ー5章ー 29話 「海底神殿への道」
海の民との交流の中で、ついに「海底神殿」という霊脈の場所が示されました。
ただ、その前に立ちはだかるのは「時間」という試練……。
果たしてリュウジたちはどう動くのでしょうか。ぜひお楽しみください!
「女神」──そのひと言が、リュウジの胸を強く打った。
ただでさえ「海の中」という無理難題を前にしていた彼らにとって、その言葉は光明そのものだった。
海の中に広がる霊脈の手がかり。
それはもはや、このひと言に集約されていた。
【リュウジ】「初めて会ったばかりで何だが……その女神ってのは、ひょっとして剣を持っているような創りか?」
声に緊張がにじむ。
ここで信憑性を確認できなければ、また別の情報を探すしかない。
藁をも掴む思いで、リュウジは黒きサメ──ブラックデーモンに問いかけた。
【ブラックデーモン】「よくご存知ですね!……ひょっとして、海の神殿へお越しになった事が?」
当たりだった。
リュウジたちがずっと探していた霊脈の場所。
胸の高鳴りを抑えきれず、思わず互いに顔を見合わせる。
これでひとまず領地の結界を張り直す目処は立った。
しかし肝心の「行き方」が分からない。
【リュウジ】「……実はさ、そこに俺たちも行きたいんだが……ほら、人間だろ?どう見ても。だから行き方を知らないかなってさ……」
女神の存在を知っていることや、まして「転生者」であることは話す訳にはいかない。
だからこそ、誠意を持って正直に伝えるしかなかった。
【ブラックデーモン】「なるほど……」
沈黙が一瞬重くのしかかる。
だが、やがてブラックデーモンは言葉を継いだ。
【ブラックデーモン】「ご存知だったのは、古い伝承のお話をお聞きになられたのですね?」
上手く誤解してくれた!
リュウジは内心で胸を撫で下ろし、慌てて頷いた。
【リュウジ】「そ…そうなんだ!それで興味が湧いてさ!一度でいいから見てみたかったんだよ」
心が痛む。
だが今は誤魔化すしかない。
リュウジはとにかく話を合わせた。
【ブラックデーモン】「なるほど……しかしですね……人間の方が行くには、あそこに見える島に行く必要があるのですよ」
振り返ったブラックデーモンが、沖合に浮かぶ小さな島を指さした。
白波に囲まれ、遠目にも泳いで行ける距離ではない。
【ユウ】「あの島に何かあるんですか?」
【ブラックデーモン】「我々海魔でしたら海の中から簡単に辿り着けるのですが……人間の方は海の中からは恐らく辿り着けないでしょう。なので、あの島にある洞窟から海底神殿へと向かうしかないのです」
どうやら人間が行くためには、その島を経由しなければならないようだ。
しかし船がない今、せめて筏を作らねば辿り着けそうにない。
リュウジたちは顔を見合わせた。
重い現実がのしかかる。
そんな時、ブラックデーモンが意味深に口を開いた。
【ブラックデーモン】「それともう一つ、お耳に入れておく事がありまして……」
【リュウジ】「まだ他にも問題があるのか?」
【ブラックデーモン】「海底神殿へ行ってから地上へ戻ると、数週間、或いは一年程経過してしまうと言われております」
その言葉に、ユウが思わず息を呑んだ。
【ユウ】「そんな……それじゃまるで浦島太郎の……」
時間の流れが異なる。
まるで日本に伝わるおとぎ話のような現象が、海底神殿では起こるというのだ。
リュウジは眉間に皺を寄せた。
領主としての責務は山積している。
長期間地上を離れるわけにはいかない。
だが同時に、霊脈の結界を張り直すことも急務だ。
もしそれが遅れれば、領地全体の安全が揺らぐことになるかもしれない。
決断を迫られているのは、紛れもなく自分。
リュウジは深く息を吐いた。
海底神殿への道筋は見えた。
だが、「時間」という最大の試練が、彼らの前に立ちはだかっていた。
人間と海魔との会話から、意外な真実が明らかになりましたね。
霊脈へ続く道筋が見えたものの、今度は時間の壁が待ち受けている。
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