真実3
「ほんとに妊娠しているの?あんた、いつからそんな相手がいたの?」
ツクヨミと恋人だった時間は短い。母さんが訝しむのも無理はなかった。
「ちゃんと医術に心得のある人に診てもらわないとわからないんじゃない?」
「そうだけど。十中八九間違いないと思うわ。喜ばしいことじゃない!」
桃花が母さんをなだめようと頑張ってくれる。
「そうだけど...。孕ませといて相手の男がいないんじゃね。」
「だからっ!今回の水害で被害にあって亡くなったのよ。近々挨拶に来る予定だったの!」
桃花はわたしとお腹の子のためにあることないこと、必死に取り繕ってくれた。母さんはわたしの結婚相手がもう望めないことに失望しているようだった。子持ちの女と一緒になりたがる男は滅多にいないから。生きる希望ができたわたしは心の中でツクヨミに語りかけた。「わたしたちの恋が実を結んだよ。」
「気持ち悪い。気持ち悪くて...なにもできない。」わたしはあれからすぐにひどい悪阻に襲われた。そのせいで全く食べ物を受け付けられず、体重はどんどん減っていく。あまりのわたしの痩せ方に母さんも桃花もとても心配した。そんな時、母さんがいい知らせがあると浮足立って帰ってきた。
「徳の高い僧侶がこの地を歩いて回っているらしいよ。水害に見舞われた土地の 邪を取り除くために。ああいう方は医術にも長けているから、黄花のことを一度見てもらおう。」
「それはいいわ。黄花、もう少しがんばって。」
桃花も母さんの意見に賛成し、体が弱っていくわたしを励ましてくれた。しかし、みんなその僧侶から少しでも徳を分けてもらおうと人が殺到し、わたしたちが僧侶と会うことができたのは十日以上たってからだった。わたしの体力はそろそろ限界にきていた。意識が朦朧とする中、母さんと桃花がその僧侶と話す声がした。
「驚きました。この地には邪なものが感じられない。清らかな気を感じます。」
「ここは以前月の神様が守護されていた土地なんです。」
「なるほど。濁龍がこの地で消えた意味がようやく分かりました。月の神が鎮めたのですね。」
「なんなの?濁流とか月の神って??」
ツクヨミのことを知らない母さんは二人の話についていけていない。桃花はなんとか理由をつけて渋る母さんに席を外させた。
「なにか、複雑な事情ですかな?」
「妹のことなんです。」
「体の具合が悪いとか。お母さまから相談を受けております。今日はその件でこちらに参っておりますので。」
「黄花、入るわよ?」
わたしに声をかけ、桃花が仕切りの布をめくり上げた。わたしの姿を見た瞬間、僧侶の顔がとても悲しい表情をあらわした。
「妹の黄花です。この子は今妊娠中で。悪阻がひどくてどんどん痩せていってしまって。」
「なんとこれは...。」
僧侶は数珠を持った手を重ね短い経のようなものを唱えた。
「あなたの胸のあたりにあるものは?そこからとても神聖な力を感じます。この土地を守る源のようなものです。」
「これ...ですか?」
わたしは胸元からツクヨミの耳飾りをだした。
「これは...。」
「月の神...ツクヨミの耳飾りです。」
僧侶は耳飾りに震える手を伸ばしたが、さっと手を引っ込めた。
「これはあなたが身に着けていた方がいい。それに...。」
「なんですか?」
僧侶はおそれ多いというように静かに口を開いた。
「あなたの体内からも微量ながらも神聖な気を感じます。とても清らかな気です。あなたのことも浄化している。そのためあなたはまだ生きながらえているのです。」
「え?」
わたしと桃花は僧侶の言葉に同時に声をあげた。
「お腹の御子はもしや月の神の...。」
この僧侶はなにもかもお見通しのようだ。わたしは黙って頷いた。
「あの...、黄花を浄化しているってどういうことなんですか?」
「残念ながら...。あなたには強い女の邪念が憑りついています。その女はもうこの世のものではない。ですが深い執念です。とても強力な。払いのけることは無理でしょう。」
「それが原因で黄花はこんな状態なんですか?」
桃花は真相を聞き出そうと真剣な眼差しで僧侶に質問を続けた。
「これ以上悪化しないようにその邪念の力を一時押えることはできます。私が術を施しましょう。御子の力もあり、かなり楽になるはずです。しかし出産後は御子はあなたの体内にはいない。そのためそれをあなた自らしなくてはなりません。でないとあなたはもう一年も生きられないでしょう。」
「そんな!!」
桃花が悲痛な声をだす。
僧侶の言った言葉が頭の中で反芻する。「生きられない…。」わたしはツクヨミが死んでからずっと生きることに絶望していた。そんなわたしに罰があたったのか。今はこの子と共に生きたいと強く思っているのに。
「諦めることはありません。あなた自身があなたを清めるのです。邪念に負けないように。しかしもう一つ、つらい判断を下さなければなりません。」
「なんなんですか?」
まだなにかあるのかと桃花もわたしと同じように目に涙を浮かべ尋ねた。
「その邪念はあなたで終わらせなければいけない。お腹の子にまで降りかからないように。」
「いったいどうしたら...。」
「親子の縁を切るのです。あなたに子供はいない。そうすれば邪念はあなた一人の身におさまるでしょう。」
僧侶は覚悟を決めたようにきつい言葉を言い放った。
「いやっ!」この子は私とツクヨミの子供だ。どうして母と名乗れないの?どうして育てることができないの?わたしは、わたしは...。涙がとめどなく溢れる。わたしは答えを見つけられない。
「私が育てるわ。黄花、それならいいでしょう?私、大切に育てるから。私が母親ならいつだって会えるわ。」
桃花が先に覚悟を決めてくれた。桃花の瞳はわたしに大丈夫だと訴えていた。わたしに選択権はなかった。生まれてくる子供は桃花の子供になる。
わたしも覚悟を決める。わたしに子供はいない。それでこの子が幸せになってくれるのなら。
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