ー6章ー 8話 「女神のはぐらかしと腕輪の真実」
海底神殿で見つけたのは“英雄の腕輪”。
時空の歪みを超える力を秘めたその遺産は、女神との交信をも可能にするものでした。
しかし同時に、女神は核心を語らず、曖昧なまま重要な名を伏せて去っていきます。
モヤモヤとするリュウジの心情を、ぜひお楽しみください。
青白い鍾乳石で作られた女神像。
その後ろから見つかったのは、冷たい光を帯びた一本の腕輪だった。
触れた瞬間、リュウジの胸に不可思議な感覚が走る。
空気が澄んでいくような、時間の流れを押し留めるような感覚。
【リュウジ】「これが……英雄の遺産ってヤツか」
予想外の効果に、リュウジは思わず眉をひそめた。
これで地上に戻っても、爺さんになることはないだろう……と、信じたい。
けれど同時に、新たな疑問が胸を占めていた。
【リュウジ】「なぁ、英雄の名前……リュウゼンって言うんだよな。それって…」
女神の存在を通して、どうしても確かめたいことがあった。
幼いころに別れたリュウジの父の名前が「リュウゼン」
偶然かもしれない。
だが、その響きがリュウジの心をざわつかせ続けていた。
【女神】「あっ、いっけな~い! もうすぐ14時のおやつの時間だわ!」
話を逸らすように、女神が明るい声を弾ませた。
【リュウジ】「おまっ……! 何か隠そうとしてるだろ!?……ってか14時のおやつって何だよ!? おやつの時間は15時って大昔から相場が決まってるんだよ! 勝手に常識を覆すんじゃねぇ!」
思わず核心から外れた部分に突っ込んでしまうリュウジ。
だがそれは、女神が意図的に仕向けたことだったのだろう。
【女神】「べ……別に隠そうだなんてしてないわよ~! それと、交信は暫く禁止ね♪……そんな顔してもダメよ~。女神にだって事情くらいあるんだから! 何かあったら連絡するわねぇ……それじゃ! あぁ忙しい忙しい……おやつっと……」
軽やかな声が神殿に反響し、やがて途切れた。
【リュウジ】「あんにゃろう……また肝心な事をはぐらかしやがったな……!」
胸に残るのは、疑念と苛立ち、そしてモヤモヤとした感覚。
英雄リュウゼンの名が、偶然の一致なのか、それとも本人だが、今は言えない何かがあるのか。
女神は答えを告げるどころか、意図的に遠ざけたのだ。
その横で、エルノアが静かに言葉をかけてきた。
【エルノア】「リュウジ様……ひとまず霊脈の作動はこれで問題ありません。あとはエルフの里へ戻り、長老に結界の発動をしてもらえば完了です」
色々あったが、本来の目的は果たされた。
これで領地を覆う不浄は払われ、やがて荒野に緑が戻るだろう。
【ブラックデーモン】「では、わたくしは族長へ女神様の事を報告に戻ります。魔法船はそのままにしておいてください。いずれまたお使いになる時まで、私たち海魔でお守りしておきますので」
深々と頭を下げると、ブラックデーモンは水面へと姿を消した。
暗い海へ沈んでいくその背中は、どこか頼もしさを感じさせた。
【リュウジ】「何か釈然としないが、俺たちも戻るか! 結界を仕上げないとだしな!」
気持ちを切り替え、リュウジは踵を返した。
エルノアも微笑んで頷き、二人は海底神殿を後にする。
だが、女神は一体何をさせようとしているのか。
竜涙石、もう一人の女神、そして英雄リュウゼンの名。
話が大きすぎて、リュウジはまだ理解が追いつかない。
けれど、確信だけはあった。
──その時はいずれ必ず訪れる。
ならば自分は、領主としてやるべきことをやる。
守るべきものを守り、待ち受ける未来に備える。
青白い光が消えゆく海底神殿を背に、リュウジは静かに歩みを進めた。
霊脈の発動は無事に完了し、領地の復興は確かな一歩を踏み出しました。
しかし女神が残した言葉は、リュウジに新たな謎と不安を残します。
これから先、彼が何を背負い、どう進むのか──その答えはまだ見えません。
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