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「はい。はい。わかっています。レンにはきちんと伝えておきますので。」
「はぁ」とため息をついてレンの母親は電話を切った。その様子をレンは自分の部屋のドアに耳をあて聞いていた。
母親がレンの部屋に近づいてくる。レンはさっと机に向かい、椅子に腰をかけ勉強をしているふりをした。
「レン、入るわよ?」
「なに?」
「この間の琴の発表会、あまり良くなかったってお義母さんから今電話があったわ。調子悪かったの?」
「うん、ちょっとね。」
「ちゃんと練習しているの?最近あまりやってないんじゃないの?友達と仲良くするのはいいけど、やることはちゃんとしないと。近々コンクールもあるし。レンの実力なら上位も目指せるんだから。」
「わかってる、ちゃんとやるよ。」
レンは振り向き母親を安心させるために笑顔で答えた。
「そう。もうすぐ夕飯できるから。」
レンは実際の所、最近琴の練習ができていなかった。レンの幼い時から思い続けていた夢が最近かなった。琴はその夢をかなえるための手段の一つにすぎなかった。今、姉であるミコトと仲良くなれ、琴を弾き続ける理由がレンにはなくなってしまっていた。「まいったな。気持ちが入らないと琴を弾いたって上達なんてするはずがないし。」レンは部屋に置いてある白宝の箱を覗いた。白宝はレンの気持ちはわかっているというふうに彼の瞳を見つめていた。
今日は母親が遅番で帰りが遅い。ミコトにそのことを伝えようと思ったが、学校では教師の目があるのでレンはなかなかミコトに話しかけることができなかった。帰りになんとか機会をみつけてミコトを捕まえようと思ったが、ミコトは用事があるのかさっさと帰ってしまった。
ミコトは忙しそうで最近はレンの家を訪れていない。そもそもこの間会ったのは偶然で、その次の機会はその時に母親のシフトが分かっていたから次はこの日にと約束をして別れたのだ。その後はまた機会が合えばということできちんと約束をしたわけではなかったから仕方のないことなのだが。こんなことなら連絡先を交換しておけばよかったとレンは後悔した。
レンはいつも通りお気に入りの蓮の花がある公園の前を通り家にむかっていた。ふと公園の方に目を向けるとそこにはミコトがいた。しかし、彼女は一人ではなかった。誰かと一緒にいる。レンは気になり、ミコトが会っている相手の顔を見るために気付かれないようにそっと二人に近づいて行った。
「今日は休みだったの?」
「創立記念だ。ミコトの学校はいつ?」
「いつだったかな?いつも休みだから嬉しいのに覚えてなくて。」
「はははっ、ミコトらしいな。」
おそらく他校の男子だろうか、この間まで女子が騒いでいた男子の風貌に合致する容姿。その男子とミコトがとても仲睦まじく会話している。会話自体は他愛のない内容だが、完全に二人の世界だ。二人の間には誰も入り込めない。ミコトがあの男子に会うために急いで帰ったのだと思うとレンは心の中にどす黒い思いが生まれるのを感じた。ここにはいたくないと思いレンは速足でその場を後にして家に向かった。
「どうしたの?」
光夜がなんの前触れもなく通りの方に目をむけた。またなにか感じたのだろうか。わたしは心配になった。
「大丈夫?」
わたしの問いかけに光夜がやっと反応した。
「なんだかすごく嫌な視線を感じたんだ。気のせいかな。」
「蛟龍のこともあるし心配だよね。どうやって見つけたらいいのか。」
「そうだな。またみんなと相談しないと。」
わたしはまだ目にしたことのない蛟龍が本当にいるのかとやっぱり思ってしまう。ツクヨミの剣の力で不思議な体験はしたが、蛟龍については夢でも姿を見たわけではなかったので現実味がなかった。
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