ー序章ー0話 「転生」という強制イベント
「あれ? 気づいたら異世界!? ……って、選択権ないんかーい!!」
バイトと勉強の繰り返し、夢を追いながらも成果が出ず、地味に消耗していた主人公。
そんな彼に訪れたのは……まさかの強制転生イベント!?
“不遇なアラサー男”が現代の知識を武器に、ちょっと笑えてちょっと切ない異世界ライフを歩み始めます。
※肩肘張らずに読める転生ものです。お時間ある方、ぜひお付き合いください!
起業を目指して、毎日バイトと勉強の日々。
だけど結果は出ず、夢は遠く、現実は厳しい。
そんな俺が、突然トラックに撥ねられて目を覚ますと――そこは真っ白な空間だった!?
女神・魔法・異世界…でも転生の選択肢に“拒否権はなし”!?
これは、不遇なアラサー男の、ちょっと笑えてちょっと切ない転生録。
俺は塚橋 隆二。29歳。今も、夢を見ていた。
高校受験に失敗してから、人生が少しずつズレはじめた。
大学進学はあきらめ、バイトと勉強の日々。夢は起業。
なんとか自分の力で人生を立て直そうと、空いた時間で本を読み、ネットで調べ、試して、失敗して……またバイト。
今日も同じ日だった。
コンビニのバイトを終え、閉店間際のスーパーへ走る。
目指すは半額シールの貼られた野菜。
主婦との争奪戦の末、今日も見事勝利!ジャンクフードで体調を崩せば、夢の続きすら追えなくなる。
帰宅したら、いつものノートパソコンを開いてビジネスアイデアのメモをまとめる。
頭の中に渦巻く可能性。
けれど、現実はいつも遠く、大きな成果には程遠い日々が積み重なる。
SNSで発信もしたし、ブログも立ち上げた。商品ページだって作ってみた。
知らない案件は必ず調べてから、自分が納得できる内容だけを載せた。
嘘は書きたくなかったし、胡散臭いものを広めたくもなかった。
だけどフォロワーは増えず、アクセスも伸びず、売れるどころか誰にも見られない。
結果の出ない努力が、少しずつ心をすり減らしていった。
そんな毎日を繰り返していた。
【隆二】「……いつまで、こんな生活なんだろうな」
ぽつりと漏らしたその瞬間、閃光と共に強い衝撃を受け――
俺の意識は暗転した。
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気がつくと、俺は白く広がる空間の中にいた。
音も匂いもない。不思議と恐怖はなかったが、実感もない。
ただ、目の前に一人の女性が立っていた。
神々しさと可愛らしさが同居するような女性。
【女神】「目覚めましたか?」
ふわっとした笑みで彼女は言った。
その声は心地よく、けれど、なぜか背筋にひやりとしたものが走る。
【女神】「お気づきかと思いますが、あなたはすでに亡くなっています」
【隆二】「……は?」
【女神】「ボーっと歩いていた時にトラックに撥ねられるという、とーってもベタなパターンでお亡くなりになりました♡クスクスッ」
【隆二】「え!? そういえばさっき買った野菜がない……っていう前に、俺の体がない!?」
【女神】「はい。現在は魂だけの存在ですので、現世での器(肉体)はありませんよ」
【隆二】「嘘だろ……」
あんなに毎日……。少しの時間でも起業に向けて努力して……。
大した成果はなかったにしても、芽が出ていた事業プランもあったのに。
【隆二】(……もうできないってことか)
そう思った瞬間、人生が終わった絶望感と、結局何も残せなかった自分に打ちひしがれながら、なぜか――少し安堵していた。
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【女神】「さて、あなたには2つの選択肢があるのですが………。」
唐突に話し始める女神。
【女神】「ひとつは、記憶を消して“地球”へ再転生。生まれた瞬間からのやり直しですね。
もうひとつは、今のあなたのまま、“地球によく似た別の世界”で新しい人生を歩むというものです」
言葉の意味がすぐには入ってこなかった。
【隆二】「……ってことは、子どもからの人生か、29歳のまま異世界か…」
【女神】「そうなりますね。補足ですが、あなたのいた地球よりも文明は遥かに遅れています。
スマホはもちろん、コンビニや銀行といった文明の欠片は一切存在しません」
【隆二】(つまり……ずっと煩わしかったアレもないということか?)
【隆二】「……確定申告は?」
【女神】「ありません」
【隆二】「ほほー。異世界、なかなかやるじゃないか!税の申告だけは本当に頭を悩ませていた苦痛の1つだったからな。
そういう意味じゃ、ちょっとポイント高いんじゃないの? 異世界」
強がってみせたが、後悔がないわけではない。
現世に生き返って、またゼロから道を歩むのか。
ここまで培ってきた自分のままで、新たに生きていくのか……。
努力しても報われなかった日々。
もし、この知識や経験が違う世界で役に立つなら、俺にも新しい生き方があるかもしれない。
未練はある。
けど、少しだけ異世界も悪くないと思えた――そんな瞬間だった。
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【隆二】「異世界と言うくらいだから、当然アレもあるんだよね?」
【女神】「もちろん、魔法はありますよ〜」
【隆二】「おぉぉぉ! ロマン溢れる世界じゃないか!」
女神はにこりと笑ったまま、言葉を続ける。
【女神】「そしてぇ……魔物もいます」
【隆二】「お約束かよ!」
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【女神】「それと、あなたにひとつだけ――重要な注意事項をお伝えします」
女神の雰囲気が急に変わった。
【女神】「この転生の事実は、絶対に異世界の人々に話してはいけません」
【隆二】「え? なんで?」
【女神】「話した瞬間、“存在してはならない者”として排除される危険があります。
異世界には転生の概念すらありません。神の領域を知る者は、世界の均衡を乱すとされているのです」
【隆二】「いや、それ先に言えよ!」
【女神】「ふふ、事後報告ってドキドキしちゃうでしょ?」
俺は頭を抱えた。
【隆二】「……で、俺に拒否権は?」
【女神】「転生に興味ありそうだったから……なし♪」
【隆二】「待て待て待てーいっ!!」
【女神】「だって、あなたの魂はすでに“異世界仕様”にしちゃったもん。戻るなんて選択肢はありませんよ♪ゴメンなさいね~」
【隆二】「おいおいおいおい!? 強制イベントじゃねーか!」
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【女神】「最後にもうひとつ……塚橋さんは29歳でしたよね?」
【隆二】「そうだけど?」
【女神】「……アラサー転生だって……ぷぷっ」
【隆二】「こらこらっ! そこは笑ってはいけません!」
軽いノリの女神に翻弄されながらも、今の状況に少しだけ余裕が生まれてきたのが分かる。
【女神】「不憫なので、9歳だけ若返らせてさしあげます♡」
【隆二】「どうせなら10代が良かったんですがね……! まぁ、ありがたく受け止めますよ!」
【女神】「それでは、良い旅を♪」
女神が指を鳴らした瞬間、光が全身を包んだ。
意識が遠のく中、俺は叫ぶ。
【隆二】「ちょい待てぃっ! 魔物出るんですよね!? せめて初期装備でお馴染みの木の棒くらいよこしなさーーーーい!!」
……冒険者の声に誰も応えてはくれなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は“異世界転生モノの王道”……かと思いきや、選択権すらないという不条理スタート。
でも、どこかクスッと笑えて、切なさも混ざった始まりになったかと思います。
次回からはいよいよ異世界での生活がスタートします!
魔法?村人?スライム?そしてイモ!?
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それでは、また次回お会いしましょう。