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王女の部屋

王国ルガーナは、隣接する町コナルバークで盛大に行われた感謝祭を無事に終え、町の民の感謝を受けながら参加した王族の者たちは、その夜遅くに帰城する。


その翌日、朝から静かな王室に使用人たちだけ集まって何やら騒いでいた。理由は・・・明後日に控える王アドルと王妃ハミニアの18年目の結婚記念日の準備に取りかかる為だ。


「・・・えーでは? 今よりアドル様とハミニア様の結婚記念日の準備に取りかかりたいと思いまーす。記念日は明後日なので慌てず? 怪我をせず? 楽しんで準備に取りかかりましょう・・・皆さん? よろしいでしょうか?」


その王室に集まった使用人たちを代表してアリシエンヌが挨拶する。それに集まった使用人たちが気の抜けた声で一斉に返事をした。それに対してアリシエンヌは、今から取りかかる準備の重要性を説く。


「皆さーん? ・・・これは、あくまでも・・・大事な・・・大事な記念日の準備だという事を・・・決して忘れないように・・・いいですね!」


その言葉にも集まった使用人たちは、今からまるで遊びを始める前のように気の抜けた声で一斉に返事をして各自がバラけて行った。それを見てため息を漏らし・・・


「・・・はぁー・・・ダメだ・・・こりゃ」


そう言ったのはアリシエンヌ。


「まあ・・・楽しくやろう?!」


そう彼女に声をかけたメアリ。


「・・・そうよね? 貴女の言う通り・・・なんでもかんでも気を吐いて、汗水流して取り組んでもね?」


「そうだよ? せっかくこうして・・・みんな集まっての作業だし・・・それに今日と明日くらいワイワイ楽しみながら取り組んだって、文句なんか出ないよ? ・・・何せ三日連続だよ?」


「・・・確かにメアリの言う通り・・・昨日は、あんだけ働いたんだし・・・今日くらいは・・・思いっきり楽しんじゃおうか?!」


「賛成! その方がいいよ? ・・・だって記念日だしさ?」


「ふふ・・・でもメアリ? なんで貴女・・・そんなに嬉しそうなの?」


「え? ・・・なによ・・・いきなり?」


アリシエンヌはメアリのご機嫌の様子を意地悪そうな顔で見てからそう言った。メアリは急な質問に困った表情。


「・・・だってさぁぁ・・・余りにもその嬉しそうな態度を見ていたらぁ? 普通は・・・そう思うでしょ?」


「普通って・・・アリシエンヌ? 貴女はいつも私のことを色々と気にし過ぎなの?! 別にいいじゃんか? 私が嬉しそうにしてようとさ・・・」


「だけど気になんのよね・・・メアリがいつも以上に・・・嬉しそうにしてるとさ?」


「そんなに嬉しそうしてる? ・・・私?」


「うん! むちゃくちゃ?」


「・・・そう。そんなに嬉しそう・・・」


「ねえ? 言っちゃいなよ? ・・・本当は・・・なんかあったんでしょ?」


「・・・あのさぁ・・・昨日、王室の挨拶あったんでしょ?」


「うん! うん!」


「あの時にさぁ・・・私・・・」


「うん! その時・・・どうした?」


「初めて・・・」


「初めて?」


ニヤニヤした表情でメアリの口から出てくる言葉に釘付けになるアリシエンヌは、早くその口から恋愛の二文字が出て来ることを期待して待っていた。


「・・・見たの?」


「なにを?」


「・・・・・・エルザ様を?」


「・・・はぁ・・・エルザ様?」


「うん! あのアルド様とハミニア様の愛娘・・・エルザ様の姿を・・・私、初めて見たのよ?」


それを聞いてポカーンとするアリシエンヌ。その前でまるでさっき見たかのよう興奮するメアリ。


「メアリ? 貴女が嬉しそうにしていた理由は・・・それだったの?」


「うん! そうだよ? 私、ここに来てからずっと気になってたの? エルザ様の事が? ・・・ずっと看病が必要なほどの病気で苦しんでいて・・・やっと去年の暖かい季節に・・・元気になられた姿を見ることが出来るようになったって聞いてからずっとエルザ様の姿を一度拝見したいと思っててさ? ・・・やっと昨日の王室で初めて・・・もぉー! とにかく私、感動して感動してさ?」


「・・・まあ確かにエルザ様の姿は、私たちみたいな使用人が何度も何度も・・・拝見することは無いけど・・・感動ってなによ?」


「えー! 感動しない? あんなに綺麗で・・・おしとやか・・・それに背がたかくて・・・あの風格・・・おまけに私たちと同世代だよ?」


「少しオーバーだよ? そんなの・・・悪いけど貴女の意見に水を差すようだけど? 私はあの人のこと・・・好きじゃない」


「ど、どうして? ・・・アリシエンヌ」


「私さ? 去年、あの人が姿を見せるようになってから・・・何度か出会したことがあるの? ・・・三度ほどかな? ・・・その時は私だって正直・・・嬉しかった」


今度はメアリがアリシエンヌの口から出て来る言葉に釘付けになっていた。少しの不安と・・・


「・・・で、その度に私が挨拶するでしょ・・・お元気になられて良かったですね? って感じの言葉を添えてさ?・・・そしたらあの女・・・私の事を・・・冷たい目で見たあと・・・人を鼻で笑うような表情をして何処かへ行くの・・・そりゃ私みたいな使用人に気を使えとは言わないけど・・・一言くらいかけてくれても良くないかしら? こっちだって心配くらいはしてたんだからさ?」


アリシエンヌの言葉に複雑な表情を浮かべるメアリ。


「きっと、エルザ様は・・・機嫌が悪かったんじゃないかな?」


「ううん。会う度に同じ表情だよ? それに毎回、同じように鼻で笑うのよ? 機嫌が悪いなら怒ってる表情とかあるでしょ? ううん! 毎回一緒の表情? 何も言わずに・・・他の連中も同じ事を言ってたな・・・それと・・・」


「それと?」


「まあ、これは噂だけど? あのエルザ様がほとんど喋らない理由って・・・実は長年の病の所為で声を失ったんじゃないかって言われてるの?」


「・・・そうなんだ?」


「ともかく・・・私は? あのエルザ様は嫌い? あの冷たい目といい・・・なんだか装ってる感じが・・・鼻につくのよね?」


「そっか・・・アリシエンヌは好きじゃないんだ」


そう言って少し肩を落とすメアリ。それを見てアリシエンヌは笑い始める。


「アハハハハハハ、なんで貴女が肩を落とす訳? 別にメアリのことじゃないでしょ?」


「ええ? いや、なんか意外だったからさ・・・」


「いいメアリ? 人は見た目だけで判断しちゃあダメよ? 見た目以外にも眼差しだったり・・・ちょっとした気配りや言葉使いだったりと・・・他にもあるのよ」


「うん! 分かってる?」


「はぁーあ・・・なんか聞いて損した? 間違いなくメアリが恋した話と思ってたのに・・・エルザ様の姿に感動した話って・・・なーんだ? がっかりだよ。これだったらまだデル・ピノの下らない話でも聞いてる方がマシだったなぁぁぁ・・・」


期待はずれだったのかアリシエンヌは、不満を口にしながらメアリの元から離れて行く。


本当はメアリが嬉しそうにしていた理由に、エルザを初めて見た事で無く、スケラテスから貰った塗り薬の件が大きく占めていたのだが、その事はメアリは黙っていた。


その日の昼、休憩を終えたメアリは、他の作業の為にルガーナ城の四階に向かおうと貴族たちの部屋がある通路を通り抜けた時だった。急にメアリを呼び止める声がしたので、彼女は声の方に振り返ると・・・スケラテスが開いたドアの隙間から顔を覗かせている。


「・・・スケラテス様?」


「おい? こっちに来い」


「はい?」


「いいから来いと言っているのだ」


メアリは周りを見渡してからスケラテスの方にゆっくり近づく。


「・・・はい。あのう・・・なんでしょうか?」


「全く・・・お前は相変わらずトロイな? 誰かに見られたらどうするんだ? さあ、早く入れ」


スケラテスはそう言ってメアリの腕を掴み自身の部屋にへと引っ張り入れる。


ドアを閉めるスケラテスの背中越しでメアリがモゾモゾしていると彼はそんな彼女を促す。


「何を突っ立っているのだ? 早く前に進まんか?」


慎重に床を踏むメアリの先に貴族にしか与えられないような物ばかりが目に映る。


「す、凄いですね?!」


「ふん・・・何が凄い? 単なる大袈裟な物ばかりじゃないか?」


そんな大袈裟な物に目を奪われているメアリにスケラテスは、上品な赤い椅子に腰を下ろし、少し間を置いてから彼女に声をかけた。


「なあメアリよ? 何故今日は・・・そんなに嬉しそうなのだ?」


「ええ? ・・・ああ! この部屋の物が凄く豪華な物ばかりなので・・・思わず・・・こうびっくりして・・・います?」


「なんだ・・・その間抜けな答えは?」


「・・・ええ・・・なんて言えばいいのか?」


急な質問に困って苦笑いするメアリにスケラテスは更に続ける。


「この部屋の事では無い? 何故朝からそんなに嬉しそうなんだと聞いたのだ?」


「・・・朝からですか?」


「そうだ?」


「それは・・・・・・昨日のスケラテス様から頂いた塗り薬がとても・・・効いたからです!」


「・・・」


メアリは昨日の感動を表すようにスケラテスに自身の胸の内に出来た感謝を述べた。


「・・・しみて・・・凄く・・・しみて・・・でも何だか凄く嬉しくて・・・こんな気持ち・・・私は初めて・・・」


「それだけか?」


「・・・え?」


今にも涙を流しそうな表情のメアリにスケラテスは素っ気ない言葉を返すと彼女の表情が間抜けになる。


「なあメアリ? お前・・・昨日、アドル様が話されている時・・・よそ見していただろ?」


「・・・あの、いや・・・それは・・・」


「何が違うのだ? アドル様の挨拶を聞かずボーっとして何を見ていた?」


「それは・・・」


「ふん! やはりお前らしいな?」


「・・・申し訳ございません」


「いいか? 王室に入った場合、何処で誰が見ているか分からないと言うことだけは覚えておけ・・・いいな・・・メアリ?」


「はい! 以後気をつけます!」


「よろしい? では用は済んだ・・・静かにこの部屋から出て行け。ドアを開けたら周りに人が居ないか確認しろよ?」


メアリは返事をして言われた通りにドアを開け辺りを確認してから外に出た。そして思い出したかのように自身の次の仕事場のある四階に向かう。その向かってる最中に、さっきのスケラテスの言葉に腹が立って来る。


「なによ! スケラテス様のイジワル! せっかくこっちが感謝の気持ちを述べてるのに・・・それだけかって? ・・・私の気持ちを・・・あんまりだわ! やっぱりスケラテス様は冷たいスケラテス様だわ!」


──────


────


──


二日後、祝福の中で行われた使用人たちによって準備された王国ルガーナの王と王妃の18回目の結婚記念日は、王アドルとその妻ハミニアを大いに喜ばせた。


そしてそれから二週間が過ぎた頃、王アドルが王室の者を連れて訪れていた王国ブリナワルから帰って来た時の事。


使用人たちがその帰りの出迎えを終え、食事の準備に取りかかっている中、メアリは残っていた城の廊下の掃除を済まし他の使用人同様に食事の準備に向かおうとした時だった。


一人の王室の者から声をかけられる。


「ああ! そこの者、すまんがこの荷物をエルザ様の部屋の前に置いて来て欲しいんだ?」


「はい! ええ・・・エルザ様の荷物をですか?」


「ああ、そうだ? ここから・・・上の上にあるエルザ様の部屋にな?」


「分かりました? 直ぐに持って行きます?」


「じゃあ頼んだぞ? ・・・そうそう! くれぐれも失礼の無いようにな? 本来なら王室関係者しか以外は、ここから上には上がってはならんのだが・・・もし何か言われたら・・・忘れ物を届けるように言われたと言えば大丈夫だろ?」


「はい! 失礼の無いようにですね? それでは行って来ます」


「では頼んだ。ああ、ノックはしなくいいからな?」


「はい。荷物をエルザ様の部屋の前に置くだけいいのですね?」


メアリは王室の者に頼まれたエルザの荷物を届ける為に普段は決して上がる事の王室のある五階から先に上がった。


その先は大変静かで物音一つしなかった。その為にメアリの足音が目立って聞こえるくらいだった。メアリは以前スケラテスの部屋を歩いたようにゆっくり慎重に進んで、その静かな階段の先にある廊下を得て七階のエルザの部屋の前にたどり着く。


「・・・ふぅー、ここだな・・・エルザ様の部屋は・・・」


その部屋のドアは豪華な作りは、この王室の中でも最上級を感じさせ、貴族たちに用意された部屋とも段違いであった。


「・・・そりゃそうだよね? エルザ様は王女様だもんね・・・あれ? 開いたまま・・・」


メアリは思わず呟いて荷物をドアの横に置きその場を離れようとすると、そのドアが開いたままになっていることに気がついた。ドアの隙間が見え、閉めた方がいいのか気になってしまう。


「・・・ノックはしなくていいってことだから・・・閉めなくても構わない」


そう自身に言い聞かし、立ち去ろうとしたが・・・直ぐにメアリはそのドアの取っ手を握り閉めようとした。


それと同時に部屋の中で音がしたので一言かけようとメアリはドアの隙間から中を覗き見る。


「あの・・・」


メアリは声を出そうとしたが、自然と声を抑えてしまう。


「・・・・・・エルザ様」


ドアの隙間から見えたのは、部屋の中を忙しなく歩く下着姿のエルザであった。


「・・・・・・・・・」


メアリは部屋の中を覗き見ると静かにそのドアをそっと閉め、ゆっくりその場を気配を無くすように離れる。


メアリは、心臓の音を鳴らしながら動揺していた。


エルザの部屋を覗き見たからでは無い。


秘密(・・)を知ってしまったからだ・・・


「・・・・・・どうして・・・どうして・・・エルザ様の部屋に・・・・・・スケラテス様が居るの?」

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