ー2章ー 3話 「ホノエ村の叫びと、駆ける救援」
北西の“米の村”を目指す旅路。
しかしその途中で、悲鳴が聞こえた。
次第に明かされる村の惨状と、助けを求めるナツキの声。
これはただの田んぼ開拓じゃない――命が懸かった、現実だ。
がたんごとん──と揺れるウルフ車に揺られながら、俺たちは北西の地を目指していた。
【リュウジ】「それにしても、随分走りやすくなったなぁ。以前の道より、ウルフたちも軽快に走れてる気がする」
車輪が跳ねるたびに身体がふわりと持ち上がるが、それでも以前の荒れ地に比べれば格段にマシだった。
【タケト】「おい、マジで言ってんのか? 腰にくるだろこれ……下手すりゃ尻割れるぞ」
【リュウジ】「いや尻はもう割れてるだろ!」
愚痴をこぼしつつも、タケトもどこか楽しげだ。俺は笑いながら前方を見つめる。まだ見ぬ“米の村”に向け、希望とほんの少しの不安を胸に抱えていた。
【リュウジ】「……けど、変わらないなぁ、この景色。ずっと荒れ地ばかりで、村らしい気配もないし」
風が土を舞い上げる。広がる荒野の先に、ようやく小さな影が見えてきた。
【タケト】「お、見ろ。あれ……たぶん、目的地のホノエ村だな」
地平線の向こうにぽつんと建つ建物。ようやくたどり着いたという安堵と、そこに何があるのかという期待が、胸の中を占める。
──同じ頃、ホノエ村。
乾ききった土の上、崩れかけた柵にもたれながら、ナツキは痩せた牛に水を差し出していた。どこか命の灯が消えかけているような、その牛の姿に胸が締めつけられる。
【ナツキ】「お願い……飲んで。せめて、一口だけでも……」
だが牛は微かに顔を動かしただけで、再び目を閉じてしまう。
そのとき──
ザザッ……ガサガサガサッ……!
茂みをかき分ける不穏な音が響き、村の静けさが一変した。
【村人の叫び】「魔物だあああ!! ゴブリンが来たぞーっ!!」
ナツキの心臓が跳ね上がる。柵越しに見えたのは、十数体の小柄な緑の魔物たち──ゴブリン。手には棍棒、錆びた刃物、不気味に光る目。唇を歪めて、まるで笑っているかのようだった。
【ナツキ】「や、やだ……来ないで……」
村人たちは叫びながら家の中へ逃げ込み、家畜たちは檻の中で暴れ出す。ゴブリンの一匹が豚小屋に飛びかかり、別の一匹は鶏小屋を蹴り壊す。
怒号、悲鳴、割れる音。すべてが混ざり合って、ナツキの思考がぐちゃぐちゃになる。
【ナツキ】「……誰か……誰か、助けて……!」
納屋の影に身を潜めながら、震える手で口を押さえる。膝が笑い、涙が止まらない。怖い──怖くて、叫び出したくなる。でも声を出せば、見つかる。殺される。
死を、はっきりと意識した。
時を同じくしてリュウジたちは………
【リュウジ】「……今の、聞こえたか?」
風に乗って、かすかに届いた悲鳴。それはただの幻聴ではなかった。
【タケト】「ああ、確かに聞こえた。しかも、近い……!」
リュウジは表情を引き締め、村の方角をにらみつける。
【リュウジ】「急げ! ウルフたち、全速力だ!!」
ウルフたちが咆哮を上げる。車体が跳ねる。だが今は、揺れなんて気にならなかった。とにかく──一秒でも早く、村へたどり着きたかった。
土煙を上げながら走るウルフ車の中で、リュウジの胸は焦燥で締めつけられていた。
【リュウジ】「たのむ!……間に合ってくれよ!」
吹き抜ける風が、彼の背を押す。
物語は、絶望の淵で助けを求める声に応えるため、今まさに走り出した──。
ホノエ村編が動き出しました。
一見ただの農業探索のようでいて、そこには生きるためにもがく人々の姿があります。
ナツキの“助けて”という声が、どんな変化をもたらすのか。
ここから、物語は少しずつ深くなっていきます。




