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ー1章ー 5話 「村の未来に、泡が立つ日」

村に流れる風が、ほんの少しだけ変わり始めた気がします。

それは偶然なのか、誰かの努力の結果なのか。

あるいは……スライムたちのぷるぷるの仕業かもしれません。

今日もどこかで、何かが芽吹きはじめています。


――あれから数日後。

村の畑の一角が、明らかに変化していた。


【村人A】「お、おいリュウジ! これ見てくれ!」


畑仕事をしていた青年が、興奮気味に手招きする。

駆け寄ると、そこには今まで村では見たことのない植物が育っていた。

細長く伸びた茎に、黄金色の実をつける――それは、間違いなく麦だった。


【リュウジ】「これは……小麦と、大麦……!?」


リュウジの脳裏に、現代日本での記憶がよみがえる。

パンやラーメンの原料となる小麦。

ビールや麦茶を生み出す大麦。


【リュウジ】「間違いない……村のスライムたちが食べた草の中に、雑草に紛れて麦の種が混ざってたんだ」


スライムたちが持つ養分蓄積の力で、土壌が一気に豊かになった。

結果、わずかに残っていた種子が芽吹き、こうして立派に成長したというわけだ。


【村人A】「つまり……村の主食がイモだけじゃなくなる可能性が出てきたってことだよな?」


【リュウジ】「パンが……! パンが食べられる世界線きたーー!!」


あまりの感動に、我を忘れて叫んでいた。

村の青年たちも大騒ぎだ。

現実的な話をすれば、製粉も焼く道具もまだないのだが、“希望”というものは人を動かす。


その話を聞いていた村の女性が、目を輝かせながら俺に話しかけてきた。


【ユイナ】「ねぇ! 今の話、本当!?」


【リュウジ】「主食がイモじゃなくなるかも? ってヤツか?」


【ユイナ】「違うわっ! 麦が育ったって話しよ!」


【リュウジ】「あぁ、そっちね! 失礼。そうなんだ! ほら、あそこに。小麦も大麦も、どっちもあるぞ!」


彼女は俺が指さした方へ駆け寄り、その作物をじっと見つめて、肩を震わせた。


【ユイナ】「……やっと……やっと父さんの店が再開できる……。」


涙声の彼女の様子に、少し心配になって声をかける。


【リュウジ】「なぁ、父さんの店って言ってたけど、何かあったのか?」


【ユイナ】「村がこんなになってから、どこもかしこも作物ができなくなって……隣村から届いていた麦も来なくなったの。みんな食べるだけで精一杯だったから、父さんの店は次第に客足が減って……とうとう潰れてしまったの」


どうやらこの村以外も深刻な状態にあるらしい。


【ユイナ】「だから! この麦さえあれば、もう一度お店を再開できるって思うの!」


確かにこんな状態じゃ、みんな自分や家族を守ることしか考えられなくなるのは当然だ。


【リュウジ】「そうだったのか…。それで、お父さんのお店って何をやっていたの?」


【ユイナ】「食事ができる酒場よ。この村じゃ唯一の憩いの場だったんだから! ほら、あそこに。」


確かに、それらしいお店がある。

しばらく開けていなかったようで、建物が少し傷んでいるように見える。


【リュウジ】「そうだったのか。で? お店と麦がどう関係してくるんだ?」


【ユイナ】「うちの売りは“シュワット”でね。それを自家製で作って、お客さんに提供していたのよ。すごく好評で、仕事帰りにみんな楽しそうに飲んでいたわ。それの材料なの。」


【リュウジ】「シュワットとは? 飲み物?」


【ユイナ】「黄金色をしたお酒で、泡と飲んだときに、喉がシュワシュワってする爽快感のある飲み物よ。」


【リュウジ】(それってビールじゃないかぁぁぁぁ!)


心の中で叫んでしまったが、まさか異世界でビールが飲めるなんて思ってもいなかった。

復興は大事だが、彼女のお父さんの店の復活は、この村にとっても重要なことだと思った。


……ビールへの期待もあるが。


そんな賑やかな午前が過ぎた頃。

リュウジはふと、この村には水源はないのか? と疑問に思った。

かつてはイモ以外の野菜を作っていたのであれば、水辺らしきものがないとおかしい。


【リュウジ】「なあ、じいさん。この村に……水辺ってないのか?」


【じいさん】「おお、昔はのう。村の北に小さな川が流れておった。ミズハ村っていう隣村のほうから流れてきていたんじゃが、ここ数年で枯れてしまってな。」


【リュウジ】「それって……大地が荒れてから?」


【じいさん】「うむ。魔物の影響で草木が減った時期と重なっておる。雨も減ったし、流れが細くなって、今じゃ完全に枯れてしまった」


【リュウジ】「ミズハ村……川の上流がそこなら、何か起きてる可能性あるな」


じいさんは腕を組んで、うなった。


【じいさん】「実を言うと、わしも気にしておった。ミズハ村とは昔から交易があっての。最近はまったく使者も来んし、わしらも忙しくて様子を見に行けなかったのじゃ」


【リュウジ】「なら、俺が行ってくる。気になるし、何か助けられることがあるかもしれないしな!」


じいさんは目を見開き、そしてゆっくりとうなずいた。


【じいさん】「頼んだぞ。気をつけてな。」


話によると、徒歩で1時間ほどの位置にあるらしい。

村の北に広がるなだらかな丘を越えていけば、かつて川の源流だったという場所があるそうだ。


リュウジはその道を歩きながら、枯れた川をたどるようにして進んだ。

途中、干上がった川床や、草に覆われた石畳がところどころに残っている。


【リュウジ】「……これは……」


村の境を越えたあたりで、リュウジの足が止まる。

巨大な岩が、川の中央に鎮座していた。


【リュウジ】「岩で、塞がれてる……!」


水はわずかに岩の隙間を流れていたが、大部分はせき止められ、上流の川辺はぬかるみとなっていた。


【リュウジ】「こりゃ……隣村、相当まずい状態なんじゃ……」


岩の向こうには、かすかに人の営みの気配が見える。

リュウジは足を早めた。

残念ながらリュウジの予感は、的中していた――。


ミズハ村は、氾濫した水に覆われ、作物は根腐れを起こし、人々は途方に暮れていた。

そしてリュウジの目に、再び希望の火がともる。


【リュウジ】「……やるべきことは、まだまだあるな!」


ご覧いただきありがとうございました!

今回は村の未来に向けて、ちょっとだけ希望が泡立つようなお話でした。

なお、「シュワット」という響きには妙に夢が詰まってる気がしてます(笑)


村と人、そしてスライムと泡――まだまだ物語は続きますので、引き続きどうぞよろしくお願いします!


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