ー2章ー 15話 「謝罪と始まり、道を作る者たち」
ロックゴーレムがゴブリンキングの前で頭を下げる。
語られたのは、魔物同士のすれ違いと静かに暮らしたいという共通の願いだった。
リュウジは、謝罪と信頼を“道作り”という形で示すよう提案する――。
リュウジとロックゴーレムは、そのままゴブリンキングのもとへと向かっていた。
当然、敵意むき出しのゴブリンたちがリュウジたちを取り囲もうとするが、それをリュウジが手を広げて制止する。
【リュウジ】「待ってくれ! こいつは敵じゃない!」
険しい表情のゴブリンたちを宥めながら、リュウジはゆっくりと進んでいく。
キングは元気を取り戻してはいたが、まだ本調子ではなかった。
そして、隣を歩くロックゴーレムも、想像よりも遥かに小さい――小学生ほどの大きさだ。
戦うどころではないだろう。
ゴブリンたちに見守られる中、リュウジたちはキングの前に辿り着いた。
リュウジは一礼し、そして口を開く。
【リュウジ】「キング、お願いがある。まずはこいつの話を聞いてやってくれないか」
ゴブリンキングはしばらくリュウジを見つめていたが、やがてゆっくりと頷いた。
【ゴブリンキング】「……リュウジ様の頼みとあらば」
ロックゴーレムは、小さな体を震わせながらも、一歩前に出る。
そして、しっかりと頭を下げた。
【ロックゴーレム】「……ゴメンナサイ。オレ、酷い事した。許してほしい」
静かな謝罪の言葉から、ロックゴーレムは語り始めた。
自分が元々は王都近郊の岩山に暮らしていたこと。
しかし、王都の人間による魔物排斥の波に飲まれ、安住の地を追われたこと。
この地に流れ着いたが、ゴブリンたちの住む森が騒がしく、静かに暮らすために岩の壁を築いてしまったこと。
それが結果的にゴブリンたちを困窮させ、村を襲わせる原因になったこと。
【ロックゴーレム】「静かに……暮らしたかった……ただそれだけだった」
リュウジもキングも、黙ってその話を聞いていた。
(……被害者が、また新たな被害者を生んでいく……か)
とはいえ、罪は罪だ。
リュウジは、ロックゴーレムの気持ちを汲みながらも、静かに提案を口にした。
【リュウジ】「ロックゴーレム、お前は岩を食べたら大きくなれるんだよな?」
【ロックゴーレム】「……はい」
【リュウジ】「だったらさ、ゴブリンたちと一緒に道を作ってくれないか?」
ロックゴーレムはきょとんとした顔をした。
【リュウジ】「人間たちは、お前たちをまだ怖がってる。でも、いきなり謝罪されても受け入れるのは難しい。だったら、“行動”で見せるしかない。遠くから見ても分かる形でな」
リュウジは続ける。
【リュウジ】「ゴブリンたちは道を均す。お前はその後を踏み固める。これで、誰が見ても分かる、立派な道ができるはずだ」
しばらく沈黙が流れた後、ロックゴーレムがこくりと頷いた。
【ロックゴーレム】「……分かった。オレ道作る。許してくれるまで」
ゴブリンキングも、それを受け入れるように、ゆっくりと頷く。
【ゴブリンキング】「この度の件、我らも猛省している立場。お主の謝罪……リュウジ様に免じて、受け入れよう」
さらにロックゴーレムは、これまで築いた岩の壁を自らの手で撤去することを約束した。
ゴブリンキングも、今後は人間たちやロックゴーレムにもできる限り迷惑をかけぬよう努めると誓った。
こうして、ゴブリンたちとロックゴーレムの間には、一旦の和解が成立したのだった。
【リュウジ】「よし! じゃあ明日、村の道のところに集合な!」
そう伝えて、リュウジとウルフはホノエ村へと戻った。
――村に戻ると、タケトとナツキが安堵の表情でリュウジを出迎えた。
【タケト】「無事だったか! 心配してたんだぞ!」
【ナツキ】「何かあったんじゃないかって思ったんですよ!?でも戻ってきてくれて良かったです!おかえりなさい」
リュウジは二人に一部始終を説明した。
ゴブリンとロックゴーレム、双方に事情があったこと。
ただし人間たちにとっては加害者であることに変わりないため、まずは行動で信用を取り戻すことにしたこと。
そして、その道作り計画のこと。
【リュウジ】「でな、その道作りなんだけど……タケト。監督、やってくれないか?」
【タケト】「俺が!?」
【リュウジ】「ああ。お前なら、ちゃんとバランス見て作業できるだろ? ゴブリンもロックゴーレムも、お前の指示に従うように話しとくからさ」
タケトは驚いていたが、すぐに考え込み、やがて力強く頷いた。
【タケト】「分かった。やらせてもらう!」
【ナツキ】「うん、タケトさんならきっと大丈夫だよ!」
リュウジはにっこりと笑った。
【タケト】「ナツキ。もう仲間なんだから、さん付けはなしな。」
【ナツキ】「うん!」
こうして、翌日からホノエ村の“道作りプロジェクト”が本格的に動き出すことになった。
荒れた道が整い、人と魔物が共に力を合わせる──
その最初の一歩が、静かに、しかし確実に踏み出されようとしていた。
人と魔物の関係を少しずつ修復する“道作りプロジェクト”が始まります。
信頼は言葉だけでは得られない。行動で証明していく。
そんな小さな歩みが、やがてこの世界を変える力になると信じて。




