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不遇だったアラサーの俺が異世界転生させられたら  作者: 榊日 ミチル


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ー5章ー 12話 「潮騒と海魔と、ナツキの知らない世界」

今回は久しぶりにナツキが海辺の森へと向かいます。

ただの作物採取……と思いきや、そこで出会ったのは無邪気な子どもたちと、礼儀正しい“海魔”!?

さらに、海底への道を開くかもしれない重要アイテム「海魔笛」を手に入れることになります。

物語は海の領域へ――新たな展開が動き出します。


ナツキは、村の職人たちに改良してもらったウルフ車に乗り、久しぶりに海辺の森へと足を運んでいた。

この地を訪れたのは、リュウジと一緒に

調査で来た以来だった。

森の奥で色々な作物を採取し、海を見つけて感動したあの日を思い出す。


ウルフ車を降りて歩き出したナツキは、森に足を踏み入れ、深呼吸する。

鼻先に漂う空気は、やはり少し潮の香りがした。


【ナツキ】「相変わらず季節感がないわね……。情緒の欠片も何もあったもんじゃないわ!……でも助かるけどね」


ぶつぶつと文句を言いながらも、ナツキは採取用の籠を手に次々と作物を摘んでいく。

春のイチゴと夏のトマトが、なぜか同じ木陰に生えているのを見て、さらに溜息をひとつ。


やがて森を抜けると、潮の香りが強くなる。

ナツキは足を止め、目を細めて海を見つめた。


【ナツキ】「懐かしい……!やっぱり海は良いよねぇ……」


この場所に来ると、リュウジと並んで海を見た記憶が自然と蘇る。

思い出に浸っていたナツキだったが、ふと視線の先に動くものが見えた。


岩場の近く、波打ち際に小さな人影が二つ。子どもたちが遊んでいるようだった。


【ナツキ】「地元の子かな?」


その無邪気な姿に興味を引かれ、ナツキはゆっくりと足を運んでいく。

近づいてみると、二人は海水でびしょ濡れになりながら貝殻やワカメを拾って遊んでいた。


【ナツキ】「こんにちは!」


元気よく声をかけると、2人はぴょこんと顔を上げた。


【フィーラ】「こんにちは~!お姉ちゃん誰?」

【セリル】「こんにちは!お兄ちゃんたちの友達?」


その言葉にナツキはきょとんとする。


(……お兄ちゃん?)


【ナツキ】「お兄ちゃんって?」


【フィーラ】「二人のお兄ちゃんたちが鍋持って何か作ってた」

【セリル】「ワカメは食べ物だから遊んじゃダメって言ってたよ?」


その説明だけで、ナツキはすべてを察した。

リュウジとタケトのことだ。

ナツキは塩作りのためにこの辺りに来ていたという話を思い出した。


【ナツキ】「ああ、なるほどね!お姉ちゃんは、その二人のお友達だよ!二人はいつもここで遊んでるの?」


子どもたちはこくこくと頷きながら、無邪気に笑っていた。

その光景にナツキも思わず笑みを返す。


その時――


沖合に、何かがいた。

角のようなものが、水面を切るように猛スピードでこちらへ向かってくる。


【ナツキ】「え!?何か近づいてくる!二人とも危ない!」


とっさにナツキは二人をかばうように前に出るが、当の子供たちたちはまったく動じていない。

そのまま海から、巨大な黒い影が現れた。


それは――サメだった。

ただし、通常のサメとは明らかに違う。

頭から生えた2本の角、深海の闇を思わせる漆黒の体。

まるで悪魔のような外見。


ナツキはその場で腰を抜かし、砂浜にへたり込んでしまった。


【フィーラ】「どうしたの?お姉ちゃん……」


【セリル】「何かあったの?」


心配そうに近づく2人の声が、遠く聞こえる。

そのとき、サメ――いや、何か分からない存在が、口を開いた。


【ブラックデーモン】「驚かせてすまない!私はブラックデーモン。この二人……マーフォーク族のご子息を護衛している者。目を離すとすぐにどこかへ行ってしまわれてな!探していたのだよ!」


あまりのギャップに、ナツキは言葉を失う。


……喋った。

しかも、めっちゃ礼儀正しい。


【ナツキ】「マーフォーク族って?」


【ブラックデーモン】「我らは海に住まう者。この海域を治めているのがマーフォーク族だ」


ナツキはハッとした。

この子たちは、ただの子どもじゃなかった。

むしろ“王族”か何か、そんな特別な存在らしい。


【ナツキ】「そ……そうなんだね。初めて見たからビックリしちゃって……」


【ブラックデーモン】「ご子息たちを引き止めてくれていた事、誠に感謝します!驚かせてしまったお詫びと言ってはなんですが、コチラをどうぞ!」


彼は持っていた網を差し出す。

中には、獲れたての魚がびっしり。


【ナツキ】「えっ!お魚!?……こんなにたくさん……」


魚たちはまだピチピチと跳ねている。

鮮度抜群だ。


【ブラックデーモン】「以前も若い人間の方が遊んでくれたと聞きました。その方にもお礼がしたいので、お知り合いでしたらお伝え願えないでしょうか?」


【ナツキ】「分かりました。ただ、今は忙しいと思うので少し先の話になると思いますよ?」


【ブラックデーモン】「そうですか……。なら、これをお渡しします。この浜辺に起こしになったら、その海魔笛を吹いてくだされば、すぐに参ります」


彼が差し出したのは、貝殻でできた小さな笛だった。


【ブラックデーモン】「それでは、我らはこれで!……お二人とも、参りますよ?」


【フィーラ】「お姉ちゃん、またね!」


【セリル】「またね~」


何事もなかったかのように、二人の子どもと護衛の海魔はゆっくりと沖へ戻っていく。


ナツキはその姿をいつまでも見つめながら、ぽつりと呟いた。


【ナツキ】「まだまだ、この世界には知らないことがいっぱいあるんだなぁ……」


海風が吹く中、籠を抱えたナツキは静かにウルフ車へと戻っていった。


ナツキが再び海辺の森を訪れ、思わぬ形でマーフォーク族のご子息たちと再会しました。

そして護衛のブラックデーモンという意外な存在も登場。見た目は恐ろしくても中身は礼儀正しい――このギャップ、いいですよね。

今後、この出会いが物語にどう関わってくるのか…お楽しみに!


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