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鱗でざらついた黄ばんだ体、かすかに残った神聖さを宿す金色の瞳。長い尻尾をもったそれはワニのように見えた。
「蛟龍...。」
初めて蛟龍を目にした翔愛が呟く。
蛟龍はぐったりと倒れたレンとミコトのそばに歩みよる。その姿はまるでレンを気にして心配しているようだ。
「ど、どうするの?さっきの騒ぎを聞いて、病院の人、来ちゃうよ?!」
美路が急かした。
「私がなんとかしましょう。」
影宮当主はそう言って胸ポケットから丸いクリームの入れ物のようなものをとり出した。蓋を開けるとなにか練ったようなものが入っている。ほのかに甘い香りがした。中心には蝋燭の芯のようなものがある。彼はそれにライターで火をつけた。途端に甘く気品の高い香りが部屋に充満する。かつての現人神たちは懐かしい感覚に陥った。
「これはカナウ様の木から取らせていただいたと言い伝えられているお香です。代々我が家が大切にしてきた香で邪を払うとされています。きっと蛟龍を眠らせてくれるでしょう。」
影宮当主の言った通り、蛟龍は首を下に置き、目を閉じ眠りについていた。彼はそっと蛟龍の元に歩み寄った。
「さ、今の内に蛟龍を車に移動させましょう。」
蛟龍を病室からつれさったのと看護師と医者が病室に来たのはまさに紙一重だった。病室には光夜と美路が残りミコトとレンに付き添った。レンの母は騒ぎの途中から意識を失っていた。
「二人とも、体に異常なくてよかったね。レン君のところはこれから大変だろうけど。」
美路と光夜はレンとミコトの処置が終わるまで病室を出、廊下で待っていた。
「うん。俺はレンを支えてやるつもりだ。ミコトの弟だしな。」
「そうだね。わたしは影宮さんのところに行くけど、光夜はどうする?」
「俺はミコトについてる。もうすぐミコトのお母さんも来るだろうから。その後でむかうよ。」
「なんか修羅場になりそうだけど...。がんばってね。」
美路はレンとミコト、それぞれの母が顔を合わせたときのことを想像して身震いした。そして翔愛たちに合流すべく影宮家へとむかった。やはり蛟龍のことが気になるのだろう。光夜は美路と別れミコトの病室にむかう。
光夜も蛟龍のことが気になったがミコトのことも気になった。かなり体をぶつけていた。服の上からは見えないが、至る所に内出血の跡があるのではないだろうか。ミコトの瞼は重く閉ざされたままだ。
しばらくするとドアがノックされた。ミコトの母と出会うのは毎回病院だなと光夜は思った。
「光夜くん、ミコトになにがあったの?」
光夜は前世と蛟龍のことは伏せ、ミコトとレンの最近のできごとを話した。体をぶつけた件に関してはレンとレンの母親を引き離そうとして壁に強くぶつかったとごまかした。レンとの件がよっぽど驚いたのか、ミコトの母は光夜の話を信じた。そしておろおろしだした。その様子から、彼女がレンの母親にたいして苦手意識を持っていることは明らかだった。
「俺はレンとも仲がいいんです。レンはミコトを姉として慕っていました。仲良くしたかったんです。ミコトは悪いことはなにもしていません。」
「そう...。あの...どんな子なの、レン君って?」
「普通ですよ。俺と変わらない。とても優しくて。」
「そう。」
彼女は光夜の話を聞いてほっとしたのかようやくベッドの前の椅子に腰をおろした。光夜はミコトが目覚めるまでそばにいたかったが、蛟龍のことも気にかかった。なにせ前世での因縁がある。ミコトが目覚めたら連絡をくれるようにミコトの母に言付け、光夜は病院をあとにした。
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