ー5章ー 9話 「道を繋ぐ者たち~ウルフバスと鍛治職人の魂~」
ウルフのみで構成された異色の輸送ギルド。
マスターに任命されたミリューが考えたのは──“道”の策定と、ある画期的な移動計画でした。
その計画は、領地の交通を大きく変える第一歩となります。
輸送ギルドのマスターを任されたミリュー。
このギルドはウルフのみという異例の体制で構成されており、当然のようにウルフたちによって運営されていた。
ミリューはリュウジに託された“道”の策定を任され、どのルートが最適解かを探っていた。
【ウルフA】「ミリュー様!材木の森へのルートに印を付け終えました!」
【ウルフB】「報告します!温泉への小道を仮策定してまいりました!」
デザートウルフが仲間になったことで、ウルフの数は飛躍的に増加。
現時点での移動、及び運搬手段は、このウルフたちにかかっている。
それ故に、ウルフ自身が走るルート設定は最重要課題だった。
【ミリュー】「よし!次はハーピー族とコボルト族の住処へのルートだ!」
普段ナツキといるときは女性らしい穏やかな話し方だが、責任ある立場の今はかなり厳しい口調になっていた。
【デザートウルフA】「はっ!かしこまりました!」
一戦を経て心を入れ替えたデザートウルフも、発展に尽力していた。
ミリューは今後のウルフ車運用にあたり、物資の輸送、人の輸送の二つの荷車を作る必要性を考えていた。
【ミリュー】「やはり荷車を使い分ける必要がありますね………。これはタケト様にご負担をお掛けする事になりそうです」
建築ギルドと鍛治ギルド、道具などを生み出せるのはこの二つ。
特に建築ギルドは建物の需要が多いのは明らかだった。
【ミリュー】「んー。建築資材の運搬、物資の輸送、人の運搬……。ん?人の運搬!?物資ならまだしも、沢山の人をより早く移動させるには……!」
ふと思い当たったミリューは、急ぎバルドンの元へ向かった。
──ホノエ村の一角にある小屋。
カキーンッ!カキーンッ!という鉄を叩く音が響き渡る。
【バルドン】「そうじゃねぇ!もっと狙いを定めて打つんだ!……あぁ、力任せに叩いてもダメだ!ったく!」
バルドンの職人らしい指導が、小屋の外まで響いている。
そこへミリューが顔を出す。
【ミリュー】「バルドンさん、ちょっと良いか?」
声に反応して振り返るバルドン。
【バルドン】「ん?おお、ミリューか!ちょっと待っててくれ。おい、今言った事を続けておけ!温度には気をつけるんだぞ!」
弟子に指示を出すと、ミリューのもとへ歩み寄る。
【バルドン】「悪いな!で、どうした?」
ミリューの来訪に心当たりがないため、そう尋ねる。
【ミリュー】「実は、私が今思っている案がありまして。建築ギルドにお願いしてもよかったのですが、他の依頼が重なっている懸念があったので、鍛治ギルドにお願いできないかと思いまして……」
素直に話すミリュー。
【バルドン】「そうか。タケトの所は普通に考えても忙しいのは分かるぜ?しかし、そのお願いってのは、俺たちでも代行できるのか?」
【ミリュー】「はい、むしろ強度から言って適任だと判断しました」
【バルドン】「で、何を作って欲しいんだ?」
【ミリュー】「看板です」
【バルドン】「は!?看板だって!?」
当然の反応だった。
看板なら建築ギルドの方が早い。
それなのに鍛治ギルドが適任だというミリュー。
【ミリュー】「輸送ギルドでは物資等の運搬は当然ですが、人や魔物の移動手段も兼ねてます。しかし、個々に人の移動をしていると、我々ウルフの数が足りなくなります。そこで、一定の場所。例えば村や街、主要な拠点に看板を建て、そこへ定期的にウルフ車が来るようにすれば、我々も乗りたい人も助かると思うのです」
正にバスだった。
ミリューは、現代の“バス”の役割を素で思いついていたのだ。
【バルドン】「なるほどなぁ……。しかし、うちのギルドである必要はあるのか?」
【ミリュー】「はい。木製だと木が腐りやすく、看板の立て替えの頻度が上がってしまいます。それに比べ、鉄製ならより長く丈夫でしょうから、看板には打って付けだと思うのです!」
【バルドン】「……よし、分かった!その案件、引き受けよう!ただ、条件がある」
【ミリュー】「何でしょう?」
【バルドン】「アイツらに作らせたい。道具ってのは、人の手に触れるもんだ。しかしアイツらは習いたての半人前。だが、経験と実績はあいつらの職人としての自信にも繋がる。看板ってのは道具じゃねぇが、ずっと残るし、人目に付くだろ?裏を返せば自分が作った作品が人目に晒され続けるんだ、変なもんは作れねぇ。それが大事なんだ!」
職人としての魂を込めるため、バルドンは弟子に作らせたいのだ。
【ミリュー】「なるほど……。分かりました、それでお役に立てるなら結構です!」
こうして、まさかの“バス計画”と職人見習いたちの初仕事が同時進行で始まった。
また一つ、この領地に新たな発展の芽が顔を出し始めたのだった。
今回は、ウルフ車運用の新たな試みとして“鉄製看板”によるバス計画が始動しました。
職人見習い達の初仕事も同時進行し、街道整備の一端が動き出します。
こうした積み重ねが、やがて領地全体の発展に繋がっていきます。
次回もお楽しみに!
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