月乃神社3
月日が経つのは早いもので月乃神社建立から半年が過ぎていた。年頃の男女は逢瀬を重ね、人生で一番光り輝く時を過ごしていた。
ツウトも青春を謳歌したい気持ちはあったが、自分の立場や月乃巫女である叔母の役に立ちたいと思う気持ちの方が強かったため、特別な関係の異性はおらず、男女関係が発展することはなかった。娘たちからの人気は相変わらずのツウトだったが、色恋沙汰とは縁遠く真面目に神事に励み、着々と実力をつけてきていた。ツウトは実力もなく、巫女の甥だからという理由で後継者に選ばれたとみんなに思われたくなかった。
それでも今だにツウトに思いを寄せる娘は数多く、神社には近寄りがたくとも村にツウトが使いに出たときには彼の周りには娘たちが群がっていた。そんな異性からの眼差しに見向きもせず、淡々と作業をこなすツウトの姿勢はなおさら娘たちの心に淡い思いを募らせるのだ。
「ツウト、お前どの子を嫁にもらうか決めたのか?」
山を登ったところにある滝つぼの麓まで清めの水を汲みに行ったときに兄弟弟子の出がツウトに尋ねてきた。ツウトと年の近い兄弟弟子たちも異性に興味がある年頃だ。話せばだいたい「あの子がいい。」や「こんど声をかけてみようか。」など、異性に関することがもっぱらだった。
「まだまだ先の話じゃないか。」
「そんなことないぞ。俺たちと同じ年ごろの村のやつらはもうやりたい放題さ。羨ましい。」
「そんな邪念があったら修行の邪魔になる。」
ツウトの話を聞いていないのか出は構わず村の娘たちの話を続けた。
「千種なんていいよな。胸でかいし。歩く度に揺れてさ。」
「...。」
「藍羽はいいケツしてるけど顔がな。やっぱり多少かかわいいほうがいいだろう?」
「お前、外見ばっかりじゃないか。」
ツウトはずっと無視を続けていたが、出の話に嫌気がさしてとうとう口を開いた。
「お前はさぁ。そりゃぁあんな美人毎日見てるんだもんな。」
「はぁ?」
「巫女様だよ。巫女様のような美人はそういない。現実を見ないとな。」
なにを馬鹿なことを言っているんだとツウトはまた再び無視を決め込んだ。
「俺は巫女様とは修行で一週間に一度くらいしか会えないからな。巫女様、俺たちぐらいの年齢の時はさぞかわいらしかったんだろうな。男達がよく放っておいたよな。」
「おい、もういい加減にしろ。」
ツウトにとって巫女である叔母の黄花は特別な存在だった。尊敬もしているし慕っている。出に好きなように言われ、彼女が汚されたようで嫌だった。
その後は二人黙って山を下りる。ようやく平坦な道に出たとき、岩陰に一人の娘が座り込んでいるのが目に入った。
「どうしたの?」
ツウトが声をかける前に娘と気付いて出が駆け出しながら声をかけた。声をかけられた娘は一瞬ビクッとしたが、遠目に二人が神社の者だと気づき安心したのか肩の力がぬけるのが分かった。彼女は巫女の世話役の永羅の娘の海夕だった。
「怪我したの?」
早速、出が話しかける。
「薬草を取りに来ていたんだけど、そこの石につまづいて。」
海夕は出の顔を見ながら経緯を話した。数歩あとから来たツウトに気付くとさっと顔を伏せてしまった。
「足、ひねったんならおぶってやろうか?」
「え...。あの、大丈夫だから。」
突然の出の申し出に海夕は咄嗟に断った。出はスケベ心丸出しだった。女性の肌に少しでもいいから触れたいのだろう。
「じゃ、俺たち先に帰るけど。」
申し出を断られ、バツが悪いのか出はさっさとその場を立ち去ろうとした。ツウトも本人が必要ないと言うのだからと特に声をかけることもなく出のあとに続いた。
夕餉前、ツウトは永羅がソワソワしている姿が目に入った。
「永羅さん、どうかしたの?」
「あ、うん...えっと。」
「なに?巫女様のこと?」
「違うよ。大したことじゃないんだけど...。海夕の姿が見当たらなくて。」
ツウトははっとした。「まさかまだあの場所にいるんじゃ...。」もう日が暮れかかっている。ツウトは娘を一人あんな場所に置き去りにしてしまった自分の判断を悔いた。
「探してくる。」
「え?あ、ツウト!」
永羅が呼び止める間もなくツウトは外に駆けだしていた。
昼間、海夕と出会った場所まであと少しの所で彼女を見つけた。足がかなり痛むのか木に寄りかかっている。くじいた方の足を引きずりながら歩こうとしていた。
「どうしてあの時強がったんだ?」
ツウトの声に海夕はびくっとなり顔をあげた。もう夕闇がすぐそこまで迫っている。ツウトは念のためにと松明を手にしていた。ツウトの姿を認め、迫りくる暗闇の中、心細かったのか海夕の目から涙が一筋流れた。
「別に怒っているんじゃないから。」
そういってツウトは海夕に歩みより彼女に肩をかした。少年から大人になりかけたツウトの方が海夕より背丈は高い。華奢な海夕はツウトの肩に腕を取られ、軽々とつま先立ちになった。
「これなら別にいいだろう?」
昼間、海夕は出の申し出を断った。そのためツウトは彼女をおぶることはせずに肩を貸すことにしたのだ。ツウトの一連の行動に海夕はなす術もなくされるがままだった。ツウトは肩をかしたほうの手とは反対側で松明を持つ。そのままゆっくりと二人で歩いていく。海夕は時々チラチラと松明に照らされるツウトの横顔を見て頬を赤らめていた。
ようやく神社まで着いた時、母の永羅が心配そうな顔で姿を現していた。
「海夕!全く心配かけて!」
「足をくじいているみたいだ。今夜はここに泊った方がいい。」
「ツウト、ありがとう。」
永羅はツウトに礼を述べた。そのままツウトから母永羅に貸していた肩が変わる。その時、ずっと押し黙っていた海夕が言葉を発した。
「ありがとう。」
少しはにかみながら礼を述べた海夕はさっと顔を伏せ、永羅とともに傷の手当にむかった。
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