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「光夜くん、付き添いご苦労様です。ミコトちゃん、大丈夫そうですか?」
影宮家に着くと翔愛が迎えに出てくれた。俺はミコトはまだ目覚めないことを告げた。
「蛟龍がレン君から離れたのは奇跡です。ミコトちゃんには不思議な力があります。」
翔愛は興奮をしているのか珍しく目を大きく見開いていた。
「そうなのか?」
「普通は離れませんよ。大切な依代ですよ?体から出た後も蛟龍はレン君のそばに寄り添っていたじゃないですか。」
「たしかに...。」
「しかもわたしたちが咲生君から最初に聞いていた蛟龍の様子とは違っていましたよね。もっと醜くおぞましい姿だったはずです。でもわたしたちの前に姿を現した蛟龍はそこまでひどい姿ではなかった。瞳には輝きが戻り、神聖なものまで感じました。」
「どういうことなんだ?」
「わかりません。ただ、蛟龍が浄化されたように感じたのです。」
「浄化。」
それはツクヨミの力だ。どうしてミコトにそれができた?
「蛟龍は今は?」
「この家に古くから伝わる神聖な場所で今も眠っています。影宮さんが蛟龍の依代となるための準備をしています。」
「依代...。やっぱり影宮さんの役割はそうだったのか。」
「わたしたちが現人神であった時代から神がかったことは起こらなくなりましたが、わたしが転生の度に影宮家と繋がりを持っていたので自分たちの役割をきちんと守り続けていてくれたのです。」
「ソウは大丈夫なのか?」
影宮さんはソウの父親だ。とても仲の良い親子に見えた。ソウにはつらい話になるのではないだろうか。
「歯を食いしばって話を聞いていました。ソウちゃんもなんとなく幼いころから話を聞いていたようですね。」
「今は?」
「美路ちゃんがついてくれています。美路ちゃんはとても歌が上手いのです!それを聞きながらソウちゃんは今眠りについています。さすがです。本人は自覚していないようですが、人の心を癒す力がまだ健在のようですね。」
「そうか。うまくいくといいな、影宮さん。」
「はい。」
依代となることが上手くいったとしてもその後のことは誰もわからない。影宮さんは死を覚悟して取り組むのだ。
影宮家の敷地の奥に小さな祠がある。そこは影宮家に代々伝わる地下への入口だ。地中深くに階段が作られ地上から20メートルほど下ったところに大きな広場がある。そこは太陽の光が届かない場所であったがキラキラと輝く不思議な苔が生い茂っていた。まさにその場所に蛟龍が眠っていいた。周りには古来から伝わる結界がひかれている。由緒ある紙札に蛟龍が好む蓮の花びらからとった汁でカナウ様由来の花鳥風月を表す紋様が施されていた。蛟龍の眠りに使われた香も焚き染められている。
「私は今から蛟龍とともにここで時を過ごします。地上への扉は完全に閉じるように一族の者に伝えています。」
「影宮さん。」
「光夜くん、そんな悲しい顔をしないでください。私は嬉しいんです。ようやっと役目を果たせるときがきたのですから。影宮家の当主は何故か代々短命なのです。」
「え?」
影宮さんは目を伏せながら悲しそうに話し始めた。
「それはかつて蛟龍を守り切れなかった天罰だと言われてきました。私の祖父も父も四十になる前になくなりました。私は少し長生きしていますが、もうこの体も持たないでしょう。」
「どういうことです?」
「私の体は癌に侵されています。もう長くはないのです。」
「ソウは...知っているんですか?」
「先ほど話しました。私が役目を終えることで子供の短命を止めることができるのならこんなに嬉しいことはありません。どうか蛟龍が無事に天に帰ることができるよう祈っていてください。」
「影宮さん、大役をお任せいたします。わたし達は見守ることしかできませんが。」
「翔愛さん、今までありがとう。ソウのことを支えてあげてください。光夜くん。蛟龍を育ててくれたレン君に蛟龍は一人ではないと教えてあげてください。」
「必ず伝えます。」
一人地下に残された影宮さんに見送られ、俺と翔愛は地上へと戻った。そこには美路と咲生がいた。
俺たちかつての現人神四人は祠を囲むように手を繋ぎ、蛟龍が無事に天に帰るようしばらく目を閉じ祈りを捧げた。
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