ー6章ー 15話 「女神の子と人の罪」
今回は、ヴェルナンから語られる更に深刻な事実。
霊脈の謎、女神たちの因縁、そしてリュウジに託される使命が描かれます。
ぜひお楽しみください。
ヴェルナンが言った「更に深刻な事」とは何なのか。
リュウジとエルノアは、黙って耳を傾けていた。
【ヴェルナン】「北の霊脈が国王の領地内にあって、何かの原因で機能していないという話は以前致しましたな?」
それは、初めてエルフの里を訪れた時に聞かされた言葉だった。
その異常をきっかけに、リュウジたちは海底神殿へ向かい、霊脈を修復する旅に出たのだ。
【リュウジ】「ああ、だから三点結界に張り直したんだろ?」
【ヴェルナン】「霊脈が弱まれば、魔物は弱体化する……北の霊脈が機能していなかった事で、一時的にこの国の魔物は力を失っていたと言って良い状態だったのですじゃ……そして、フォレストドラゴン様に刺さっていたと言う槍……恐らくこれは人間の逆襲と言っても良いかもしれませんな……」
その言葉に、リュウジはハッとした。
憶測ではあるが、今まで点のように散らばっていた謎が、ひとつの線になって結びつく。
魔物が仕掛けてきたとされる争い。
人間が作ろうとした楽園。
お互いを監視してきた平和は人の手によって壊されつつあるという事なのだろうか。
【リュウジ】「つまり……霊脈を弱めてドラゴンを討伐しようとしたって事か……!?」
信じたくはないが、槍が刺さっていた理由はそれ以外に考えられなかった。
【ヴェルナン】「考えたくはありませぬが……恐らく。更に先程伺った女神界の争いですが……かつてアルシア様は、自分の願いが和解によって果たせなかった。これも憶測ではありますが……新たな女神様は……アルシア様のご子息ではないかと」
余りに深い長老の考察。
人間のごく一部が争いの火種を撒こうとしている。
霊脈を弱め、ドラゴンを試しに討とうとしたのではないかという推察。
それが事実であれば、アルシアにして見れば争いを再燃させる格好の口実になるだろう。
さらに、アルシアの子ではないかと見られる新たな女神の誕生。
偶然とは思えない繋がりに、リュウジは顔をしかめた。
【リュウジ】「完全にヤバいじゃねぇか!?せっかく和解したのに、これじゃ水の泡だろ!?」
焦りを隠せず声を荒らげるリュウジ。
女神セレスティアは「まだ赤子だから時間はある」と言ったが、大陸中の国々をどうにかすのに必要な時間は計り知れない。
【ヴェルナン】「セレスティア様から、竜涙石を集めろと言われたのでしたな……恐らくそれは、今のうちにドラゴンを含めた全ての魔物を仲間にしろと言う事なのではないですかな?」
冷静に告げられた言葉に、リュウジはセレスティアの意図を思い返す。
【リュウジ】「俺は竜涙石を集めれば良い、後は周りが何とかするだろうって言ってたな……意味は分からないけど」
すると、ヴェルナンは神妙だった顔をほころばせ、突然笑い声を上げた。
【ヴェルナン】「ホッホッホ……やはりそう言う事でしたか!リュウジ様、セレスティア様の言う通り、竜涙石を集めなされ。後は我らに任せてくだされば、万事解決ですじゃ!」
その確信めいた様子に、リュウジは目を細める。
だが長老はそれ以上を語ろうとしなかった。
【リュウジ】「んー、まぁよく分からんが竜涙石を集めれば何かが起こるんだな?なら、ひとまず話を聞いてやってくれって言われてるドラゴンの所から行ってみるか」
決意を固めるリュウジ。
すると、ヴェルナンが意味深な言伝てを託した。
【ヴェルナン】「リュウジ様、各ドラゴンにお会いになられたら一言……“時は来た”……と伝えて頂けますかな?」
合言葉のような響き。
リュウジは首を傾げながらも、了承した。
【リュウジ】「分かった。なら、ひとまず領地に戻るよ。行くって言っても準備しないとだしな!」
その時、隣で口を開いたのはエルノアだった。
【エルノア】「長老様……私もリュウジ様の旅に同行してもよろしいでしょうか……?」
意を決した声音。
ヴェルナンはしばらく彼女を見つめ、やがて頷いた。
【ヴェルナン】「……うむ、良かろう。お前もそろそろ外界で見識を積む頃合じゃ。しかとリュウジ様をお支えするのじゃぞ?」
厳しさと優しさを同時に含む声だった。
エルノアは深く一礼し、決意を新たにする。
こうして、大陸の未来を左右する話し合いは幕を閉じた。
ひと握りの人間の暴挙が先か。
それとも、新たな女神の仕掛けが先か。
どちらも許さないと決めたリュウジの行動が、全てを変えるのか。
その結末は、神のみぞ知る。
人と魔物の歴史の裏に潜む真実が、少しずつ繋がり始めました。
竜涙石の意味、そして“時は来た”という言葉が何を示すのか……。
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