ー3章ー 11話 「荒野に希望を、山に秘策を」
ホノエ村を出発したリュウジは、スライムたちと共に荒野の再生へ。
かつてモグラたちと出会った地に、緑を取り戻す作戦が動き出します。
そして、山の向こうにいる“領主”への対抗策として、密かにある「秘策」が始動……!
リュウジは朝早く、ホノエ村の広場にタケトとナツキを呼び出した。
【リュウジ】「スライムをウルフ車で、それぞれ別の場所へ連れていきたいんだけど、頼める?」
【タケト】「任せろ。で、行き先は?」
【リュウジ】「タケトにはゴブリンの森、ナツキにはコボルトの住処だった荒野へ。それぞれスライムを連れていってくれ。配置はあとでスライムに教えるから」
【ナツキ】「わかった。これでまた緑が蘇るんだね!きっとみんなも喜ぶよ!」
二人が元気にウルフ車に乗って出発すると、リュウジも大量のスライムと共に出発した。向かう先は、以前モグラたちと出会った山の麓の荒野だ。
---
午後、目的の地にたどり着くと、モグラの穴があった場所の近くでふいに土が盛り上がった。ひょこっと顔を出したのは、前に会ったモグラだった。
【モグラ】「おおっ!? お前か、人間! ……ってなんだ!?その大量のスライムたちは!?」
【リュウジ】「プロジェクト部隊だ。草原にするって約束しただろ? 今回は増援を連れてきた。緑地化、加速するぞ!」
リュウジの言葉に、モグラは目を丸くしながらも喜んでいた。すでに先に送った数体のスライムが地面にぬちゃぬちゃを撒き、ぽつぽつと芽吹きが始まっていたのだ。
【モグラ】「突然土にぬちゃぬちゃしたものを巻き出してさぁ、何かと思ったら草が生えてきてびっくりしたんだ! あれ、すごいな!」
【リュウジ】「まぁ、あれがスライムの力ってやつさ。これからもっとすごくなるぞ」
モグラは何度も頭を下げ、ふと問いかけた。
【モグラ】「しかし、お前……本当に人間なのか? この何百年、人間と魔物が仲良くするなんてなかったぞ?」
その言葉にリュウジは少しばかり困った表情を浮かべ、胸元から竜涙石のネックレスを見せた。
【リュウジ】「……やっぱりそうなるよな。これの影響が強いんだと思う」
モグラはそれを見るなり土にぺたんと伏せ、目をそらした。
【モグラ】「そ、そそ、それは……!同胞様の証!!」
【リュウジ】「だからやめろって! 普通に話してくれればいいから!」
必死に言うが、モグラはどうにも態度を変えてくれなかった。
仕方なく話題を変える。
【リュウジ】「なぁ、なんで人間と魔物ってこんなに断絶してるんだ? 昔はもっと交流があったんだろ?」
【モグラ】「もうかなり昔の話ですね……それは、俺の爺さんの爺さんの、さらに爺さんから伝わってる話なんですけど……どうも人間が“大地を支配”した頃から、魔物は追いやられたみたいですね。それが今も続いているってことです」
モグラの話によれば、ある時期から人間たちは土地を牛耳り、魔物を駆逐しようと企んだ。魔物たちは自衛のために小競り合いはあったものの、理由が分からず人間を避けるようになり、やがて互いの接点はほぼ絶えたという。
【リュウジ】(……現代社会とそっくりだな。強い側が都合よくルールを作って、弱い側が虐げられ苦渋を強いられる……)
リュウジは小さくつぶやいた。胸の中に、やり場のない怒りがわずかに渦巻いていた。
それでも、今はこの荒野を緑に戻すことが先決だ。
【リュウジ】「………そうだったのか。ごめん、辛いこと思い出させちゃって」
リュウジはスライムたちに視線を向けた。
【リュウジ】「頼むぞ、お前たち!ここを、緑いっぱいの土地にしてくれ。モグラたちが安心して住めるように」
スライムたちは「ぷるんっ」と元気よく跳ねて、ぬちゃぬちゃを広げていった。
---
リュウジは最後に、モグラへと向き直った。
【リュウジ】「なあ、この山に……トンネルって掘れるか?」
【モグラ】「トンネルですか? まさか……人間が通るための?」
【リュウジ】「そう。山の向こうに領主がいるだろ?そいつらが今、不穏な動きをしているんだ。それを阻止したいんだけど……正面からやり合うつもりはないんだ。それで、うまく回り込む道がないか探してたんだよ。ただこの山、どう見ても登れそうな感じじゃないだろ?」
モグラは数秒の沈黙の後、ふふんと鼻を鳴らした。
【モグラ】「お任せください! 俺たちモグラ族に穴掘りで勝てる奴はいませんから!必ず向こうの荒野まで繋いでみせますよ!」
リュウジは静かに拳を握った。いざという時のための“秘策”が、いま動き出したのだった。
今回も読んでいただきありがとうございます!
スライムによる緑化プロジェクトが進む一方で、
リュウジはモグラたちと協力し、新たな布石を打ち始めます。
戦わずに抗うために、今できることを――
次回はタケトとゴブリンたちの夜間作業が始まります!
お気に入り・感想・評価など、励みになりますのでぜひお願いします!
続きもどうぞお楽しみに!




