ー1章ー 26話 「空からの訪問者と竜の加護」
空を覆う巨大な影──村に突如現れたのは、かつて出会ったドラゴン。
その口から語られるのは“感謝”と、ある贈り物の話。
リュウジに託されたのは、世界に波紋を呼ぶ秘石だった――。
川の工事が半分まで進んだ、ある晴れた朝のことだった。
澄んだ空気の中、リュウジは畑の様子を見に外へ出た。
朝露に濡れた土の匂いが、鼻先をくすぐる。
ふと、その空気が一変する。
肌に感じる空気の密度が変わったような、重たい気配。
【リュウジ】「ん?……なんだ、この空気……」
空を見上げた瞬間、リュウジの目に飛び込んできたのは、村の上空に広がる巨大な影だった。
雲を裂き、ゆっくりと舞い降りてくるその姿――
それは、かつてミズハ村で遭遇した、あのドラゴンに他ならなかった。
【村人A】「ぬ、主様!? な、なぜこの村に!?」
【村人B】「ひ、避難しろ!ドラゴンが来たぞ!!」
村人たちは騒然となり、あちこちで悲鳴やどよめきが上がる。
しかしリュウジは冷静だった。
いや、冷静を装っていたと言ったほうが正しいかもしれない。
心臓はバクバクと音を立てていたが、そんな素振りは見せずに、ゆっくりとドラゴンの前に歩み出る。
【リュウジ】「よう、久しぶり。傷の具合はどうだ?」
大地を震わせるように翼をたたみ、ドラゴンはリュウジの目の前に降り立った。
その瞳は深い湖のように静かで、どこか誇らしげな光を宿している。
【ドラゴン】「お陰でこの通りだ……今日はそなたと、もう一人の者に礼を言わねばならぬと思ってな。タケトという名であったか。彼の姿は見えぬようだが……」
【リュウジ】「今はミズハ村に行ってる。ま、気持ちだけ伝えておくよ」
ドラゴンは重々しくうなずき、そして言葉を続けた。
【ドラゴン】「実はそなたに、助けてもらった礼……と言ってはなんだが……“加護”を授けようと思ってな」
【リュウジ】「加護?」
首をかしげるリュウジの前に、ドラゴンは鱗の間からそっと何かを取り出した。
それは古びた金属で編まれたネックレス。
中心には雫の形をした宝石――いや、秘石が吊るされていた。
それはどこか、静かな涙のような気配を纏っていた。
【ドラゴン】「それは、わしの“涙”から作り出した秘宝。持つ者は、我が気配を宿すこととなる。魔物たちには……それが何を意味するか、すぐに伝わるであろう」
何やら凄そうなものだが、細かいことはよく分からない。
だが、リュウジは躊躇うことなくそれを受け取った。
【リュウジ】「じゃあ、ありがたく貰っとくよ。近いうちに山へ遊びに行っていいか?
貰ったお礼に何か持っていくよ」
【ドラゴン】「ふむ……では、そなたがいつも美味そうに食べているものを我にも譲ってほしい」
【リュウジ】「イモな。任せとけ、この村の名物だ!」
ドラゴンはくっくっと喉を鳴らして笑うと、再び大空へと翼を広げ、ゆっくりと舞い戻っていった。
風が巻き起こり、村の木々がざわめく中、村人たちはただ呆然とその巨大な背中を見送ることしかできなかった。
リュウジの手元には、神秘の光を放つ雫型の秘石のネックレスが残されていた。
【じいさん】「これは一体何の騒ぎなんじゃ!?」
遅れて駆けつけたじいさんが、困惑した顔で村の広場を見回す。
【村人A】「村長!主様ですよ!主様が現れたんです!!」
【じいさん】「なんと!?しかし、もうおらんようじゃな………。」
【村人B】「リュウジが主様と会話していたんです!しかも親しげに!」
驚きの視線が集まる中、リュウジは照れ笑いを浮かべて頭をかいた。
【リュウジ】「あははは………」
(じいさんにはドラゴンを助けたって話してあるから良いけど………)
【リュウジ】「……村のみんなに説明するの大変そうだな、これ」
空を見上げるリュウジの胸に、秘石の冷たい感触が不思議と心地よく残っていた。
今日も村はにぎやかで、スライムたちの気配もあちこちに感じる。
実に平和である。
だが、空を舞う影と、不思議な力を持つネックレスは、これから訪れる大きな波の始まりを、静かに告げていた――。
まさかのドラゴン再登場。そして“加護”の授与!
これが今後の人間と魔物との関係にどう影響していくのか……?
実は、この秘石が後々かなり効いてきます。
次回、ドラゴン加護の効果が早速炸裂!?お楽しみに!




