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花鳥風月の神様  作者: るち
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月乃神社2

 その日の夜遅く、望和様が村に到着した。望和様と知り合って十五年近くが経つ。彼は遠い異国の地での厳しい修行の末、神がかった不思議な術を使うことができた。身につけた力を人々のために役立てようと各地を回っている。


 私は巫女としてたつために様々なことを彼から学んだ。望和様の温和で優しい眼差しは出会った頃と変わらない。村の人達からの信頼も厚い。


「よく頑張りましたね。月乃巫女。ようやく月の神の御霊(みたま)をお返しできます。神の加護を受けこの地はより豊かな地になるでしょう。」


「望和様。ありがとうございます。望和様のお力がなければここまでこれませんでした。ようやくこれをお返しできます。」


私は胸元から大切にしまっていたツクヨミの耳飾りをとりだした。あの頃のまま、耳飾りは美しく輝き彼と過ごした短い日々をついこの間のことのように思い出させる。


「それを御神霊として神殿に奉納するのですね。」


「はい。」


出会ったときはまだ少女だったのに立派な女性に成長した。これも月の神の加護か。


「明日はきっと良い儀式になるでしょう。」


「明日はよろしくお願いいたします。」




 晴天の中、儀式は盛大に執り行われた。望和様が祝詞(のりと)を唱え神殿に耳飾りが御霊として奉納された。今ここに月乃神神社に新な息吹が吹き込まれた。


 厳粛に儀式を見守っていた村の人々もその後はありがたいことだとお祝いでどんちゃん騒ぎだった。

みんなの念願がかなったのだ。太鼓や笛の音に合わせて踊り回る若者たち。ふと目を見張ると、同世代の娘たちから声をかけられているツウトが目にとまった。


「いや、俺は...。」


「いいじゃない、今夜くらい。ツウはまだ見習いなんでしょ?」


「それはそうだけど...。」


「抜け駆けはダメよ!わたしだってツウと踊りたいんだからっ!」


ツウトは二人の娘から腕をとられている。彼らの回りには年頃の娘たちが群がっていた。


「まぁ。両手に花ね。ツウトは女子に人気があるからな。」


「桃花。」


振り向くと桃花もツウトを見ていたようで私に話しかけてきた。


「で?あの子たちは師の御眼鏡にかなうかしら?」


「ちょっと。」


「いづれツウトがこの神社を仕切っていくんでしょ。嫁選びは大切よ。」


「うちの娘なんてどう?料理はできるし、男をたてるわよ。」


「あら。」


 話しかけてきたのは村でも一番の恰幅の良い女性だった。彼女の娘は気立ては良さそうだが母親と同じようにガタイはよかった。ツウトが隠れてしまうぐらいだ。


「ツウトはこの村一番の美男子だもの。おまけに明朗快活で聡明でしょ。その上月乃神社の後継者ともなれば女子たちが狙うのも仕方ないわ。私もあんな義理の息子がいたら鼻が高いな。桃花、あっちで美味しいお酒があるの。うちで作った秘伝の酒よ。一緒に飲みましょう。」


 どうやら彼女は母親の桃花から落とすことにしたらしい。桃花は苦笑いをしながらやれやれと言った感じで彼女に腕を引っ張られながら連れて行かれてしまった。


 一人その場に残された私はツウトを見た。「本当に男らしくなった。私と出会った頃のあの人と同じ年。もう大人なのだ。」また過去の思い出にふけっていたわたしの視線に気付き、ツウトが助けを求めるようにこちらに駆けてきた。


「巫女様!俺はどうしたら?」


 ツウトのあとからは娘たちがぞろぞろとついてきた。皆、頬を赤らめ目をキラキラと輝かせている。ツウトは今夜、儀式に参加するため神職用の衣をきちんと身にまとっていた。ただでさえ人目を惹く整った顔立ちにすらっとした容姿なのだ。娘たちが色めき立つのも仕方がない。


「今夜は...。今夜は楽しみなさい。明日からは神に身も心も仕えるのです。今の時間を大切に。」


私の言葉にツウトも彼の後ろにいる娘たちもぱっと表情が明るくなった。


「はいっ、ありがとうございます!巫女様。」


娘たちも口々に礼を述べ、誰がツウトと踊るのか順番を決め始めた。心和ましい景色だった。


「ツウトは巫女様似ですね。」


永羅(えいら)?」


 背後から声をかけてきたのは、私の身の周りの世話をしてくれている永羅だった。年は私と同じぐらいでツウトと同じ年の娘がいる。濁龍の災難後移り住んできた一家だ。永羅は美人とは言えないがとても気立てがよく、女性らしい雰囲気を持っていた。私も彼女とならなんのストレスもなく日々の神事に取り組むことができた。


「うちの娘もツウトに気があるみたいなんですけど。とても地味だし引っ込み思案だから望み薄です。桃花さん、もう一人息子生んでくれないかしら。」


「今息子ができても年が離れすぎじゃない?」


「そうなんですよねぇ。」


 腕を組み参ったというふうに見つめる永羅の視線の先には一人の娘がいた。彼女はツウトと楽しそうに踊りを踊っている娘達を遠巻きから羨ましそうに見つめている。母親の永羅に似て色素の薄い直毛の黒髪に白い肌。切れ長の目は寂しそうな眼差しをしている。大人しそうに見える永羅の娘の海夕(みゆ)だった。



読んでくださりありがとうございます。

続きが気になる、面白かったなど思われましたら、是非是非☆評価、応援よろしくお願いいたします。

楽しんで読んでいただけるようがんばります。

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