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レンは自分の中にモヤモヤとした嫌な気持ちが芽生えたことを自覚した。あの男子はミコトにとっていったいなんなのか?女子たちが騒いでいるような仲なんだろうか?レンは姉であるミコトとようやく仲良くなれたのに、その姉を奪い取られたようでとても嫌な気持ちになった。ミコトも弟である自分と仲良くなれて少しは喜んでくれていると思っていたが、それは思いちがいだったようだ。自宅に着き、自分の部屋に入り机に向かう。レンはとても気が立っていて、無性にすべてぐちゃぐちゃにしたい気分になった。机の上のものを両手ですべて床に落とした。
「くそっ。」拳で机をたたく。
ガタガタッ。
白宝の箱の方から大きな音が聞こえた。レンは自分がやってしまたことで、白宝が驚いてしまったのではと慌てて箱を開け中を確認した。白宝は嘔吐していた。美しい紫の艶は陰り、白いうろこはくすんでいた。弱々しくぐったりとし、吐いたたもののせいか、溝のような悪臭がした。
「白宝っ!」
レンはそっと白宝を持ち上げ箱から出した。吐しゃ物で汚れた体を綺麗にふいてやり、箱も掃除し、そっと白宝を箱にもどした。体をなでてやり声をかけるが、ぐったりとしたままだ。
「白宝、元気になって。おまえまで俺から離れないでよ。」
レンは唯一の友達に優しく声をかけ続けた。
明くる日、白宝の状態は昨日よりいくらかましになっていたが、相変わらずぐったりとしたままだった。レンは白宝を置いて学校に行くのは気がのらなかったが、学校を休めば母親にまたなにを言われるかわからなかったので、後ろ髪をひかれる思いで登校した。
レンはその日は白宝のことが気になってずっと時計を見っぱなしだった。掃除の時間も気が気でなく一人ほうきを持ったままぼぉっとしていた。
「レン、大丈夫?」
「え?」
ミコトがレンに声をかけてきた。彼女はレンと同じようにほうきを持っている。不思議な目でレンが見ているとミコトが説明を始めた。
「今日はハナが委員会で掃除できないから交代したの。レン、今日ぼぉっとしているよ。なにかあったの?」
ミコトが自分のことを気にして声をかけてくれたことがレンは素直に嬉しかった。彼女は学校では授業で関わる時以外は決して話しかけてはこない。それは自分も同じだったが。レンは白宝のことをミコトに伝えた。
「え?それは心配だね。病院に連れて行った方がいいのかな?」
「母さんにうるさく言われる。今日、母さん帰りが遅いんだ。ミコト、白宝のこと見舞ってくれない?」
「わかった。学校帰りにレンの家によるね。」
ミコトはあっさりレンの誘いを了承した。放課後、ミコトは約束通りレンの家を訪ねた。ミコトの目にも白宝は確かに弱っているように見えた。なんだかとても嫌な臭いがするし、綺麗な紫の艶はなくなってしまっていた。
「触ってもいい?」
「うん。」
ミコトはレンの了解をとってそっと白宝をなでた。ひんやりとした肌で、弱っているからか感触もザラザラだ。ミコトがしばらくそうやって優しく撫でていると、白宝が不意に首を持ち上げ、二人の顔を見た。
「ちょっと具合よくなったのかな?」
白宝の目は生気を取り戻したように見えた。くすんでいた肌の色が透明感のある白を取り戻し、まだ弱いが少し紫に艶めき、さっきまでの嫌な臭いがしなくなっていた。
「こいつ、きっとオスだな。ミコトが好きなんだ。」
「ええっ、なによそれ。」
二人は顔を見合わせて笑った。白宝が少し元気を取り戻して、レンも気持ちにゆとりが戻った。ミコトとこうして話すのも久しぶりだ。レンはミコトがこの間一緒にいた他校の男子が誰なのか聞くべきか迷った。兄弟なんだから、別に聞いてもいいよな?こういうことって聞かれるの嫌なのか?などなどレンは思案したが、思い切ってミコトに聞いてみることにした。
「女子たちが以前騒いでいた他校の男子、ミコトの知り合いなの?」
「えっ?」
レンのこの質問はミコトにとっては予想外の質問だったらしい。
「言いたくなければ別にいいんだけど。」
「うん...。友達なの、たいせつな。そうだっ、今度レンに紹介するね。弟がいるって伝えてあるから。でもレン見たら驚くんだろうな。こんな大きな弟だなんてきっと思っていないだろうから。」
ミコトの表情が花が咲いたようにぱっと明るくなった。ミコトはあいつのことが好きなんだ。 レンはミコトがあの男子のことを話す素振りを見てそう直感した。でも以前公園で二人を見たような嫌な気持ちにはならなった。ミコトは自分のことを弟として認識してくれていた。そして好きな相手に自分のことを話していたのだ。それが嬉しかった。
「うん、今度紹介して。」
白宝の箱からは蓮の強い香りが漂っていた。
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