ー1章ー 11話 「イモの香りと平和な日々」
村に戻ったら、やっぱりイモの匂いがした。
ほんの少しずつだけど、世界は確かに動いてる――そんな気がする朝。
今日も変わらず、笑って、食べて、生きていく。
……あ、イモの話です。たぶん。
ミズハ村での騒動から一日が経った。
朝焼けの中、俺たちはトリア村の門をくぐる。
【リュウジ】「ただいま、トリア村!……いやぁ、イモの匂いが恋しかったぜ!I イモ最高~♪」
【タケト】「いや、分からんでもないが…そこまで!?」
【リュウジ】「いやいや、口の中の水分は奪われるが、ここのイモ、香りも味も最高なんだ!」
【タケト】「まぁ、確かに美味かったが……」
村は少しずつだが、確実に変化していた。
畑の一角には新芽が芽吹き、道端には小さな花が咲き始めている。
スライムたちが日々頑張ってくれた証だ。
俺とタケトは、その足でじいさんのもとへ向かった。
報告しなきゃならないことが、山ほどある。
【リュウジ】「じいさん、ただいま。ちょっと話があるんだけど」
【じいさん】「おお、戻ったか。では、まずは無事を喜ぼうかの。……さて、話というのはなんじゃ?」
俺は、ミズハ村での出来事をすべて話した。
川を塞いだ巨大な岩、傷つき暴れたドラゴン、そしてタケトと助けたこと。
ミズハ村の被害、泥水、氾濫――そして、復興の必要性。
【リュウジ】「……ってわけで、川はもう塞がれてない。だけど、あの村の復興は始まったばかりだ」
【じいさん】「ふむ……それは他人事ではないのう。わしらの村にかつて流れておった水も、ミズハ村から来ておるのじゃからな」
【リュウジ】「あぁ、それに……川の流れ自体に問題がある気がするんだ。幅も深さも足りないし。雨が降ったら、また氾濫するかもしれない」
【じいさん】「うむ。復興だけではなく、川の整備も必要となれば……」
村長は少しだけ目を閉じてから、ゆっくりとうなずいた。
【じいさん】「分かった。今日は村の者も忙しいじゃろうから、明日改めて村の者たちと集まり、協議の場を設けるとしようかの。そこでミズハ村への支援と、川の整備について話し合うのじゃ」
【リュウジ】「ありがとう、じいさん。俺もできることは全部やるよ」
【じいさん】「……で、そちらの若者はどちらさんかの?」
じいさんの視線がタケトに向けられる。
【リュウジ】「ああ、紹介が遅れたな。この人がタケト。俺と一緒にミズハ村の問題を解決してくれたんだ」
【タケト】「タケトです。……えーと、イモ、美味かったです」
【じいさん】「ほほう、そうじゃったか!……よし、ワシはおぬしを信用するぞ。イモ好きに悪い者はおらんからな!わっはっは!」
【リュウジ】「いや、基準そこなんだ……」
とはいえ、これで話は通った。
俺たちはじいさんの家を後にし、スライムの活躍が気になるので、タケトと村をぐるりと見て回ることにした。
【タケト】「それにしても、ここの村……ミズハ村と違って緑かある…というか、豊かな感じがするな」
【リュウジ】「だろ? 実はスライムがここの土壌を復活させるのに協力してくれてるんだ!面白いだろ?」
【タケト】「なっ!?スライムが!?どういうことか分からんが、魔物が人間と共存してるって……有り得ないだろ!普通!?」
【リュウジ】「俺も最初そう思ったんだけどさ。これが意外と話せるヤツだったんだよ」
驚きと笑いを交えながら、俺たちは村の外れの道に差し掛かる。
そこに転がる一つの岩を見て、タケトがぽつりとつぶやいた。
【タケト】「……そういや、このハンマー。何に使うんだろうな…。大岩でも砕くためだったのか?」
【リュウジ】「ん?」
【タケト】「ほら、女神からもらったこれだよ。見た目だけは“すごいハンマー”なんだが、結局出番なしで終わっただろ?何か意味があって渡したんじゃないか?って」
【リュウジ】「確かに。あのケチくさい女神が渡したくらいだから、何か意味はありそうだよな。なら、そこの岩でも叩いてみたらどうだ?丁度邪魔になってたし」
【タケト】「丁度邪魔って…。まぁいい、ちょっとやってみるか!」
タケトが腰からぶら下げていたハンマーを構える。
俺も一歩下がって見守った。
【タケト】「せいっ!」
岩に向かって振り下ろされたハンマーが「ゴンッ」と重たい音を立てる。
岩は砕けて、いくつかの破片になって地面に転がった。
【リュウジ】「……おお、普通に砕けたな」
【タケト】「あぁ。びっくりするくらい普通だな。……ただのハンマーなのか?」
【リュウジ】「いや、見た目にしては割とスゴい破壊力だぞ……それ」
【タケト】「いや、それ俺の腕力の問題だろ!」
結論として、今のところ特別な力は確認できなかった。
……まぁ、使えるならそれで十分だ。
【リュウジ】「とにかく、今日は休もう。明日は村人たちと話し合いだ」
【タケト】「そうだな。色々あってさすがに疲れた」
【リュウジ】「あぁ。今夜はイモの素揚げでも食べるか!」
【タケト】「あ……あぁ……。イモか……」
――翌日、ハンマーに隠された力が明らかになることなど、この時の俺たちはまだ知る由もなかった。
それにしても、やっぱりイモは最高だ。
平和な村、いつもの仲間、そしてホクホクのイモ。
戦いなんて、遠いどこかの話でいい。
――そんなことを思いながら、俺は今日もイモを頬張る。
明日も、腹が減る。それでいい。




