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「レン、最近家に誰か来ているの?」
「え、どうして?」
「やけにジュースの減りが早くない?レン、普段そんなに飲まないでしょ?」
「あ、そうだった。友達がたまに来るんだ。」
「友達?できたのね、よかった。今度母さんにも紹介してよ。」
「今度ね。」
「それから、お琴の練習、ちゃんとやってる?友達と遊ぶのはいいけど、お琴はさぼらないでよ。嫌味言われるんだから。」
「わかってるよ。勉強するから。」
レンは母親の煩わしい追及を逃れるために自分の部屋へ退散した。
「はあぁ...。」
ため息をつき、白宝の箱に近づく。蓋を開けると白宝はレンが来るのを分かっていたように頭を上げていた。蛇とは思えない知的さを感じる二つの金色の目がレンを捕らえる。
「お前がいてくれてよかった。母さんはミコトのところを意識しすぎなんだ。もう父さんはいないのに。ミコト、知ってるだろ?俺の姉さんで友達だ。」
レンはそっと白宝の体に手をそえ、優しく撫ででやった。白宝の体は白く、美しい紫の艶がきらめいていた。
「お前がいなかったらミコトとも仲良くなれていなかった。ありがとうな。」
レンは白宝を優しく見つめながら昔のことを思い出していた。
父親らしい人に会ったのは数える程度で、その人は普段から家にいない人だった。レンは自分の家は特殊なのだと幼いながらに思っていた。物心がつくころにはレンは母親に琴を習わされた。母親は二言目には「レンは父さんにそっくり。琴の弾き方まで同じ。きっと琴は誰よりも上手くなる。」と言っていた。
レンは怜悧な性質で、琴の上達は早かった。琴は嫌いではなかったが、好きというわけでもなかった。ただ、上手にひくと母親が喜ぶからという理由だけでレンは琴を弾き続けた。
「レンはあの子より優秀よ。あの人の血を色濃く継いでいるのはレンよ。」
小学生になった時、レンは偶然母親とその姉が話をしているのを聞いてしまった。
「レンは琴が好きなの?サッカーしたいって私に言っていたわよ?」
「あの子に負けたくないのよ。美琴だなんて。お義母さんもどうしてそんな名前を付けたのかしら。全く才能なんてないんだから。」
「それは初孫で、女の子だし継がせる気だったんでしょ。あなたたちのこと知らなかったんだし。腹立てても仕方ないわ。」
「レンの方が優秀だってこと、お義母さんにわかってもらいたいだけよ。顔立ちだってあの人に似ているんだから。」
二人が話していたミコトとは誰なのだろう。母親に尋ねてもきっとごまかされるはずだから、レンはよくかわいがってくれる母親の姉に聞いてみることにした。
「レン、聞いていたの?」
「ミコトって誰?悪いやつ?」
「違うの、これ絶対に秘密ね。レンのお姉さんよ。」
「えっ!」
叔母の言葉にレンは衝撃を受けた。父はなく、父の母である祖母は厳格な人だった。母の両親はとっくにこの世を去っており、レンが心を許せる親族はこの叔母ぐらいだった。妹か弟が欲しかったが、一人でレンを育てる母親はとても忙しそうで、それは望めないと諦めていた。急に自分に姉がいると聞いて、レンの心は浮きたった。
「どんな人?」
「あのねぇ...。少し複雑で。お母さんが違うのよ。だからレンより四カ月年上なの。」
「それでも姉さんなんでしょ?」
「まぁ、それには変わりないけど。」
「会いたいっ、会っていっぱい遊びたいっ。」
「それはちょっと難しいかな。でも琴の練習を頑張ればいつか会えるんじゃない?ミコトちゃんも琴をおばあさんに習っているらしいから。」
叔母はミコトに会いたがる幼いレンをなんとかたしなめるために言った言葉であったが、レンはこの言葉を信じ、ずっと琴の練習に励んできた。琴が上手くなれば、姉さんに会える。仲良くなってたくさん一緒に遊んですごすんだと琴の練習に励んだ。
祖母から今日紹介したい人がいると言われた時にはいよいよなのだと気持ちが高鳴った。姉はどんな人なのだろうかと。隣の部屋で祖母と姉のやり取りを聞き、彼女の琴の音を初めて聞いた。姉の琴の音は上手ではなかったが、かわいらしい音だと感じた。彼女の奏でる音にとても親しみを感じたのだ。
「レンさん、いらっしゃい。」
ふすまを開け隣の部屋に視線を向けるとそこには小柄な女子がいた。とてもかわいい顔をした子だ。この子が俺の姉さん。彼女は自分のことを知らなかったらしく祖母から詳細を聞いて驚いているようだった。姉の帰り道を送るよう祖母に言われ一緒に歩いたが、彼女の様子は暗くとても話しかけられるような雰囲気ではなかった。そんな時に彼女と同じ学校への転校が決まった。
「月生って子がいるけどあまり関わらないようにね。」
「どうして?姉さんだから?」
「レン、知っていたの?叔母さんから聞いたのね。よくない影響受けたくないから。琴の跡継ぎ、レンに決まって向こうはおもしろくないだろうから。放っておくのよ。」
母親はレンにこう話したが、学校でミコトがレンに近づいてくることはなかった。レンも学校でミコトと関わり教師から母親にそのことが伝わるのが嫌だった。せっかく会えた姉に自分の素直な気持ちを伝えることができずに悶々としていたら、あの日偶然ミコトに出会った。自分でも意外なくらい、普通に姉の名を呼び、接することができた。白宝は二人の秘密だった。
ただ、最近ミコトと噂になっていた男子のことが気にかかる。この間暗い顔をしていたのもそのせいなのだろうか。レンはせっかく兄弟らしく仲良くなったミコトとの仲を誰にも邪魔されたくなかった。
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