ー5章ー 27話 「子供ギルド、初任務の成功」
仲良くなった子供たちが挑むのは、魚取りとカニ取りの勝負。
単純な遊びの中に、確かな絆が芽生えていく様子を描きました。
カリムの「子供ギルド」が、ついに仲間を得る回です。
川辺には、子供たちの歓声が響いていた。
魚取りとカニ取りの勝負──子供らしい、たわいも無い遊びだった。だが、その単純さが良かった。
種族の違いも、境遇の違いも、そこには関係ない。
ただ「楽しい」という気持ちだけが彼らを繋いでいた。
【リオン】「よし!これは大きいからポイント高いぞ!」
【ルノ】「あっ!これは大物の魚だ!」
ルールも採点も存在しない。
勝手な張り合いと笑い合い。
それだけで十分だった。
むしろ、そんな無秩序な楽しさの中にこそ「仲を深める」という意味が隠されていた。人間と魔物、相容れぬ存在とされてきた両者の間に、確かな絆が芽生えていたのだ。
太陽が傾き始め、川辺を橙に染める頃、勝負は自然と終わりを迎えた。
結果は──どちらも大量。
手押し車には魚もカニも山のように積まれており、村人にプレゼントするには十分過ぎるほどだった。
【ルナ】「あー面白かった!」
【リオン】「うん!楽しかったね!」
満足げに笑い合う子供たち。
その姿を見て、カリムは胸に温かなものが込み上げてきた。
──この瞬間を逃してはいけない。
彼は大きく深呼吸をすると、勇気を振り絞って口を開いた。
【カリム】「そうだ!僕ね、子供ギルドのマスターなんだ!良かったら皆も仲間になってくれないかな?」
言った瞬間、心臓が跳ね上がった。
知り合ったばかりの相手をいきなり勧誘して、嫌われたらどうしよう。
けれど、ここまで一緒に笑い合った。
断られたとしても、もう友達だ。
怖いものなんてない──そう思えたからこその一言だった。
【ルノ】「子供ギルド?それって何するの?」
当然の疑問が返ってきた。
カリムは少し息を整え、真剣な顔で説明する。
【カリム】「領地の子供たちと友達になって、色々なギルドのお手伝いをするの。将来なりたい職業の体験と、お小遣いが貰えるんだよ!」
きちんと伝わっただろうか──そんな不安が脳裏を過る。
しかし、その心配は一瞬で消え去った。
【リオン】「面白そう!やってみたい!」
真っ先に声を上げたのはリオンだった。
その一言が合図のように、ウルフの子供たちも次々に声を弾ませた。
【ルカ】「ギルドに入れば森の外に出られるね!」
【ルナ】「私、もっと友達作りたい!」
【ルノ】「どんなお仕事があるんだろうね?」
想像の翼を広げるように語り合う子供たち。
その様子に、カリムの胸は喜びでいっぱいになった。
【カリム】「みんな……ありがとう!これからもよろしくね!」
初めての絆、初めての友達、そして初めてのギルドメンバーの誕生だった。
子供たちは暫くその話題で会話が弾んだ。
【カリム】「それじゃ暗くなる前に取れた物を皆に渡しに行こう!」
【全員】「おー!!」
声を合わせて頷いた一同は、川辺を後にしてトリア村へと戻っていった。
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村に着く頃には夕暮れの風が吹き、畑仕事を終えた村人たちが家路についていた。
家の前に腰を下ろしていたじいさんが、元気よく駆け寄ってくるカリムたちに気づいて顔を上げる。
【カリム】「おじいさん、ただいま!」
子供たちもそれに習い、一斉に声を合わせて挨拶した。
【じいさん】「手押し車はちゃんと使えたかの?」
【カリム】「うん!大丈夫だったよ。それより、コレ!僕たちで取ったから、村のみんなにプレゼント!」
手押し車には、ぎっしりと詰まった川魚やカニ。
その量にじいさんは目を丸くし、やがて驚いたような声で言った。
【じいさん】「おお!こんな立派な食材を!大変じゃったろ?今日はご馳走じゃな!ありがとう」
感謝の言葉に、子供たちは胸を張った。
自分たちの力で誰かを喜ばせる──それがこんなに嬉しいことだと、初めて実感した瞬間だった。
さらにじいさんは、魚とカニの一部をルカに持たせると、にこやかに言った。
【ルカ】「いいの?」
【じいさん】「ああ、カリムと遊んでくれたお礼じゃ!後でウルフの皆とお食べ」
子供たちの笑顔がさらに輝きを増す。
こうして子供ギルドの初任務は、無事に成功を収めた。
じいさんは夕焼けに照らされた子供たちを見ながら、しみじみと思う。
──この先、子供たちの輪はもっと広がっていくだろう。
人間と魔物の垣根を越えた友情が、確かな未来を築いていくのだ、と。
人間と魔物の子供たちが、笑い合いながら友情を育む姿を書いていて、心が温かくなりました。
遊びの中にこそ生まれる信頼や絆を感じてもらえたら嬉しいです。
気に入って頂けたら、評価やレビュー・一言コメントなど、お気軽にお寄せください!お待ちしております!




