後継者2
「もうすぐお祭りだね。剣舞はかなり仕上がってきた?」
「あ?うん...。」
二人はいつも鶏小屋の前で会っていた。今日のツウトはぼぉっとして心ここにあらずの状態だ。
「みんなの様子がおかしいの。そわそわしていて。望和様も来ているし。なにかあったの?」
「...。」
海夕はツウトに最近の神社の様子を言って聞かせるがツウトからの返事はなく彼は真っすぐ前を見たまま黙っている。なにか考えごとをしているように。海夕はそんなツウトの整った横顔をチラチラ見ながら静かに彼の隣にいた。
カーン、カーン、カーン...。
夕刻の修行が終わる鐘の音が鳴り響いた。ツウトはその音にびくっとなり、ようやく我にかえる。
「あ、ごめん。ぼぉっとして。」
「ううん。」
海夕はなにか言いたげな様子であったが口を開くことはせず、いつも二人が別れるときにする口づけを待った。やはり慕っている人とは触れ合いたい。ただ自分は女なので、自ら積極的に動くことははばかられた。
「海夕...。」
ツウトから、「いつもの」というふうに声をかけられ海夕はそっと目を閉じた。それが合図とでもいうように、ツウトも目を閉じ海夕の唇に自分の唇を触れさす。
「海夕。祭りの日に休憩時間がある。その時に前に言っていた場所に行こう?」
ツウトが海夕の肩を自分の方に寄せた。海夕は素直に体をツウトに預ける。神社で長く過ごすツウトからはいつも月の神の香の香りがしていた。海夕はこの香が大好きだった。
「うん、行ってみたい。」
ツウトは最近神社で起こっている妃奈里に関するゴタゴタに海夕を巻き込みたくなかった。この件が無事に解決したら海夕に全て話すつもりでいた。
望和は月乃神社にいる弟子一人ずつを別室に呼び出し、最近なにか悩みごとはないか、過ちを犯し悔いてはいないかと尋ねた。この別室に足を踏み入れるとなんとも良い香が焚き染められ気持ちがふわふわとした。この香こそが真実を暴く香である。香を嗅いだ者は目の前にいる者の質問に素直に答えてしまう。これを防ぐにはかなりの修行をした者でしか難しいことだ。弟子達は望和の質問に素直に答えた。
「お入りなさい。」
「望和様、お話とは?」
望和に呼ばれ部屋に入った亜門は緊張した面持ちだ。何故自分がここに呼ばれたのかこころあたりがあるからだ。しかし妃奈里との約束は守らなければならない。なにがあっても口をつぐむつもりでいた。しかし、この部屋に足を踏み入れた時から頭に靄がかかったようで、気持ちがはっきりとしない。望和からの質問にいけないと思いながらも正直に答えてしまう。
「わかりました。素直に答えてくれてありがとう。ほかになにか知っていることがあれば教えてください。」
「はい、望和様。妃奈里は...。」
数日後、弟子たち全員から話を聞いた望和はこの月乃神社に巣くう邪念を憂いた。望和が導き出した妃奈里の腹の子の父親は不明であった。というのも関係を持った者が多すぎて、誰が腹の子の父親かわからないのである。
この事実を妃奈里、彼女の叔父に話して聞かせると、妃奈里は泣いて叔父に許しを請うた。どんなに励んでも意中のツウトと思い通じ合うことができず、虚しさから自分を求める他の男に体を許したのだと。それが肉欲だけであったにもかかわらず。叔父は彼女を罵倒し、二度と家の敷居は跨がせないと言い放った。
妃奈里を不憫に思った望和は彼女と関係を持った弟子たちとその親を集め話し合いをさせた。結果、彼女に一番思いを寄せていた亜門が妃奈里と婚姻を結ぶことになった。亜門同様、妃奈里と関係を持った他の弟子たちも神社から出、自分の家にかえることになった。
年に一度の最初の月謝祭であったが、こういう経緯で月乃神社の弟子たちの数は半数以下にまで減ってしまった。
それでもこのような祭りは人々の気持ちを盛り上げる。稀に見る見事な神社の祭りとあって、村人だけでなく、話を聞きつけた遠方の者たちまで祭りを楽しむために駆け付けた。
ツウトは見事に月の祈りの舞を舞った。ツクヨミを思わせる神聖な衣装を身にまとい光り輝く剣で舞うその姿に人々は神々しさを感じた。この地は神に護られていると。
本殿からその姿を見ていた黄花も同じように思っていた。老婆にツクヨミの話を聞いた時のことを昨日のことのように思い出す。
「あの月の神様は清廉だ。欲がない。姿をみたら癒されるよ。」
ツクヨミ...。あなたの息子は立派に成長した。姿はあなたに瓜二つ。きっと力も受け継いでいるわ。こんなに癒されるんだもの。
黄花の頬には涙が一筋流れた。
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