ー5章ー 23話 「農業ギルド始動!ナツキの温泉まんじゅう計画」
トリア村の畑を舞台に、農業ギルドが本格始動します。
ナツキの知識とスライムたちの力で、未知の作物や温泉街の名物づくりが動き出していきます。
領地発展の新たな一歩となる一話です。
領地における農業ギルドの活動が、いよいよ本格的に始まった。
これまで各地から集めてきた作物の数々を、どのように栽培し広めていくか──その役割を担うのがナツキだった。
ナツキは、トリア村に作られた広大な畑を拠点とする方針を立てていた。
すでに川から水を引くための水路は完成に近づいており、潤沢な水を利用できる環境が整いつつある。
畑の規模はまさに一大農園と呼ぶにふさわしい広さで、どのように運用していくかは今後の大きな課題となるだろう。
【じいさん】「しかし種類が豊富じゃの。オマケにスライムまで別の種を持っているとなると、かなり大掛かりになりそうじゃな!」
畑を見渡しながら、じいさんはまるで子供のように目を輝かせていた。
彼にとっても、この土地が豊かな実りをもたらす未来は夢そのものだったのだろう。
【ナツキ】「そうですね!これは村を挙げての一大プロジェクトです!まずはスライムちゃんたちの種が何なのかを調べたいので、あそこの角地付近に撒いてもらいましょうか」
森から持ち帰った作物はすでに確認済みで、何が育つのかは把握できている。
問題は、スライムたちが体内に内包している“未知の種”だった。
それが一体どんな作物に育つのか、誰にも分からない。
そこでナツキは、畑のメインエリアを避け、村外れに近い角地で実験することを決めた。
スライムたちは彼女の指示に従い、一列に並んで角地へと進んでいく。
その様子を見守るナツキの目には、期待と不安の両方が浮かんでいた。
【ナツキ】「じゃぁみんな順番に種を撒いて!」
号令と同時に、スライムたちは体内に隠し持っていた種を吐き出し、同時に養分である“ぬちゃぬちゃ”を撒き散らした。
どろりとした粘液に混じって、小さな種子が次々と地面に落ちていく。
奇妙ではあるが、どこか楽しげな光景だった。
スライムたちはぷるぷると体を震わせ、まるで遊びの一環のように種撒きを楽しんでいる。
ナツキはその姿に思わず笑みをこぼした。
やがて作業が終わり、スライムたちは満足げに跳ねたり転がったりしながら畑を後にする。
ナツキは角地の様子を確認したのち、再びじいさんの元へと戻った。
まだやるべきことは山積みだ。
どの作物を主力に据えるかを決めなければならない。
そんな折、軽快な足音と共にユイナが姿を現した。
【ユイナ】「ナツキ!戻ったのね?で、イモ以外の食材はどんな感じ?」
商業ギルドのマスターであるユイナは、領地の食材を調査していた。
だがその結果、出てきたのはイモばかり。
彼女は落胆していたが、ナツキが帰ってきたことで再び希望を取り戻したのだろう。
【ナツキ】「これが森で採れた作物よ。気になる物はある?」
差し出された作物にユイナの目が輝いた。
【ユイナ】「んー。全部気になるけど、私たちは温泉にお店を出さなくちゃいけないから、何か名物になりそうな物が良いのよね……」
野菜市のように並べるだけなら、どれも商品にはなる。
だが「店」として特色を出すなら、看板となる名物が必要不可欠だった。
ナツキはしばし考えたあと、ふと思いついたように声を上げた。
【ナツキ】「小豆を育ててみない?トリア村は小麦が育ってるから、温泉まんじゅうって食べ物が作れると思うの!サトウキビもあるから多分大丈夫だよ」
温泉と言えばまんじゅう──
ナツキの提案は、場にいた誰もが納得するものだった。
【ユイナ】「ナツキが言うなら間違いないわね!まずはそれで決まり。後は飲み物よね……」
まだ課題は残っている。
風呂上がりに飲める物もやはり用意しなくてはならない。
お酒は用意できるが、それ以外も必要となってくる。
しかし、その点でもナツキには明確な案があった。
【ナツキ】「飲み物ならお酒も良いけど、子供たちも飲める牛乳、メロンやイチゴを育てれば牛乳と合わせてイチゴミルクやメロンミルクなんかも作れるよ!」
矢継ぎ早に出てくるアイディアに、ユイナは感嘆の声をあげた。
【ユイナ】「スゴい……!それ良いかも!」
名物菓子と飲み物の提案が同時に揃った瞬間だった。
農業ギルドと商業ギルド、二つの歯車がぴたりと噛み合い、領地発展の大きな一歩を刻んだのだ。
ナツキの表情には自信が浮かんでいた。
農業の未来、領地の未来、そして人々の暮らし。
すべてを結び付ける仕事を、彼女は自らの手で切り拓こうとしていた。
角地に撒かれたスライムの種から、いったいどんな作物が芽吹くのか──。
それもまた、領地の行く末を左右する新たな物語の始まりであった。
農業と商業、それぞれの視点が合わさることで一気に広がりを見せてきました。
温泉まんじゅうやイチゴミルク、メロンミルクといった新しい名物の登場を、読んでいてワクワクしてもらえたら嬉しいです。
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