ー2章ー 23話「忍び寄る影」
静かな森に忍び寄る、得体の知れない気配――。
旅人の残した違和感から、リュウジたちは動き出します。
村を守るため、いま警戒態勢が敷かれる──
“見えざる敵”の影が、物語を次の段階へと進めていきます。
森のざわめきが、どこか不穏に響いていた。 リュウジ、タケト、ナツキの三人は、かつてロックゴーレムがいた森の付近にある街道を調査しにやってきていた。
【リュウジ】「……これが街道ってやつか?ってか、ただの獣道じゃねえか」
道と呼ぶにはあまりに荒れていた。かろうじて地面にうっすらと人が通った痕跡はあるものの、草や枝は伸び放題。中には人の背丈ほどに育った草もあり、とても人が通る道には見えなかった。
【タケト】「確かにこれは……人が最近通ったようには見えないな」
【ナツキ】「待って。分かりにくいけど、ここだけ茎が折れてる。それに足跡も……」
【リュウジ】「本当だ!ってことはあの旅人はロックゴーレムの問題が解決した事を知って向こう側と行き来してるのか?」
そう、あの旅人だ。先日の芋ようかんの試食会に現れた見知らぬ男。妙に礼儀正しく、しかし何かを”探っている”ような印象が残っていた。
【リュウジ】「そもそも、ロックゴーレムがいたって噂が広まってた場所に、好き好んで来る旅人なんて普通いないはずだよな。しかも道もこのザマだ」
そして、ロックゴーレムの問題を解決した事実を知っているのは、リュウジたちとホノエ村の村人だけ。外部に漏れるはずのない情報。
【タケト】「……あの旅人、何か企みがあるのかもしれないな」
【ナツキ】「ロックゴーレムの問題が解決したのを知ってたんだから、どこかに潜伏してたんじゃないかな…」
【タケト】「可能性は高いな。探ってみるか?」
【リュウジ】「いや、それも考えたけど……逆にこちらの警戒心を悟られても面倒だ。今は保留だな」
結局、この場でできる調査は限られていた。三人はホノエ村へ戻り、まずは村人たちに警戒を促すことに決めた。
―――
ホノエ村に戻ったリュウジたちは、すぐに村人たちを集めた。
【リュウジ】「みんな、急に集まってもらって悪い。ちょっと大事な話がある」
広場に集まった村人たちは、いつになく真剣な顔でリュウジの話を聞いていた。
【リュウジ】「実はさっきの旅人……なんか妙だった。こっちの道は草がボーボーで通れないし、ロックゴーレムの話もあって、外から人が来るような場所じゃない。それなのに現れた。だから、みんなも今後、見たことのない人を見かけたら、十分に注意してくれ。怪しまれないように振る舞いながらも、常に警戒心を忘れずにな」
真剣な口調に、村人たちは静かにうなずいた。
【リュウジ】「それと……このことをトリア村とミズハ村にも知らせておきたい」
リュウジは筆を取り、簡潔に今の状況と警戒の必要性を記した手紙をしたためた。そしてそれを、信頼できるウルフたちに託した。
【リュウジ】「これを、各村の村長に届けてほしい。頼んだぞ」
【ウルフ】「お任せください!」
さらにリュウジは、ゴブリンたちにも指示を出した。
【リュウジ】「ゴブリンたちは、交代で昼夜問わず警備を頼む。何かあったらすぐ俺たちに知らせてくれ」
【ゴブリンA】「了解!お任せあれ!」
最後に、ロックゴーレムにも協力を仰いだ。
【リュウジ】「ロックゴーレム。お前には、住まいの森の周囲を見張っていてほしい。何か不審な動きがあったら、すぐに教えてくれ」
【ロックゴーレム】「……任された」
それぞれが自分の持ち場に散っていくのを見送りながら、リュウジは一人、空を見上げた。
【リュウジ】「……こんな地の果てみたいな場所に、わざわざ何の目的で……?」
もし、転生していなかったら。もし、自分たちがこの地に来ていなければ、未だボロボロの村と、魔物に怯える生活しかなかったはずだ。そんな場所に、リスクを冒してまで現れた“誰か”。
その目的が、ただの興味本位であるとはどうしても思えなかった。
静かな村に、得体の知れない影が忍び寄る。
穏やかだった日常に、じわりと、しかし確実に暗雲が立ち込めていた。
――まだ姿を現さぬ“敵”との戦いが、静かに幕を開けようとしていた。
今回は派手な展開こそありませんが、不穏な足音が静かに近づいてきました。
この「違和感」が何をもたらすのか――
物語は、いよいよ新たな局面に入っていきます。
引き続き、次回もどうぞお楽しみに!




