ー1章ー 1話 「スライムと荒れた大地 〜希望は足元に〜」
目が覚めたら、知らない土地で地べたに寝てました。
しかもおじいちゃんに「野菜扱いされるとこだったぞ」って言われたんですが!?
魔法? チート? そんなものはありません。
あるのはちょっとした知識と、なぜか草が生えた謎のスポットだけ。
でも――
「この村……まだ、なんとかなるかもしれない」
笑って乗り越える、異世界のドタバタ開拓録、いよいよ始まります。
ー あらすじ ー
これは、現代で報われなかったアラサー男・リュウジが―― 魔物が跋扈する異世界に、まるごしで転生し、 剣も魔法も使えないまま、 現代知識と会話だけで、 村を、領地を、国を、そして大陸すらまとめ上げる……! 壮大な(だけどちょっとゆるい)成り上がり物語である。
ごつごつした土の上に寝転がっていた俺は、ふと誰かの声で目を覚ました。
【じいさん】「おーい、若いの。こんなところで寝ておったら、風邪をひいてしまうぞ。いや、もうちょっとで野菜扱いにされるとこじゃったぞ?」
ゆっくりと目を開けると、そこにはシワだらけの顔をした白髪の老人が立っていた。
腰は曲がっているが、目には力がある。
【リュウジ】「……ここは……?」
【じいさん】「この村の外れの草地じゃ。おぬし、見かけない顔じゃが旅の者か何かかの?」
【リュウジ】「あぁ……失礼。俺は……(ん?名前はあっちの名前で問題ないのか?……考えても思いつかないし大丈夫かな)。リュウジ、てん……!?」
フッと脳裏によぎった女神の言葉。
転生のことは異世界の人には話してはならない。
思わず転生のことを話しそうになっていた自分に気づき、冷静さを取り戻そうと心を落ち着かせた。
【リュウジ】「そ、そうなんだ。実は旅の途中だったんだけど、急に倒れてしまって……ははは……」
【じいさん】「若いからといって無茶はいかんぞ?まして地面で寝るなんて無謀じゃ!床ずれどころの騒ぎじゃすまんぞ!」
【リュウジ】「ごもっともなご意見ありがとう、じいさん」
【リュウジ】(何とかその場をやり過ごせたか。 ふー、危ない危ない)
周囲を見回すと、乾いた大地が広がっている。わずかに草が生えているのは、今自分が寝ていたこの場所だけ。異様な光景だった。
【リュウジ】「ここだけ……草がある?」
【じいさん】「ふむ、そこにはな……数日前に退治したスライムの死骸を埋めたのじゃ」
【リュウジ】「スライム……?」
異世界といえばコレ、みたいな定番の魔物。現世のゲーム知識が頭をよぎる。
スライムは弱いモンスター……のはずだが。
【じいさん】「この辺りには最近スライムが増えておってな。畑の作物にも被害が出ておる」
【リュウジ】「被害って……スライムに?」
【じいさん】「うむ。これが意外としぶとくてな。村の若い者たちが棒で叩いて倒しておるが、なかなか骨が折れるのじゃ。あやつめ、打撃が効きにくいんじゃよ」
【リュウジ】(やっぱりな。ゲームの知識、伊達じゃない)
【リュウジ】「……っていうか、みんな魔法とか使えないの?」
【じいさん】「使えるなら、とっくにスライムなんぞおらんわい!」
俺も魔法が使えない仕様にされた。
つまり、俺とこの村の連中は条件的にほぼ同じ。
地味に心強い。
【リュウジ】「この草、スライムのせいで生えてるってこと……?」
【じいさん】「む、言われてみれば、確かにそうじゃな。あやつの死骸を埋めたあたりから、草が増えたような……まあ、偶然かと思っておったが」
つまり、スライムの体は……養分? 肥料的な何か?
その時、近くの畑で焚き火をしている農夫の姿が目に入る。
【リュウジ】(……火か)
【リュウジ】「なあじいさん、たいまつってこの辺にあるか?」
【じいさん】「おお、物置にいくつか余っておるはずじゃが……ああ、まさか夜道の散歩に使うとか言わんじゃろな?」
【リュウジ】「いやいや、ちょっと試したいことがあるんだよ」
もしかしたら、火ならスライムに有効かもしれない。
現代のゲーム知識に照らし合わせるなら、スライムは水属性、ならば火に弱いのは理にかなってる。
魔法が使えない俺にとって、たいまつは……剣と炎を兼ねた最初の武器だ。
【リュウジ】「そういえば、なんでこの村….こんなに荒れてるんだ?」
【じいさん】「うむ、旅の者では知らんのも無理はない。これは全て魔物の仕業なんじゃ」
【リュウジ】「魔物ってスライムだろ?」
【じいさん】「この辺りではなぁ、草木を根こそぎ食べてしまうから土地がやせ細ってしまうんじゃ」
【リュウジ】「なるほど、それでスライムが増えていってるのか」
【じいさん】「なーに、葉物の野菜は全滅したが、イモは採れる!この村もまだ捨てたもんではないわい。 わっはっはっは!」
貧しい。ボロボロ。でも、明るい。なんだか懐かしい雰囲気。
俺は、再び立ち上がる。目の前に広がる、荒れた土地。けれど、その中にたった一箇所だけ息吹く緑が、確かに希望の芽を感じさせた。
【リュウジ】「この村……まだ、なんとかなるかもしれない」
ここからが、本当のはじまりだ。
ご覧いただきありがとうございます!
今回は物語の導入として、主人公リュウジが異世界の現状を初めて体験する回でした。
「魔法がない」「草が生えない」「でもイモはある」……そんな不思議な村が、これからどう変わっていくのか。
次回はスライムとのまさかの接近戦!?お楽しみに!
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