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3.とある宿屋の朝と回想①


優しい風がそよぎ、柔らかな光が目に食い込んで痛い朝。ニファは好きな人の声を目覚ましにするという贅沢に脳を揺さぶられて起きた。


「──はよ、ニファ。飯どうする?ここの食堂もあるらしいし、あとは朝市でも屋台あるだろ。いくか?」


「…、シズすん…おはようございま…す」


噛んだ。

あと多分寝顔を見られたかもしれない。

いや、それ自体は旅をしてる以上、多分ある。私も見たことあるもんね。それはそう。


だけど、それはそれ、これはこれ。

ニファは布団を両手で掴んで顔を隠しながら「シズさんのおすすめは…?」と尋ねる。誤魔化しともいう。


「ん?そうだな。行きに見た感じだとこの辺は煮込みの店が美味しそうだな。ほら、ここの夜飯も鳥の煮込みだったろ?まぁ、でも朝からは重いだろうし、メニューは違うかな。食堂の見てから選んでもいいかもしれねぇか」


まだベットの住人から脱せないでいるニファと、そこに背を向けてベッドに腰掛けているシズ。当たり前に目を合わさずにハキハキと話すシズの横顔にドギマギしながらもニファが「じゃあ起きる」ともぞりと動くと、少し珍しくシズは食前に軽く走ってくるらしい、鍵を閉め忘れないようにいい含めて、部屋から出ていった。


扉が閉まってゆっくり10秒。

ニファは静かになった部屋でそっとその自らの左手を眺めた。


あれは夢だったのだろうか。


それにしては、やけに生々しい触感が手に残っている気がして、もやもやが離れない。

ニファは温もりの名残を追うように手に唇を寄せて、もし夢じゃなかったら……触れたところから好きが溢れちゃってたらどうしようと思考したところで、どうしようもなく自嘲した。


ニファはシズのことが好きだ。

友達の妹でパーティメンバーだからかもしれないが、ありがたいことにシズはニファに優しい。

なんなら、ちょっと甘やかされいる自覚もある。頼りになるし、一緒にいると安心して、ドキドキして、どんな時もかっこいいシズさん。それでいて、ちょっと可愛いところも目が離せなくて。


きっと、これからも。ニファはシズのことが好きに違いがなかった。


──けれども、それをシズにバレてしまうことだけがニファはずっと嫌で、怖くて、避けたいことであるのだ。


「好きだよ、シズさん」


誰もいない部屋に小さく笑んで祈るように、それでいて泣きたくなるような熱をニファは一粒だけこぼす。

勝手に好きになって、勝手に苦しんでるなんて、本当になんて愚かで勝手で我儘な女であろうか。


それでも、自覚していたって、ニファはそれでも報われなくても恋をしていた。


それは多分、これからも、ずっと。



   ♢ ♢ ♢



ニファがシズと初めて出会ったのは、兄アルトの商会がキッカケであった。

兄のアルトはその時薬師で生計を立てていたが、急死した祖父からの遺言のせいで、祖父の持つ小さな商会を継ぐことにさせられていた。


「あのクソじじい、遂にやらかした」


そうやって憎まれ口でキレ散らかしながらも、兄は小さいとはいえ商会、その構成員を守ることに尽力した。

兄は責任感が人一倍だった。だからこそ、祖父は兄を後継に選んだのだろうけれど。


元冒険者でもあった兄は、冒険者に向けた商売、それと薬師の知識は勿論活かした。勉学もできて賢い兄は小さいとはいえ商会の運営が上手かった。

だが、だからこそ上手くいっている蜜を吸おうとする面倒なのは寄ってくる。


利益を得ようとする遠縁やらなんやらを突っぱねる度に敵は増え、時に妨害が入ることもある。そんな折の兄は生来の優しさを潜め、事務的に徹底的にで対応した。

敵だから仕方ない。それは当たり前のそれだけれども、その兄を見ていると、どこか危なげな気がして、でもだからと言って止めることもできない。そんな時、ニファは不甲斐なく感じては黙って兄の背中に額を寄せていた。


そんなある時、兄が友達を連れてきた。

商会長のくせに一構成員のような仕事もしている兄だが、それが功を奏してか身分とか関係ない、ただただの友達ができた。それがシズだった。


「いや、アルトが商会長とか嘘だろ。俺まだ信じてない」

「まぁ別に信じなくてもいいよ。僕自身、僕は薬師のアルトだと思ってるし」


じゃあなに、商会長不在じゃんここ!と笑い合う2人に、ニファは少し安堵したものだった。


なんだかんだ、商会長になった兄は忙しさに忙殺されてわかりずらかったが、それでもどこかつまらなそうだったのだ。


ニファはやりたいことをやっている兄が好きだった。少しブラコンのニファは、そんな兄に友達ができて、心から笑っているのがとても嬉しくて安心して、そんな兄と過ごす彼に感謝したのを確かに覚えている。



アルトさんはなんというか、前作ダブル主人公って感じの男です。戦隊モノだと本人は僕はブラックと言い張るけどどう見てもレッドかブルーだからね?って言われるタイプのブルーです。(そんな話はない)

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