月乃神社5
最近胸が苦しい...。いよいよなのかもしれない。朝方、目を覚ますと胸が締め付けられるように痛んだ。私は自分がそう長く生きられないことを知っていた。望和様と会ったときにそう言われていたからだ。ここまで生きながらえたことが奇跡のよう。でもこれで...。ようやくあの人の元にいける。
「ツクヨミ。」
一人、愛する人の名を口にする。
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今日もいつも通り日々の務めに取り組む。昼前に付き人の永羅が報告にきた。
「巫女様、客人が参っております。お会いになられますか?」
「客人?どちら様?」
「隣村から来られたとか。」
やはり来た。客人は先日桃花から聞いたツウトの縁談相手だ。断りの内容を文で届けたのだが納得できないらしい。
隣村は一族が代々取り仕切っている閉鎖的な村だと聞いた。きっと今まで思い通りにものごとを運んできたのだろう。「どうしてもツウトを手に入れるつもりね。」私は背筋を伸ばし、件の客人が待つ間へと向かった。
「いや、ここまで神々しいとは思いませんでした。ツウト様は巫女様の甥にあたられるとか。納得ですな。あれほどの美男子は見たことがない。」
隣村の村長がわざわざここまで足を運んでくるとは。彼らの希望を聞き入れるつもりはないが、無下にはできない。
「そうですか。わざわざ足を運んでこられなくとも。」
「きっと我らの熱意が伝わっていないと思いましてな。我が姪の妃奈里はツウト様よりは年上ですがその分気が利くのでお役に立ちますぞ。悪くないでしょう?」
村長の隣に座る妃奈里は目線を下に落としたままだ。確かに外見は悪くない。少し気がきつそうではあるが。しかし私の勘が彼女を拒絶していた。ツウトには合わないと。
「ツウトは神に仕える者です。今だ修行の身。こういうことは時がきたら自然にと思っております。」
なればしばらくの間この妃奈里をツウト様のおそばにおいてください。きっとお役にたつでしょう。
「しかし...。」
「妃奈里、お前からもお願いしなさい。」
「どうぞよろしくお願いいたします。」
頑としてもひかない村長の要求に私は折れるしかなかった。ツウトがこの妃奈里を選ぶとは思えない。本人にしっかりと諦めてもらうしかないと私は思うことにした。
「今日からここで神事についてともに学びます。兄弟子たちの手伝いもこなすように。妃奈里さん、よろしいですか?」
「はい。」
とても小さな声で妃奈里は返事をした。
神社で修行に励む者たちの前で妃奈里を紹介する。弟子達は全てが男子だ。普段中々会うことのない娘を前にし、皆が色めきたっている。しかし、彼女の意識の全ては目の前にいるツウトに集中しているようだ。一通り説明を終え、解散となった時に妃奈里は一目散にツウトの元へと駆け寄った。
「ツウト様。わたし、あなたに嫁ぐためにここに参りました。」
「え?」
「あの...私に任せてください。体のお世話など。」
その場にいる全員が彼女の言葉に固まった。言われたツウトは私に視線をむけどういうことなのかという顔をした。
「妃奈里さん、ここはそういう場所ではありません。妃奈里さん以外はみな仕事に戻りなさい。」
「いやっ!せっかく会えたのに!!」
立ち去ろうとしたツウトの腕に妃奈里はしがみついた。
「ちょっと...。」
ツウトはどうしていいのかわからず、妃奈里に触れることもしないで身動きできずにいた。私は静かに二人の元へ歩み寄りそっと妃奈里の腕に触れた。
「さぁ、手を離して。」
「いや、いやよ!」
駄々をこねる子供のように首を振り妃奈里はツウトから離れようとしなかった。
「妃奈里さん。」
妃奈里はようやく私を見た。「ツクヨミ...力を貸して。厄災が降りかからないように。」私は本殿に奉納されているツクヨミの耳飾りに思いを馳せた。ツクヨミには有無を言わせぬ神々しい眼差しがあった。私たちを守るために彼ならきっと力を貸してくれるはず。
気持ちが通じたのか、力が抜けたように妃奈里はツウトから手を離した。私はツウトを見、「行きなさい。」と目で合図した。みなバラバラと自分の持ち場に戻って行った。
「妃奈里さん。こういうことはもう二度としないで。約束の日より早くにあなたを帰さないといけなくなります。」
私は彼女に強く念押しをした。
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