ー4章ー 27話 「タケトとオークの交渉、そして森の共存」
材木専用に作られた森の奥で、タケトが出会ったのは――まさかのオークたち!?
リュウジとは違い、交渉経験のないタケトが挑む、初めての“魔物との対話”。
そして登場する新たなキーパーソンとは……?
タケトは一人、材木専用で作られた森の奥へと足を踏み入れていた。
とはいえ、知らない者からしてみればただの森である。
そこに魔物が住み着いたとしても、不思議なことではない。
だが、何も伝えずに木を切り出せば、住み着いた魔物にとっては住処を壊されたように感じるはずだ。
衝突が起こるのは目に見えていた。
【タケト】「……魔物かぁ。俺に交渉なんて出来るのか?」
リュウジのようにうまくやれるとは限らない。
だが、自分にできる精一杯で挑むしかないと、タケトは覚悟を決めた。
やがて、森の最奥らしき場所が見え始めたころ――。
カーンッ、カーンッ!
何かを叩いているような音が、森に反響していた。
【タケト】「ん?何だこの音……」
音の正体を確かめるべく、音のする方向へと足を進める。
そして近づくにつれて音は大きくなり、ついにその主が姿を現した。
斧を振るい、木を切ろうとしている魔物。
その姿は――オーク。しかも6体ほど。
【タケト】「魔物って、コイツらの事か!?」
思わず声を漏らしたタケトに、オークたちが気づいた。
【オークA】「……おい、ありゃぁ人間だな!」
【オークB】「間違いねぇ……!人間だ!」
タケトは腹を括り、できるだけ穏やかに声をかける。
【タケト】「さ、作業中にすまないな! 俺はタケトっていう。人間だ。この森をスライムたちにお願いして作ってもらったんだが……。ここに魔物が住み着いたって聞いてさ、見に来たんだ」
【オークC】「!?……この森をスライムにだと?」
【オークA】「まさか……俺たちを追い出しにきたのか……!?」
タケトの説明に誤解が生まれたようで、オークたちの警戒心が高まる。
【タケト】「違う! 別に出ていけって事を言いに来たんじゃないんだ! アンタらと……取り引きがしたいんだ!」
【オークB】「俺たちと取り引き? どういう事だ?」
タケトは焦りながらも、真意を伝えるべく話し始めた。
【タケト】「実はさ、この領地の新しい領主が誕生したんだけどさ……。ソイツに元領主を住まわせる家を作ってくれって頼まれてな」
【オークC】「新しい領主だと!? ソイツも悪人か!? なぜ悪人の元領主の家を作る!? アイツは俺たちを苦しめた! 許せない!」
どうやら、オークたちもまた、グレイストによる悪政に虐げられていた被害者だった。
【タケト】「いやいや、ちょっと待て! その辺も詳しく話すからさ」
タケトはオークたちを落ち着かせ、これまでの経緯を丁寧に説明した。
【オークA】「新しい領主はお前の知り合いで、魔物と一緒に領主を倒したのか!? 人間は俺たち魔物を見捨てたのではないのか!?」
【タケト】「あいつ……リュウジはお前たち魔物と人間が手を取り合える領地にしたいんだよ。だから領主とも戦ったんだ……まぁ、あれは囲んだ?のか?……ともかくだ! 俺たちを信じてもらいたいから、森の入口に来てくれないか? 魔物と生活を共にしているって事を証明したい」
【オークB】「入口に行けばお前の言う事が証明できるのか?」
【タケト】「ああ、分かってもらえるはずだ!」
【オークA】「分かった、案内しろ。着いていくぞ」
オークたちは作業を中断し、タケトと共に森の入口へ向かった。
しばらくして、森の入口が見えてくる。
そこにはウルフ車が一台、停まっていた。
【ウルフ】「タケト様! おかえりなさい……。そのオークたちは?」
【タケト】「森の奥に住んでるオークたちだ。魔物と人間が生活を共にしている事を証明したくて連れてきた」
タケトの言葉に、オークたちがまたしても驚愕する。
【オークC】「ウ……ウルフが荷車を……!?」
【オークB】「気高い魔物であるウルフをどうやって……!?」
タケトが答える前に、ウルフが事情を語り出した。
【ウルフ】「我々ウルフ族は、長の命により、ドラゴンの同胞であるリュウジ様にお仕えしている! そして、リュウジ様は遂にこの領地の主となられた。目指されているのは、魔物と人間の共存……。つまり、お前たちもその一員という訳だ」
その言葉に、オークたちは深く頷いた。
【オークA】「そうであったか……。で、取り引きというのは? ドラゴンの同胞様のお仲間なら断る理由がないぞ、言ってくれ!」
タケトは少し苦笑しながらも、交渉の本題に入る。
【タケト】「さっきも話したが、元領主の家をリュウジが建ててくれって言ってるんだ。それでこの森、つまりスライムに頼んで作ってもらった森から木を切り出したいんだ! だが俺一人じゃどうにもならないから、手伝って欲しいんだ。もちろん、ここに住み続けてもらって良い。どうだ?」
【オークB】「ここに住んで良いんだな!?……なら手伝おう!」
住処を追われないという安心感が、オークたちの心を動かした。
【タケト】「ありがとう! 頼んだぞ!」
タケトは無事に交渉が成立したことに、安堵の息をつく。
【バスク】「では、ドラゴンの同胞様にご挨拶しなくてはな! 自己紹介がまだだったぞ!俺はバスク。オーク族の族長だ!ウルフ殿、タケト殿、連れて行ってくれ!」
【タケト】「え?お前が族長だったのか!?………ってか早速始めるんじゃないのか……?挨拶は後でも良いと思うのだが...」
【バスク】「おい、タケト殿!早く荷台に載るんだ!俺は早くドラゴンの同胞様に、ご挨拶がしたいぞ!」
何故か木を切ることは後回し。
まずは挨拶だと意気込むオークたちに、タケトは翻弄されながらも、ウルフ車に乗り込みリュウジのもとへ向かうのだった。
ご覧いただきありがとうございます!
今回はタケトの交渉回。
共存の輪がじわじわと広がっていく様子を楽しんでいただけたら嬉しいです。
そして、ついに登場したオーク族長・バスク。なかなかクセ強めです(笑)
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