ー1章ー 7話 「新たな目覚めと、もう一人の旅人」
新しい風は、思いもよらぬ場所から吹いてくる。
静かだった物語に、もう一人の人物が加わるとき、それは新たな歯車となって回り出す。
この世界に落ちたもう一人の“転生者”──彼の視点が加わることで、物語は少しずつ形を変え始める。
ミズハ村への支援物資を詰め終わった俺は、大きく伸びをして布団に潜り込んだ。
干しイモと水筒、予備の袋。
――これだけあれば、まぁ大丈夫だろう。
【リュウジ】「明日は、お昼前には到着して、問題解決の糸口を探さないとな……」
色々と思案したいところだが、明日に備えて俺は目を閉じることにした。
一方その頃、別の場所では。
乾ききった風が吹きすさぶ、乾ききった大地の香り。
そこに、一本の枯れた川が横たわっていた。
かつて豊かに水をたたえていたであろうその川は、今では茶色い土と砕けた岩を晒すばかり。
そんな川のほとりに、一人の男が倒れていた。
筋骨隆々とした体格に、鋼のような肩。
だがその表情には、どこか物憂げな影が落ちている。
――葛城 武豊、31歳。
プロ格闘家を目指し、努力を重ねてきた男。
だが、その夢は叶わず、引退を決意したその日、足を滑らせて川に転落。
岩に頭を打ち、そのまま――人生の幕を閉じた。
【タケト】「……ん、ここは……」
男が目を覚ましたとき、頭の下には硬い岩があった。
人生の最後を思い出させるような悪趣味な演出………。
【タケト】「また……岩かよ」
彼は、乾いた笑いを漏らす。
思い出される最期の瞬間。
そして、あの妙にテンションの高い女神の声。
【女神】「まだ若いのに、もう命を落としちゃうなんて……お茶目さんね♪」
【タケト】「……は?俺はまだ………って!?」
魂だけの存在……しかし自分の意思で話している。
もう訳が分からない。
【女神】「んもう….ベタな反応ね!」
【タケト】「待て待て!俺にはまだやる事が……!」
【女神】「だ~め!もう死んじゃったんだから。それともそんなに生き返りたいのかしら?」
弄ぶような話し方。
それでも死んだなんて、受け入れられない。
【タケト】「当たり前だろ!そんなもん、簡単に受け入れられるかよ!」
【女神】「そう。……なら良いわ!でも元の世界はダメ。別の世界で生き返らせてあげるわ♪オマケに現世での知識や経験はそのままで。さらに21歳に若返らせてあげる!31歳じゃ不憫ですもの」
【タケト】「マジか!なら……」
【女神】「あと、転生者って事は同じ境遇の人にしか話してはダメよ!まぁ、あなたの場合は問題ないと思うけど」
なんの事を言っているのか理解できないが、転生者という事は話してはいけないみたいだ。
【女神】「先輩転生者が先に行ってるから、一緒にがんばってらっしゃ~い♪それと、 ハンマーなんて武器っぽいのをあげるなんてぇ、ト・ク・ベ・ツなんだからねぇ~」
次第に意識が薄れ、やがて暗闇に包まれた。
【タケト】「……何がどうなってんだ?」
傍らには、金の柄がついた、やけに重たいハンマーが。
冗談かと思ったが、これは現実のようだ。
【タケト】「……ま、人生やり直せるなら、それも悪くねぇか」
タケトは立ち上がる。
もう一度、前へ進むために。
そして――
【リュウジ】「おーい、そこの人! 大丈夫ですかー!」
朝日が差し込むなか、声が響いた。
その方向には、一人の青年が荷車を引いて歩いてくる。
黒髪に、少し眠たげな目つき。
だが、その声には不思議な温かさがあった。
【タケト】「……君は?」
【リュウジ】「俺? リュウジ。ミズハ村へ荷物を運んでるところ。で?あんたは何でこんな所で倒れてたんだ?」
(ギュルルルルゥゥ…)
何か音がした。
【タケト】(助かった!口実ができた!)
【タケト】「いやぁ…しばらく何も食べてなくてな…」
男は空腹で倒れていた…ようだ。
俺は支援物資からイモを取り出し彼に渡した。
【リュウジ】「良かったらコレ食べるか?」
【タケト】「良いのか?」
【リュウジ】「あぁ、もちろん。実はこの先のミズハ村って所に、支援物資として持っていく食糧なんだけど、空腹で倒れてた人もミズハ村の人も、同じように困っている事には変わりないからな。気にするな!」
【タケト】「ありがとう!感謝する」
【リュウジ】「そういえば、あんた…名前は?」
【タケト】「俺はタケトっていうんだ。よろしくな」
ー!?ー
この時、二人は普通に話をしていて、何の疑問も、違和感さえ感じていなかった。
相手の名前が日本人である事に気がつくまでは…。
お互いが【転生者】であることを認識した瞬間だった。
と、同時にタケトは
【タケト】(この人が女神の言っていた人か)
と、どこに居るかも分からなかった相手に出会い、驚きと少しの安堵感をおぼえていた。
【タケト】「もし…リュウジが迷惑でなければ、イモのお礼に荷物を運ぶのを手伝わせてくれなか?」
【リュウジ】「おぉぉ!良いのか!?すごく助かるよ!」
俺はタケトの申し出に快く応じることにした。
【タケト】「そうか、ありがとう!これからよろしくな。」
【タケト】「あぁ、よろしく!……ところで………。」
俺は確認したいことがあった…。
多分タケトも気になっているであろう、転生という確信を。
【リュウジ】(女神のヤツ……あの軽いノリでまた転生者を出したのか!?……何か企んでるのか!?)
ここで新たな転生者が登場しました!
少しずつ世界が広がっていくのを、自分でも書きながら実感しています。
タケトの今後の活躍にも、ぜひご期待ください。
そして、今日も読んでくださってありがとうございます!




