「もう・・・そんな声を出さなくてもいいのですよ?」


メアリは目から涙を流し。それを見たエルザは聞いた・・・


「・・・なぜ泣くのだ?」 ・・・と。


メアリは、その問に笑みを浮かべ答える。


「・・・もう無理して・・・何も隠す必要は・・無いのです・・・スケラテス(・・・・・)様」


「・・・」


7階の王妃の部屋に居たのは、エルザ本人では無く、エルザ(・・・)の格好をしたスケラテスだったのだ。

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