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レンの母親はわたしの顔を見た途端、般若のよな形相になった。そしてすごい勢いでわたしに飛び掛かってきた。「こわいっ!」そう思った瞬間、わたしの前に光夜が飛び出した。
パチンッ!
光夜はわたしの代わりに彼女からの平手打ちを頬にくらった。
「あなた...。」
「光夜...。」
「ミコト、大丈夫だ。レンのお母さん、レンは白宝を探していたんです。俺たちはみんなで一緒に白宝を探していて。」
光夜の言葉にレンの母親は病室にいるわたし達一人ずつを確認した。翔愛、咲生、美路、そして影宮さんを。
「この度はわたしがついていながらこんなことになってしまって。なんと言葉をかけたらいいのか。」
この状況に大人である影宮さんが対応してくれた。
「あなたは?」
「わたしは龍里の自治会長をいたしております影宮と申します。子供だけでは心配なので一緒におりました。」
「そう...ですか...。それはいいんですけど...。」
一瞬気のぬけたような感じになって言葉を発したレンの母は、またわたしがここにいることを気づいたようになり、再び憎しみの眼差しをむけわたしを罵り始めた。
「どうしてまたあなたがここにいるの!この疫病神!!約束を破ってよくも現れたわね!!」
わたしを指さし怒鳴り始めたレンの母は鬼気迫っていた。あまりの豹変にわたしは身に危機感を感じる。どう見ても彼女の様子は普通ではなかった。
「鱗を浴びたのかもしれません。」
翔愛がぼそっと影宮さんに口添えをした。「鱗?」と思った瞬間大きな音が響いた。
ガシャンッッ!!
わたしの注意が一瞬レンの母からそれた瞬間、ベッドのそばにあった水差しがものすごい勢いでわたしめがけて飛んできた。
「光夜!」
光夜はまたわたしをかばい、壁に当たって砕けたガラスの破片を手に浴びた。彼の手から鮮血が滴った。光夜はとても落ち着いていて、水差しを投げたレンの母を黙って睨み返した。
「な、なによ!」
光夜の眼力に 怖気づいたレンの母は数歩、ベッドの方に後ずさった。
「ひっ!!」
レンの母の驚きの声とともに彼女の視線の先を見つめると、レンが目を閉じたまま彼女の手首を握っていた。
「レン?」
母親の呼びかけにレンがぱっと目を開けギロっと彼女を睨んだ。
「レン?痛い、痛いわ...。」
「ウルサイ、オマエイラナイ!ジャマ、ジャマ、ジャマ!」
レンの目は血走り、口から泡を吹きながら普段とは違う声で怒鳴り散らした。その顔はなにかに取りつかれているようだ。
「蛟龍です!濁龍になりかけたまま同化したので、負の感情に支配されています。血の匂いで目覚めたのでしょう。」
「ええっ!目覚めたのらいいけど…。どうすりゃいいんだよ?」
咲生があわてふためきみんなの意見を確認する。しかし当然だがこの状況にみな動けずにいた。かつては現人神であっても今は普通の小学生だ。どうすることもできない。レンの母の手首にはレンの爪があり得ないほど食い込み、血がぽたぽたと流れ始めた。「どうしよう...どうすれば...。」白宝を知っているのはわたしだけだ。わたしなら、なんとかできるかもしれない。わたしはゆっくりとレンに近づき、手首をつかんでいる彼の手にそっと触れた。レンの手はとても熱い。
「レン、白宝...、わたしよ、ミコト。この手を離して。この人はレンのとても大切な人なの。お願い。」
「イヤ、イヤ、ギィャ。」
レンにとりついている白宝はあり得ないようなおぞましい声で反応する。
「白宝、レンが悲しむから。」
「ギィ、ギィ、ギィッ!!」
一瞬掴んでいる手が緩んだ。わたしはさっとレンの手を掴んだ手から引き離した。彼女の手は強くつかまれた内出血の跡と爪の生々しい傷跡があった。
「アツイ、アツイ、イタイ、ハナシテ!」
レンの手を持ったままのわたしにレンの体を使って白宝が泣き叫び請う。もしかして、このまま白宝をレンの体から引きはがせる?わたしはなぜかそう思ってレンを思い切り抱きしめた。
「ギィー、ギィー、ギィー、ギィー!!アツイ!アツイ!!」
すごい力でレンはのたうち始めた。わたしはレンと一緒にベッドから転げ落ち、思い切り背中を床にぶつける。痛くてたまらない。でもわたしはひたすらしがみついた。今はこうすべきなのだとわたしの中のなにかが訴える。あちこあち転げまわられ、わたしは体中をぶつけた。レンの内にいる白宝の拒絶は凄まじいものだった。
この騒ぎにとうとう看護師が病室を覗きに来た。「もう時間がない。レン、戻って、お願い。」
その瞬間、ぐたっとレンの体重がわたしに乗りかかる。なんとか目を開け部屋を見るとそこには薄汚れた白宝がいた。川岸で見たときよりも色は綺麗になっていた。わたしが記憶している姿に戻っている。懐かしい金色の瞳...。
「白宝...。」
わたしはそのまま意識を失った。
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