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1.とある『よくある話』


大切なことは、何ひとつ言えない人たちの話




それはよくある剣と魔法の世界。


神秘や冒険、ダンジョン、それに旅も国も故郷もある、そんなありふれた。

──どこにでもある、どこかの世界。


「次の街までもう少しだな」

「そうだね、門が閉まるまでに着けそうでよかった…」


凸凹とした悪道だが、街道であることに違いはない……そんな街へと程近い道を、行く人影が2つ。

これも、よくあるところの冒険者、そのパーティである。

パーティというにはここは最小人数の2人、ではあったが、そのような2人パーティというものは、多くはないが、まぁいないこともなかった。

大きなパーティでよく見るのはおおよそ5人程度のメンバーで組まれたものであろうか。

前衛としての剣士や戦士、中衛にランス使いやシーフや弓職、後衛として神官やヒーラー、魔法使い……様々なジョブのその中で、前衛と後衛が組む、というのが最小人数のパーティとしてよくあるカタチだ。


「ニファ、疲れてねぇか?」


街のそばの街道というものは、どんなに荒れていても大概は魔物よけの植物などが植えられており、山や荒野よりはそこそこに安全である。

とはいえ、完全な油断は命取りだが、それでも会話をするくらいの余裕はある。


「そういうシズさんこそ……昨日、あまり寝てませんでしたね」


「あー、まぁ、その眠りは浅い方だから、」


「……それ、前も言ってましたよね?」


騙されませんよ、とジト目で隣を見るのは魔法使いのニファ。


「いや、別にそんなつもりじゃ……、」


と、会話に答えようとして……そして、それを断ち切ったシズはそのゆるゆるとさせていた眦をスッと凪がせて立ち止まった。


「……出てこいよ、」


シズが鞘から抜いた獲物を構えて低い声を出すと、自分たち以外の足音が、バレちゃあ仕方ないと隠すことを辞めたようだった。


ゾロゾロと出てきたのは小悪党、物取り、盗賊崩れ、悪漢。まぁそんなところである。


魔物が出なくても、悪い人間はどこにでもいる。街道沿いなんて、まぁ油断した人間の多いこと。調子に乗ってきた走り出しのパーティの死因の多くは同じ人間であるなんて、人間とは兎にも角にも救いがない生き物である。


「おいおい、男女2人で楽しくピクニックか?」


「これだから冒険者の成り立てってのは危ないんだよなぁ?」


「……、」


冒険者の現実をおにーさんたちが教えてあげようね、なんて気持ちの悪い嘲笑を浮かべながら、にじり寄ってくる男たち。法律が正しくあれば何らかのハラスメントとして訴えた方がいい顔をしていた。


「街も近くて油断しちゃったかな」


まぁ、それは確かにであった。油断は命取り。

こればっかりはどんなパーティも。


このパーティ2人の周囲を取り囲むは6人。


後衛を守るのが1人というのは、どう考えてもあまりに頼りない光景だった。


ふるり、ニファが俯くと、男たちの笑い声はドッと大きくなる。


「ほら見ろ!泣いちゃったじゃん」

「怖かったでちゅねぇ〜!この彼氏ぃ?()()たら、お嬢ちゃんだけは助けてあげよっかなぁ?」

「いいねぇ、俺たち優しいからさぁ、」


あ、ここまで典型的な調子乗った悪役なんだ!?とそう言いたいほどの定型文言。けれども「おいおい、そんな典型的なことあるかよ!」と突っ込む余裕すらない緊張の空気がただようこの空間にツッコミは不在である。男たちは余裕の笑みを浮かべ、そのうちの数人は杖をぎゅうと握るニファへとにじり寄る。


「ほら、お嬢ちゃん、こんなひょろっとした彼氏くんじゃなくてさ、俺たちと……」


「……、て……と、」


「え、なんだって?」


「、速度・攻撃ブースト…っ!」


ぶわり、と力強い風が噴く。

ニファは泣きごとを言っていたのでは無い。ただ、静かに魔力を練っていた。

はたはた、とニファのローブを揺らした魔力は攻撃として彼らへ……ではなくシズへと着弾した。そして、瞬間。シズのその姿は掻き消える。


そう、彼らは昨日今日で組まれたゆるゆるカレカノ⭐︎パーティではなかったのである。

だから、彼らは魔物が少ない街道とはいえ、油断はしていなかった。


ただ、探していたのだ。

ちょっと戦闘に都合のいい場所を、タイミングを。

そう、真に油断してたのは、おちゃらけ男たちの方である。


「──ほいよ、じゃあ終いだな」


攻撃魔法よりも付与魔法が得意な魔法使いのニファ。それによって攻撃力と速度を追加されたシーフのシズは、元々の素早さを更に加速して、ニファを中心に円を描くように男たちを一瞬でぶっ飛ばす。

本来、剣士よりも一撃に攻撃力がある訳ではないが、圧倒的な技量があるそこに、火力もかさ増しされているので、男たちとシズにはあからさまなレベルの差がそこにあった。

急所に刺す事もできたが、お尋ね者討伐は生きている方が旨味がある。手加減もできるほどに余裕のあるシズはその辺の判断が上手く、場数もかなり踏んでいるシーフだった。


「プリズン・フロスト…!」


シズが飛ばした先へ、ニファは待ってましたとばかりに練っておいた魔力を発動させる。


現れるのは氷で作った牢獄。

そっとやちょっとで壊れないようにする為には付与も必要と、魔力の溜め……少しの時間稼ぎが必要だった。


かなり慣れたコンビネーションでのちぎっては投げ。男たちは先ほどまでの調子ごと秒で一つの氷の牢獄に次々に投げ込まれた。


「よし。これで最後。……ニファ、大丈夫か。怪我ないか?」

「うん、シズさんこそ大丈夫?」

「ああ。アレくらいじゃ全然。つーか……、ほらニファ。氷魔法使うから手ぇ冷えてんじゃん……」


属性魔法は使えるが得意魔法である付与ほどはまだ得意ではないニファ。自分に来る反動が手に残っては冷えていた。

にぎにぎと両手を揉みほぐすように温度を移して甲斐甲斐しくニファの手を温めるシズに、同じ檻にえいこらと6段、綺麗に投げ入れた彼らから恨みがましい声が上がる。


「おいおい!こんなゆるゆるな典型的カレカノパーティに!?」

「くそぉ!俺たち“絆six”が捕まるなんて!?」

「まだ悪いことあまりしてないのに!見せつけるように目の前でいちゃこらしやがって!」

「やだー!ママー!狭いよー!」

「……、」

「まって、俺一番下、クソ辛い!てめぇら重いんだよ!」


捕まるところまでなんて典型的なんだ…、そんな突っ込みをしてあげる優しさすら消え失せるような彼らに、シズは無視をして荷物を回収。一方、手が温まったニファは顔を上げてムッとして彼らに「あの…、」と檻越しに少しだけ近づいた。


「な、なんだよ嬢ちゃん」

「恨み言か!そうなんだな!」

「ぐ…!」

「まま…?」

「……、」

「お前ら暴れるな!早く俺から降りろよ!」


やいやいと叫ぶ6人組にしばらくモゴモゴしていたニファだったが、やっと、その小さい声が抗議する。


「ま、まだ、付き合ってないもん…!」

だって、シズさん、私のこと妹くらいにしか見てないし…!


そんな恋する女の子の恨みがましい「カレカノなんて勘違い言いやがって!」というどこか八つ当たりのような甘い怒りにたじろぐ男たち。


「ええ…っ!?なんか、ごめん…?」

「え、あ、アレで…???そうなの…??」

「言いたかったの、それなんだ」

「マ…?」



──そう、この物語は、チャンスばっかりの恋のお相手との2人旅だってのに、拗らせ片想いをキメたまま冒険するという、1人の魔法使い、ニファのほろ苦恋愛ファンタジーなのである。



「……ッおめーら!いい加減降りろよ!!!」



たぶん。


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