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不遇だったアラサーの俺が異世界転生させられたら  作者: 榊日 ミチル


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ー6章ー 11話 「霊脈の再生へ」

リュウジが海底神殿から無事に帰還しました。

ユウの不安や安堵、そして領地だけでなく大陸全体へ広がる新たな試練が描かれます。

果たして、平穏な日々を望むリュウジに、どんな選択が迫られるのでしょうか。

ユウの瞳が大きく揺れた。

彼女はずっと心に押し込めていた不安を、もう抑えきれなかった。


【ユウ】「リュウジさん……! どうして……」


堪えていた思いが一気に溢れ出る。


海底神殿は時空の歪みに包まれている──そんな噂を彼女も耳にしていた。

もし戻ってきたリュウジが、浦島太郎のように歳を取ってしまっていたら……。


最悪の結末が脳裏を離れず、胸を締めつけていたのだ。


【リュウジ】「ごめんな、ユウ……心配させちゃったな。だけど、これのお陰で何も起こらなかったんだ」


そう言ってリュウジは、腕に光る一本の腕輪を見せた。

青白い鍾乳石で作られた英雄の遺産──

霊脈を探し、海底神殿で手に入れたものだった。


【ユウ】「腕輪がリュウジさんたちを守ってくれた……?」


【リュウジ】「そうなんだ。詳しい事はここじゃ話せないから、また後でな!」


軽く笑ってはいたが、その眼差しには強い決意が宿っていた。


女神の存在や大陸の未来に関わる話を、今ここで軽々しく口にする訳にはいかない。

ユウに約束をした後、リュウジはユウを乗せてウルフ車を走らせた。


領主城に戻った時には、すでに夜の帳が降りていた。

窓から漏れる灯りが石壁を柔らかく照らし、帰ってきた三人を出迎える。


【リュウジ】「エルノアさんも城に泊まっていくと良いよ。部屋はたくさんあるから、好きに使ってくれ」


夜更けに樹海へ戻す訳にはいかないと判断したリュウジは、エルノアを泊めることにした。


その夜、食堂の長いテーブルには温かな料理が並び、三人は肩を寄せて夕食を囲んだ。


リュウジは海底神殿での出来事を、隠さずユウへ語った。

霊脈のこと、英雄リュウゼンの名、女神の存在、そして腕輪の力を。


【ユウ】「……そんな事が……! ならこの先、大陸中の国家を相手にしなければならないって事!?」


聞かされた内容は、あまりに重かった。

一領主に過ぎないリュウジが、大陸全土の国と関わらざるを得ない未来。

その現実を思うと、ユウの表情は硬くなる。


【リュウジ】「まぁそうなるかな。面倒だけど、今から手を打たないと今の平穏な日々がなくなっちまうからな……はぁ、俺のスローライフをどうしてくれるんだよ……」


リュウジはテーブルに突っ伏すようにして嘆いた。

せっかく築き上げてきた平穏な生活が、女神の争いごとによって乱されていく。


その姿を見つめながら、ユウは意を決して口を開いた。


【ユウ】「分かったわ!……リュウジさんは大陸の問題に専念するべきだと思うの……領地の運営は、リュウジさんが考案した各ギルドが知恵を出し合えば、問題なく発展していくわ!……私はギルド統括として、リュウジさんの代わりとしてまとめてみせる!」


その声には震えがなかった。

大役を背負う覚悟を決めた者だけが持つ、静かな決意がそこにはあった。


【リュウジ】「……ユウがそこまで言ってくれるなら、タケトとナツキを呼んで話をしよう。アイツらも同じ転生者だ……知る権利はあるからな」


【ユウ】「そうね……私ばっかり焦っても良くないわよね。なら後日、この事を話し合いましょう?」


三人は杯を傾け、静かに夜を過ごした。

それぞれの胸に芽生えた決意を胸に抱きながら。


翌朝。

リュウジはエルノアを伴い、再び樹海へと向かった。

車輪を鳴らしながら進むウルフ車の中、どこか晴れやかな表情が浮かんでいた。


【リュウジ】「これでこの領地の大地が元に戻るんだな……スライムたちも楽になるな!」


【エルノア】「豊かになれば、領地も賑わいます。魅力的なら人も移り住んでくるかもしれませんね!」


二人の言葉には未来への希望があった。


やがて森の奥へ分け入り、足でしか進めない道なき道を越える。

迷えば二度と出られないであろう深き樹海。

だがエルノアの案内があるおかげで、道は確かに存在していた。


そして、エルフの里に到着すると、そこには長老ヴェルナンが立っていた。

静かな瞳で、彼は帰還した二人を出迎える。


【ヴェルナン】「戻られましたな、リュウジ様」


いよいよ霊脈の張り直しが始まる。

そして──ヴェルナンが何を語るのか。


物語は新たな局面を迎えようとしていた。


今回はリュウジ・ユウ・エルノア、それぞれの決意が大きく描かれた回となりました。

スローライフを願いながらも、女神や大陸規模の問題に巻き込まれていくリュウジ。

仲間との支え合いが、これからの物語をより深くしていくのだと思います。


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