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花鳥風月の神様  作者: るち
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後継者3

 みんな祭りで賑わっている。剣舞を終えたツウトの周りには娘たちが群がっていた。ツウトは人気(ひとけ)のない大木の裏で海夕と待ち合わせをしていた。自分に群がる娘たちになんとか言い訳をつけてその場をあとにする。


 ツウトは一般の者が入れない神社の奥深くに隠しておいた村人の衣にさっと着替えた。髪も村人と同じように後ろに小さくまとめた。「今日は海夕を飛び切りの場所に連れて行く。」あの景色を見て驚く海夕の顔が楽しみで仕方がなかった。


「海夕!待った?」


不安げな様子で大木の裏手にいる海夕を見つけ声をかけた。振り向いた彼女の顔にはもう不安は消えていた。


「どうしたの...それ?」


ツウトの普段とは異なる姿に海夕は驚いたようだ。


「あんな格好じゃ目立つから。借りたんだ。行こうか?」


ツウトが手を差し出した。海夕は笑顔で彼の手をとり、二人で林の奥へと向かう。


しばらく歩くと木々が開けた場所に出た。そこだけ光が差し込んでいる。見ると周りには美しい黄色の花々が池を取り囲むように咲き誇っていた。月乃巫女と訪れたときと同じく花のとても良い香りがほんのりと漂っている。


「綺麗...。」


こんな場所が近くにあることを知らなかった海夕は目を見開いて景色に見とれていた。こうして二人でいると、ここだけ時間が止まってしまったようにツウトは感じた。外からは隔絶された世界。二人だけの。しばらくすると海夕がはっとなり自分を見つめるツウトの視線に気付く。恥ずかしそうに視線を下にむける海夕がかわいらしく、ツウトはこの場所の感想を彼女に尋ねた。


「気に入った?」


「うん、すごく、すごく綺麗ね!」


よかった。やっぱり気に入ってくれたとツウトはほっとし、海夕に近づき彼女の頬に触れる。


「海夕...。」


ツウトは今日は二人の思い出の日にしたいと決めていた。いつもとは違うツウトの真剣な眼差しに海夕は金縛りにあったように目を逸らすことができなくなった。

まるでツクヨミが黄花にしたようにツウトは海夕に語り出す。ツウトの瞳の奥の輝きは神々しくツクヨミと同じものだった。


「ずっと…大切にするから。」


ツウトは海夕に口づけをした。今日はいつもとは違い欲望のままに海夕に深い口づけをする。彼女の口の中を激しく求めた。ぎこちないが、海夕もそんなツウトの口づけに応える。


「海夕...。好きだ、もっと触れ合いたい。」


海夕に口づけをしながら話すツウトは息が荒くなっていた。それがどういう意味なのか海夕にもしっかりと伝わった。海夕の返事は...。


「私も...ツウトと同じ気持ち。」


二人はお互いの吐息を奪い合うように今まで以上に深い口づけをする。そしてそのまま美しい花々の上に横になり、初めて愛を交わした。











「時間、大丈夫なの?」


花の上に座り、背後から抱きしめるツウトに海夕が残された自由時間を尋ねた。二人はぴったりとくっつきお互いの存在を確認し合うように何度も口づけを繰り返す。


「平気だよ。」


月捧舞(げつほうまい)は俺は踊らないから。」


月捧舞とは団体で舞う踊りだ。月の神様への供物をささげるときに舞う。祭りの最後に催される踊りで、ツウトが舞った月の神の祈りの舞と同じくらい重要なものだ。


「海夕。」


「なに?」


こうして海夕と深い仲になった今、ツウトは海夕に今まで誰にも言わないできたことを話そうと思った。彼女には知っておいてもらいたい。


「俺の本当の名を知っていてほしんだ。」


「え?」


「俺の…俺の本当の名は月思人(つきしと)。」


「ツキシト...。」


「幼い時に自分の名をうまく言えなくて。そのままツウトになった。物心つくころ母さんから正式な名を聞かされたけど、何故か普段はツウトでいなさいと。そのころには周りにもツウトでなじんでいたから。俺も深くは考えずにもういいやと思って。」


「そうだったの。」


「でも俺はこの月思人という名が好きだ。月乃神社や月乃巫女様とのつながりを強く感じる。」


「だから...。大切な人には知っておいてもらおうと。二人でいるときは月思人と呼んでほしい。」


「ツキシト...。わたしのツキシト。」


海夕はツキシトの頬に触れ何度も彼の名を呼んだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




祭りが無事に終わった。月思人は役目を立派に果たした。あれから数日が経っていた。

秘室に座り、瞑想をしていた私はまた夢を見ていた。私とツクヨミの思い出の場で月思人が愛する者と思いを遂げる夢。


「巫女様、お呼びですか?」


虫の知らせを感じ、この日私は月思人と話をするために彼と二人の時間を作った。月思人が私の正面に姿勢を正して座す。


「この度は大役ご苦労様。終わってみてどうだったかしら?」


「月の神を身近に感じました。また来年も祈りの舞を舞えるように精進していきたいと思っています。」


たった数日しかたっていないのに、急に男らしくなった。子供の成長は早い。もう少し、あなたの成長を見たかった。胸に鈍い痛みが走る。



「巫女様?」


意識朦朧とする私に月思人が歩みよる。近くで見ると本当にツクヨミにそっくりだ。彼の父は現人神であったため十四(じゅうし)で時間が止まっていたが。

そろそろ時間切れかもしれない。私は目の前にいる我が子の顔にそっと触れる。


「月思人。あなたの血はとても尊い。決して絶やしてはいけない。あなたの血が続く限りこの地は護られる。」


「どうしたのです?巫女様!!」


私の言葉に月思人がなにかを感じ取ったのか、彼の目に涙があふれる。


「本殿の...耳飾りを大木に埋めなさい。この身とともに。誰にも見られないように。あれはとても大切なものだから...。」


「巫女様、わかりました。わかりましたからもう話さないで!」


「うっ...。」


やはり時間が来たようだ。先程の鈍い痛みが刺すような痛みにかわる。今までになかった痛みだ。

私は月思人に伝えなければいけない。


「お苦しいのですか?修行の成果がでたのか、最近傷が癒せるようになったのです。巫女様の病もきっと治せます!」


月思人...。

それは浄化の力。あなたが生まれ持った力。父親から譲りうけた神聖な力...。


「その力を大切にしなさい。約束して。決して...決して血を絶やさないと。」


「約束します!約束しますからっ!巫女様、俺を置いていかないで!!」


まるで幼子のように泣きじゃくる月思人。私の愛しい我が子。母は先に逝きます。父が大切にした月乃神社をお願いね。私は心の中で伝えられない思いを囁く。「私のかわいい月思人...。」最後に微笑み私は瞼を閉じた。







目を覚ますと真っ白な天井。涙が止まらない。




「ミコト!大丈夫?かわいそうに、こんなに泣いて。今先生呼ぶから。」




わたしは...。わたしは月生美琴つきおみこと。過去、黄花で彼女の記憶を持つ。

なぜわたしが触れると白宝は元気になったのか。なぜ白宝から依代となったレンを解放することができたのか。今ようやっとわかった。


わたしがここにいる理由。あの子が...。月思人が約束を守ってくれたんだ。


「決して血を絶やさない。」


わたしの中にはツクヨミの血が流れている。

読んでくださりありがとうございます。

続きが気になる、面白かったなど思われましたら、是非是非☆評価、応援よろしくお願いいたします。

楽しんで読んでいただけるようがんばります。

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