ー2章ー 13話 「償いの余波と、揺れる足音」
ゴブリンたちによる夜間の柵修復、そして村人たちの微かな心の変化。
一方で、行商人が途絶えた原因として“ロックゴーレム”の存在が浮かび上がる。
リュウジは真相を確かめるため、森の奥へと向かう――。
数日後。ホノエ村の道と密かに進めていた柵の修復が、ついに完了した。
昼夜を徹した作業は、過酷なものだったと容易に想像できるが、それも彼らの今できる誠意と謝罪の現れなのだろう。
そしてホノエ村は、あの騒動からは想像もできないほど、落ち着きを取り戻していた。
【ナツキ】「あれ!?村の柵が直ってる!」
【リュウジ】「柵はゴブリンキングの申し出でがあって、皆に怖がられるのを配慮して夜に作業してもらったんだ。ってか中々の完成度だな!」
【村人A】「夜中に……本当に直っちまったのかよ…」
【村人B】「正直、ちょっと見直したよ。あのゴブリンたち……」
疑念が完全に消えたわけではないが、破壊されたものが元通りになったことで、村人の中にも変化が生まれていた。
そしてタケトもこの間、ハンマーで家や納屋、厩舎などを直していた。
【タケト】「よし!後はあそこの厩舎を直せば終わりだな!」
【村人C】「タケトさんの不思議なハンマーのおかげで、すっかり元通りだ!ありがとう」
──そんな中、リュウジは村人たちに話を聞いていた。
【リュウジ】「なぁ、ロックゴーレムって聞いたことあるか?」
【村人A】「噂でしか聞いた事ないなぁ…」
【村人B】「街に続く街道があるんだが、そこにロックゴーレムが現れるって話だ」
【村人C】「めっきり行商人が来なくなったのもそのせいだろうと、村でも少し噂にはなってたよ」
それを聞いたリュウジは、心の中で思わず頷いた。
あのゴブリンキングの話と、まったく符号している。
【リュウジ】「……やっぱり、キングの言うことは本当だったのか………」
ゴブリンたちもまた、“ロックゴーレム”という存在によって住処を奪われ、飢え、村を襲った。
【リュウジ】「ゴブリンたちの言い訳に聞こえると思って、この前は話さなかったけど、ゴブリンたちは、そのロックゴーレムに森を分断されて食糧難にあっていたんだ。もちろん、やった事はよくない。被害者が、別の誰かを傷つけてしまう……そんなこと、現実でもよくある話だ。けど、それを知った上で、少しだけでも……彼らを許してやってほしい」
しばらくの沈黙の後、村人たちは目を閉じて深く息を吐いた。
【村人A】「……すぐには無理だけど……だが、時が経てばいつかは……って。俺だって、そう信じたい」
【リュウジ】「無理にとは言わないさ、でもありがとう」
別にゴブリンの肩を持ちたい訳じゃない。
だけど、切り捨てるのは違う気がする。
リュウジのそんな思いが村人たちに、静かに浸透していった。
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リュウジは、タケトとウルフに声をかける。
【リュウジ】「ちょっと……ロックゴーレムの正体を確かめてくる」
【タケト】「え!? お前、一人で?」
【リュウジ】「いや、ウルフに護衛で来てもらう。何かあったらすぐに逃げられるからな」
【ウルフ】「お任せ下さい!リュウジ様は、私が命に替えてもお守り致します!」
【リュウジ】「気持ちはありがたいけど、大げさだから!」
こうしてリュウジは、ウルフとともに、森の奥──“ロックゴーレム”が現れたという場所へと向かった。
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木々が密集し、苔と風が入り交じる静かな森の中を歩いて数時間──
リュウジの目の前に、まるで“壁”のように連なる巨岩地帯が現れた。
【リュウジ】「……すげぇ、ここだけ景色が違う……」
その地は、他と完全に隔絶された“豊かさ”を保っていた。
一面に広がる緑、潤った水脈、そしてどこか甘い香り。
しばらく進むと、不思議な植物があった。
その枝を悪戯にへし折ると、ねっとりとした白い液体が滴り落ちる。
【ウルフ】「(クンクン……ペロッ)」
【リュウジ】「お、おい!大丈夫なのか!?」
【ウルフ】「……甘い、です!!」
ウルフが思わず舐めたその液体に、リュウジも警戒しつつ舐めてみる。
【リュウジ】「……!? これ、砂糖……!?」
甘味の正体を知り、思わず空を仰いだリュウジ。
この異世界に“砂糖”が存在した――それだけで、文明の未来がひとつ開いた気がした。
──だが、その感動の背後に、地鳴りのような音が響く。
ズ……ズン……ズゥン……
岩が揺れる。森が震える。
そして、巨体の影が木々の向こうに姿を現した。
ロックゴーレム――
【リュウジ】「ついに……お出ましか」
今回は、村の復興と静かな心の変化、そして新たな問題への踏み出しの回でした。
サトウキビの発見により、この異世界でも“甘味”が生活を変える鍵になるかもしれません。
次回、ついにロックゴーレムとの対話が始まります。




