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5.アリアの住処

バリーの街に付いて数日。


しばらくは依頼の報告や武器の修繕、拾得物の処理等とどこか慌ただしい日々を過ごしていた。


元々、依頼としては、ニファの兄であるアルト経由の依頼である重要書類の輸送と薬草等の市場調査がメインであった。そして、ついでとばかりの小依頼として、ギルド経由で請け負った魔物の討伐と薬草採取。少し長めの移動範囲であったので、同時進行で行える程度の複数の依頼をこなしていたのである。


「やっと一息かな…?」

「ああ、しっかし、安い依頼主ほどどうしてケチをつけたがるかねぇ……」


今回の採取として頼まれたのは必要頻度に対して少しだけ珍しい薬草、その一つである。

今回はこっちの予定としても即日で届けられる訳ではないが、そもそもの珍しさとしても即日は難しい薬草であった。だからこそ下処理や乾燥を済ませたものを必要数卸すことで問題がないかを事前にギルドにも尋ねてOKが出ていたというのに、卸す段になって急に依頼主が乾燥じゃなくて生がいいのになどととゴネ始め、値切ろうとしたのである。そりゃあ値切りが許される地域はある。だが、それはせめてもで依頼前だろう。後からゴネるのは筋違いだ。


最終的にはギルドに確認したことや信頼問題等から詰めに詰めて追い込んで解決させたが、もうあの依頼主から依頼を受けることはないだろう。カスハラ許すな干されてしまえ。


「元々医療系だったから報酬少なくても、ついでで受けたのにねぇ」

「それな?ったく、本当にな……はぁ。」


だりぃ、とばかりにニファの座るソファに少し間を空けてどかりと深く座り込むと目を閉じた。


「シズさん、仮眠をとるならベッドで寝てきちゃったほうがいいですよ」


そう、ここは2人が拠点にしているホームであり、そして──


「ほら、シズ。それにニファも。疲労に効く薬草茶だ。少し苦いが効果はいい」


コトリと茶器をテーブルに置き、2人分のマグに注いだのはニファの実兄、アルトである。


そう、ここは彼の運営するアリア商会の裏手にある家、アルトとニファの実家であった。

商会の主人の家、とそう名乗るには豪勢とは程遠かったが、それでも裕福めな一般家庭、くらいの大きさの家は丁寧に整備されており、とても過ごしやすかった。

えっと、ほら、あの、CMでよく見るじゃん?灯が点っちゃう綺麗な屋根した動物たちのお家がさ…?そう、ああいう規模感です。ええ。


「ああ、それと、ニファ。そいつに関してはもう大丈夫だ。その薬師はじきに引っ越すからな」


「え、そうなんだ?」


チビチビとまずいお茶を飲みながらニファが答えると、シズはもうここで寝落ちる覚悟を決めたらしい。クッションに埋もれて「んー」だか「お〜」だか、返事にならないくぐもった声を出しながら、ぐだりとソファに転がっていた。


「ああ、ウチとしても彼は面倒な薬師だとほとほと困っていたから、今回は好都合だったな」


「そうなんだ。じゃあ、もう、あんまり気にしても仕方ないかな」


なんとかお茶を飲み切りながら答えると、アルトはそっと褒美とばかりに当たり前のようにお菓子が差し出した。


この兄妹は歳の差が3つか4つか程度。それなのに、この兄ときたら、昔からニファに対してサラッと対孫のような態度を取るのである。

全く兄さんたら。私だって一応成人してるんだけどな……そう思いながらも、もらえるお菓子は最大限にパクつくのが礼儀と、美味しく胃に収めさせてもらった。


     ♢ ♢ ♢


やがて、軽食も終えたニファがリビングから退席してしばらく。


「あーあ、おっかねぇの」

「……寝たんじゃなかったのか?」


ゴロンとわざとらしくソファで寝返りを打ったシズに、アルトが困ったようにため息のポーズを取る。


「な〜にが、“じきに引っ越す”なんだか」

「……嘘は言ってないよ。アレがじきに引っ越すことになることは変わらない。元々そうなる予定だったのが早まっただけだよ」

「引っ越すというか、居られなくなる、じゃねぇの?」


「──どっちも変わらないだろ。というか、それよりも……」


アルトは否定はしなかった。大きい声だは言えないが、まぁその通りではあったので。

とはいえ、これはどうでもいい。

あとでどうにでもできる話だった。


そうして、アルトがそれよりもと続けたのは、さっきの薬草茶。

「飲まなかったろ」と茶を押し付けてくるアルトに「ヘイヘイ」と言いながら、1人の人間の未来より自分がこの茶を飲み切ることを優先する友にシズは降参ばかりに苦笑いした。


手渡されたカップの中身は澱んで底が見えない。思わずツバを飲み込みつつ、その揺らぐ水面を恐る恐る覗いた。


──世にある多くの友や家族と呼ばれるものが、全部こいつらみたいだったら良かったのにな。


あーあ、苦そ。

そして、己が映った水面を一思いに飲みこんだ。

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