ー1章ー 12話 「奇跡のハンマーと、女神のうっかり」
村に起きたちょっとしたトラブル。
……のはずが、ある道具と、ひと振りで世界が変わる。
そして、女神の世界では――
「あれ……? あのハンマーどこやったっけ……?」
ゆるっと始まって、気づけばちょっとスゴいやつ。
第12話、はじまります。
ーー翌朝。
トリア村の朝は、相変わらずスライムのぬちゃぬちゃ音と共に始まる。
昨日の話し合いを受け、今日は村人たちとミズハ村への支援、そして川の整備について協議が行われる予定だ。
その前に、ちょっと村の様子を見ておくかと外に出ると──
【村人A】「あーもう!なんでこんな日に限って!」
【村人B】「石橋がまた崩れてる!これじゃ渡れないぞ!」
村の中央を通る、かつての細い川にかかった小さな石橋が、見るも無惨に崩れていた。
【リュウジ】「うわ、マジかよ……」
【タケト】「……これは、酷いな。今日の話し合い、この橋通らないと村の人が集まれないだろ」
かつての細い川だった所は崩れやすく、そこを通るのは危険なため、村人は石橋を利用して行き来をしていた。
しかしそれが崩れたとなると、もはや会議どころではない。
【リュウジ】「おーい!誰かケガ人はいるか!?」
【村人B】「リュウジか!ありがとな!今のところそれは大丈夫なんだが、このままだと今日の会議に参加出来そうにない!どうしたものか………」
【タケト】「……なら、ちょっと俺にやらせてくれないか?」
タケトが何か思いついたかのように、その場に割って入る。
そして例のハンマーを手にしていた。
【リュウジ】「え、もしかして……?」
タケトは女神から渡された時、
「使い道は任せるわ~♪」
と軽く言われたが、今まで特別な力は感じられなかった。
すでに壊れている橋を叩いたところで、特に問題が大きくなる訳でもないと考えたのだ。
それに…何の意味もなく渡すだろうか?
タケトは何かが起こるかもしれないという、漠然とした考えではあったが、試してみようと思った。
【タケト】「どうせ壊れてるんだ。叩いたところで、問題は変わらないだろ?」
【村人A】「お、おう……まぁ、そうだな。」
タケトは崩れた石橋の端に立ち、静かに息を吸い込む。
【タケト】「……頼むぞ、女神」
そして、振りかぶったハンマーを、ゆっくりと──しかし確実に──橋の断面に振り下ろす。
カンッ!
高く澄んだ金属音が響いた瞬間──
まるで時間が巻き戻されたように、崩れていた石が自然に動き、
橋の隙間が……音もなく、スッと“元通り”に塞がれた。
【リュウジ】「……は?」
【村人たち】「えっ!?」
全員が息を飲む中、誰よりも一番驚いていたのは、当のタケトだった。
【タケト】「え……今、俺、叩いただけだぞ……?」
【リュウジ】「いやいやいや、叩いたら直ったぞ!?何それ魔法!?」
【村人A】「ひ、光ってたぞ今!何だ!?何が起こった!?」
【村人B】「嘘だろ!?ま……まさか……橋が元に戻った……!」
【タケト】「なんなんだ……これ!?冗談にしてはスゴすぎるだろ!」
あっという間にざわめきに包まれる村。
タケトは慌てながらも、そのハンマーを改めて見つめ直す。
【タケト】「……これは、“壊れたものを修復する力”がある……? もしそれが本当なら、ミズハ村の壊れた家も……!」
それは、被災した村にとって希望そのものになり得る、隠された能力があらわになった瞬間だった。
【リュウジ】「タケト、これ……スゴい物もらったな!アイツ、ダメダメかと思ってたけど、ほんのちょっとだけ見直したぜ!」
【タケト】「……あぁ。これがあれば、ミズハ村の復興に役立てることができるな…。決めたよ。俺は、ミズハ村に行く」
【リュウジ】「そうか……じゃあ、俺はこのトリア村の復興を引き続きやるよ。川の整備もな」
それは自然な分かれ道だった。
だが、どちらの道も“人を救う”という点では、きっと同じだった。
ーーー時を同じくして、女神の世界では。
【女神】「あれぇ~?ここにしまって置いた再生のハンマー、どこいっちゃったんだろう………。」
女神は不注意で、いつも座っている椅子の肘掛けを壊してしまった。
それを直すために再生のハンマーを探しているのだが………。
【女神】「ぁ。………アァァァァ!?タケトに間違えて渡しちゃったぁぁぁぁ!!」
そう。
女神はタケトが転生する際、どこにでもある、ごく普通のハンマーを渡すつもりだった。
転生した際に「結局普通かよ!!」という、タケトのつっこむ姿が見たかった……それだけのために。
【女神】「あぁ~ん………残念。まぁ、あのハンマー使ってタケト無双はできないからいいかな。
チート能力の道具を存在させてしまったのが悔しいけど………。うん、忘れよう!てへっ♪」
ーーーそして、舞台は再びトリア村へ。
……その後、村を挙げての協議はミズハ村の支援、川の再整備工事どちらも全会一致で可決された。
【じいさん】「ふむ。どちらも頼もしい限りじゃな。二人とも、どうか無理をせずにな」
【タケト】「ありがとうございます。……イモ、持っていってもいいですか?」
【じいさん】「もちろんじゃ。お前さんの旅の無事を祈っておるぞ!寂しくなったらいつでも帰ってくるがよい!」
こうして、俺たちは奇跡のハンマーを手に入れ、それぞれの道を歩き出した。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
今回はタケトが主人公級の活躍を見せました。叩いただけで直るって……もはや職人泣かせのレベルです(笑)
そして女神、やらかしてます。
でも本人に悪気はないので……たぶん……許してあげてください(?)
次回からはリュウジとタケト、それぞれ別の場所で“人を助ける道”を進んでいきます。
引き続き、イモとぬちゃぬちゃと一緒に見守っていただけたら嬉しいです!




