追憶6
羅臼がのろのろと家に足を踏み入れた。朱鷺は死んでいた。多数の男に犯され、腹の中の子も一緒に死んだ。生前の彼女の姿が分からないほど朱鷺の姿は変わり果てていた。辺りは朱鷺の血の匂いが充満している。心の弱い羅臼は目の前で泣き叫ぶ鶴奈に全ての怒りをぶつけた。
「おまえのせいだっ!おまえのっ!!」
泣きじゃくる鶴奈を引っ張り上げ容赦なく何度も顔をぶつ。鶴奈の顔は腫れあがり、鼻血が垂れ口も切れた。
「おまえは疫病神だ!おまえは呪われているっ!おまえのせいで!」
「ぐっぅっ!」
突然、首元に激痛が走った。チビが羅臼の首に咬みついたのだ。チビの姿は鶴奈の背丈と同じくらい子供ほどの大きさになっており、後ろの二本の足で立っていた。うろこは茶色く触れると肌を引き裂くほど鋭い凶器となっている。憎しみのこもった目で羅臼の喉元に食らいつきそのまま羅臼の身の一部を引きちぎった。羅臼の首元から血しぶきが飛んだ。
「どういう...。」
わけが分からないという目でチビを見つめたまま横たわった羅臼はすぐになにも感じなくなっていた。羅臼の手から解放された鶴奈は今にも途切れそうな細い呼吸をしていた。チビは彼女を抱きかかえるように口でそっとくわえた。その時背後から力強い手で体を掴まれチビは鶴奈から引き離された。
「さっきの蛇か?急に成長したのか?」
外でチビの姿を見失った増毛が、家の中で物音を聞きつけ戻ってきてしまった。
「チビ...返して...お願い。」
鶴奈はチビが連れ去られてしまうと思い、意識朦朧としながら倒れたまま呟いた。
「ああ?うるさいガキだ。なんだこいつ?バケモノみたいな顔しやがって。」
増毛は鶴奈の顔を見、悪態をつきそのままその場から立ち去ろうとした。
「行かないでっ!チビを置いていって!!友達なの。お願いっ!!」
鶴奈にはもうチビしかいない。残る気力を振り絞り、ボロボロの体で鶴奈は増毛の足にしがみついた。チビも必死に増毛の手から逃れようとするが、今の体では増毛の方が力が強く、逃れることは無理だった。
「うるさいガキだっ!」
増毛は足を払い鶴奈を蹴り上げた。彼の足は鶴奈の腹に命中し、肋骨が折れ内臓が破裂する音がした。それだけでは飽き足らず、増毛は膝をつき腹に手を当てもだえ苦しむ鶴奈を腰に差していた刀で引き裂いた。
バシュッッ!!!
赤い鮮血が家じゅうの壁に飛び散る。まだ暖かい鶴奈の血はチビにも振りかかった。
「チ..ビ...。」
鶴奈は絶命の瞬間にチビの名を呼んだ。倒れた鶴奈はピクリとも動かない。
命が消えていく...。愛しい人の命が...。自分の半身。愛する人の断末魔とその血を浴び、チビの内側で激しい変化が起こった。
『サミシイ、カナシイ、クルシイ、クルシイ..。』
『ニクイ、にくい、憎い!!』
人に恐怖を与える咆哮が轟き、チビの体は二倍、三倍へと巨大化した。チビの顎は強靭な刃が生えそろい目の前の増毛をその刃から身を守ろうとした刀ごと食いちぎった。バラバラになった増毛の体ごと丸のみにする。体は長く伸び、その胴体を支える四つの足も頑丈なものに変化した。その姿は龍そのものだった。中の様子を見に来た増毛の部下たちも全員引き裂き丸のみにする。辺りは血の海と化す。
怒りと憎しみに支配されたチビが求めるのは鶴奈の微笑みだけだった。
『鶴奈、どこ?会いたい。』
チビの体は急激な体の変化のため煮えたぎっていた。
『熱い。』
チビは息絶えた鶴奈には目もくれず一人川へむかった。
いつの間にか月は雲に隠れ外は雨が降り始めていた。濁龍となったチビが這いながら川へと向かう。血の跡を雨が流していく。
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